おはなし | ナノ 3歩足りない2



私の一族は鋼鉄の皮膚ではあるが、丈夫というだけで、死なないというわけではない。
その証拠に叔父は合戦場で無数の刃に斬りつけられた末失血死したし、祖母は流行り病で亡くなった。
そこから知恵を得て病で看病コースを狙ったこともあるが、私は一族の血を特別濃く継いだのか何処かで突然変異が起きたのか、風邪ひとつひいたことがない。真冬の寒風摩擦?鳥肌が立つだけでした。


もしや死ねない体なんじゃないだろうな、と疑ったこともあったが、杞憂であったと笑った。
笑った拍子に、腹に激痛。


なんてことない学園周辺オリエンテーリング。忍務でもなんでもない、ただ学園長の思いつきで始まったいつものおふざけ企画。
私はその最中、死にかけていた。


「こ、こんな、とこで…死んでっ、たまるかー…」


奮う言葉も掠れて切れ切れ。湧き出る血は鮮やかでちょっと量多すぎない?と自分の体にツッこんだ。
学園長を狙う殺し屋の手離剣を弾いて、級友達を逃がしたまでは良かった。あとはいつも通り刃を弾きながら、殿(しんがり)を務めて逃げるだけ。
たぶん悪い要因が重なりすぎていたんだと思う。
学園長や先生方は他の殺し屋や乱入してきたドクタケ忍者達にかかりきりで、他の侵入者にまで気付かなかったこと。さらにその侵入者に、教師と別れて行動していた二年は組が遭遇してしまったこと。二人一組の殺し屋の片割れが、恐ろしく切れ味のいい刀を持った剣豪だったこと。
お前こんな仕事してないで何処かに仕官しろよ、と言いたくなるほど綺麗な太刀筋は、まっすぐ私の腹を突いてきた。


命からがら逃げ出してきた私は、医務室の傍で力尽きた。もう立ち上がる気力もない。
生徒や先生はオリエンテーリングで外出していて、学園はいつもの喧騒が信じられないくらいしんと静まりかえっていた。
居残っている先生方が気付いてここに来るまであと少しだろう。…いや。塀を越えてきたから、入門表を持った小松田さんが来る方が先かな。


どちらにせよ私は、残った力を振り絞って這いずるだけだった。
知っている。知っているんだ。今日は左近くん、体調が悪くて医務室で待機してること。
風邪かな。心配だな。お土産に花を摘んで行こうと考えてもいた。
あと少しで、あの軽蔑の眼差しに出会える。冷たくて、でも心配が見え隠れする可愛い瞳に。


ああでも、もう動けない。
頼むよ、あと少しでいいんだ。あの目を見るだけで。握りしめたこれを、渡せるだけで。
大好きだと、告げるだけで。
私は霞む視界を必死に凝らし、戸を見上げた。


(ああ、残念だなぁ)



3歩足りない



(「---?」)
(最後に私の名を呼んだのが、君であれば嬉しい)




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落乱ゆめ企画「融解」さまに参加させて頂きました。
テーマが悲恋ということで「ならば左近しかいないだろう!」と私の中の熱きパトスをぶつけた結果がこれです。すいません。
でも楽しかったです。

管理人の山田様、参加させて頂きありがとうございます。
そして読んで頂いた方々に…「大好きだ!」

おまけ


2010.05.25
うそつき/おろく



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