おはなし | ナノ おさなづま3



「皆本金吾はいるか!」


戸を蹴破らん勢いで開けた俺に突き刺さる視線・視線・視線。
呆気にとられた様子でチョーク片手に固まる土井先生から眼鏡をかけた子、鼻水を垂らした子、抜け目のなさそうな吊り目の子と順に視線を移していくと、後ろの方でおずおずと手が挙がった。


「ぼ、僕、です…けど…」


何の御用でしょう?見知らぬ先輩に名指しで呼ばれたんだから警戒もするだろう。恐々とした、目的を探る目。
頭巾から面白い前髪の出方をしている『皆本金吾』は、目鼻立ちがしっかりしていて、数年後には美丈夫になりそうな子だった。
この子があの肉じゃがを作ったのか。俺がこのくらいのときには、学園壊滅寸前の原因として料理をする事を学園長直々に禁止されたものだが。


俺が『皆本金吾』に近付くと、周りの子がわらっと群れてそれを阻んだ。


「先輩!金吾に何の用ですか」
「はにゃ〜、金吾は何も悪いことしてませ〜ん」
「火薬壺割ったのはぼくたちです〜」
「あ、しんべヱ、それ言っちゃダメって…!」
「あれお前達の仕業だったの!?」
「伊助ちゃん怒っちゃいやん」
「ちょ、そこに正座ぁぁぁぁぁ!!!!」


何やらコントのようになって襲ってきた言葉をべりべり引き剥がしていると、土井先生が俺の肩を掴んだ。


「名字、金吾に用事か」
「ああ、はい。授業中に押し掛けて申し訳ありません」


上級生による公然とした下級生苛めだとでも思われたんだろうか。
何か言いたげな瞳に丁寧に頭を下げると、誤解も解けたようでほっと息を吐かれた。
はは、やだな先生。俺は苛めなんてしませんよ。


「君が皆本金吾?」
「は、はい」


にこやかな俺にようやく落ち着いたのか、幾分緊張しながらもしっかりした返答が返ってきた。うん、その生真面目な様子も良いね。安心して家を任せられそうだ。
俺はここに来るまでに摘んできた野花で作った花束を片手に、『皆本金吾』の前に跪いた。



「運命を感じました。僕と結婚して下さい」
「……………は?」



数秒後、『皆本金吾』が石化から解けたと同時に、うわんと広がった一年は組一同渾身の大声で教室が揺れた。



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