おはなし | ナノ
おさなづま1
俺の母親は酷い。
何が酷いのかと言うと、壊滅的な家事能力のことである。
洗濯をすれば衣服をかぎ裂きだらけにし、掃除をすれば家に穴を開ける。
特に酷いのは料理で、俺が生まれて今まで鍋を焦がさなかった日はない。
俺は破れ目だらけの布切れを纏い、隙間風だらけの家で焦げた雑巾汁みたいな粥を啜りながら幼少期を過ごした。非行に走らなかった俺偉い。今思い出しても泣きそうだ。あの頃の俺にエールを贈りたい。
あと少しだ名前。あと少ししたら祖父ちゃんの遺言で忍術学園とかいうとこに放り込まれるからな。
お前は初め捨てられたと思って泣いてしまうだろうが、すぐ気付くよ。
その学園が天国みたいな所だって。
破れてない衣服、割れてない洗濯板、穴の開いてない部屋、綺麗好きな同室者。
何より、食堂のおばちゃんの美味しいご飯!
俺は三日でホームシックを捨て去った。むしろ長期休みに帰ることを渋ったくらいだ。
お袋が嫌いなわけじゃない。
家事は壊滅的だが愛情には溢れているし、俺や親父のためにと頑張っている。ただその頑張りが更に裏目に出ているのだが。
親父はお袋のそんな所もひっくるめてべた惚れのようで、ツギハギの服を来てにこにこしながら日々胃に悪そうな焦げ飯を頬張っている。愛だ。
だが俺は、もうあんな生活は嫌だ。
そこそこ綺麗な縫い目の服を着たい。せめて風の避けられる部屋で眠りたい。何より美味しいご飯が食べたい。
俺がやればいいのでは、と家事に挑戦したこともあった。が、体に流れる血の力か、結果は惨々たるもので。
いや、壁は壊さなかったし衣服も一応無事だったが…料理は一時期大量殺戮兵器として名を馳せた。
そうして未来に絶望した俺は考えた。
嫁御を貰えば、家に戻らなくてもいいし、美味しいご飯にありつけるんじゃなかろうか?
(…これだ!)
かくして俺は下級生の時から嫁を探していた。
なに、理想は高くない。
美人でなくていい。話上手でも、床上手でもなくていい。
ただ美味い飯を作れるだけでいいんだ。
それだけで、きっと俺はその相手を生涯愛していけるだろう。
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