おはなし | ナノ
小夜啼鳥に恋をした



「はい、この薬を塗れば痛いのなんてどっか行っちゃうよ」

「少し熱があるね…食堂のおばちゃんにお粥を頼んでおくから、今日はもう部屋で寝てるように」

「ああもう!喧嘩は駄目だって言ったでしょ!?」


善法寺伊作くんは不運揃いと名高い保健委員の委員長で、「三歩歩けば不運に当たる」と噂される人物だ。
六年間保健委員を務める彼の医療技術は中々のもので、現在は校医の新野先生に次ぐ腕前とも言われている。
優しい性格で怪我をしている人を放っておけず、戦場で手当てに奔走して補習になることも暫々。
容姿も整っていて、くのたまからの人気も高い。


そんな善法寺伊作くんは、僕にとって…








「あ、名字。この間の怪我はもういいのかい?」
「もうすっかりさ。本当に善法寺くんの軟膏はよく効くねぇ」
「ふふ、褒めても何も出ないよ?」


授業のため廊下を移動する僕に、笑顔で声を掛けてくれた善法寺くん。
次は座学なのだろう、手には忍たまの友と矢立。彼の教科書はいつもボロボロだ。それは彼が不運に負けず、必至に勉学に励んでいる証である。


「名字は次、組手だろ。怪我しないように気をつけて」
「ありがとう。じゃ、また」
「またね」


うふふあははと手を振りあって別れ、それぞれ歩き出す。
僕はにこにこと緩む頬を抑えきれず、角を曲がった瞬間、



ブッバァァァァァァァッッ



盛大に鼻血を吹いた。


「ぎゃぁぁぁぁ!?」
「やあお留。手拭い持ってない?」
「おま、それ手拭いで拭いきれるレベルじゃねぇ!廊下に赤い川できてんじゃん!」
「そしてその流れはいずれ大河となり海となりて僕の思いを後世に伝えるであろう…そう、『伊作くん大好きー!』と…」
「物語調で言っても全然格好良くねぇよ!!」


「ったくもうお前はいつもいつも…」とかぶつぶつ言いながらも手拭いで鼻を拭ってくれる辺り、コイツは名の通り乙女だと思う。もしくは保父だ。
僕の鼻血で朱染めのようになった手拭いを見ながら、僕は先ほどの天使の笑顔を思い出す。


「ああっ…室町のナイチンゲール!」
「意味わかんねぇ」


可愛く優しく格好良く優しい善法寺伊作くんは、僕にとって女神みたいな人だ。男だって?いいじゃないか男で女神。室町のナイチンゲール。白衣のナース。心ときめくフレーズです。


ともかく僕は彼に夢中で、彼に淡い片思いをしてるってこと。



小夜啼鳥に恋をした



(何処が淡いんだよ!人の親友相手に不埒な事考えんじゃねー!)
(伊作たんギザカワユスハァハァ(^q^))
(日本語喋って!)



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