おはなし | ナノ 右肩の巣穴



体に君の巣がある、この嬉しさ。

僕の右肩に昔からある、奇妙な穴。その穴に君がいたのです。その穴で君が産まれたのです。
段々と大きくなった君はこの穴に入る事が出来なくなって、巣立ってしまいました。僕は悲しみにくれました。
毎日毎日、君のいない穴を見て泣きました。森を探しました。川を探しました。でも君はいないのです。
僕は君の巣を大きくすることにしました。君がまた入る事が出来れば、この巣に帰って来てくれるでしょう?
毎日少しずつ、少しずつ、木の棒や自分の指で押し広げました。骨に当たって血が出て、じくじく痛みましたが、大きくなっている痛みだと思うとそう気にはなりませんでした。
それでも君の大切な巣でしたので、血を水で洗い、薬草を刷り込みました。住み心地は上々だと思うのです。穴も少しずつ広がっているような気がします。なんなら暮らしやすいように、底に藁でも敷こうじゃありませんか。

あとは君が帰って来てくれるだけなのです。








ああ嬉しい、なんて嬉しい。
親に入れと言われた学校で、僕は君に再び会う事が叶いました。君が消えてから、ずっと探した森に川に家に穴。いないはずです。こんな所にいたのですね。

ああ、ああ。右肩が酷く疼きます。
毎日毎日毎日毎日、広げて大きくしましたよ。
毎日毎日毎日毎日、血を洗い薬草を刷り込みましたよ。
藁はまだ敷いてないけれど、いずれ調達してきましょう。だからほら、


「×××、僕の愛しい子、お帰りなさい!」
「……ジュンコに何をする!」


愛しい君を抱きしめようとしたら、変な奴に突き飛ばされてしまいました。
これは誰ですか。
僕の君を僕の巣穴で産まれた君を愛しげに柔らかに撫でるそいつは、誰ですか。



ジュンコって、どういうこと、×××?



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