おはなし | ナノ
拍手ログ09/一平



「一平ちゃん、こっちおいでぷにぷにすっから」


この無神経な委員長のことが、ぼくは大の苦手。
自分が少しぽっちゃりしてることは分かってるし、そう気にしていないつもりだ。
でもこの先輩は事あるごとに僕のほっぺをぷにぷにぷにぷに…なんなんだぼくに何を思い知らせたいんだ。
今だっていつのまにか藁の上に寝そべってぼくを手招きしている名前先輩。ぎりりと睨みつけるけど、悲しいかなぼくの顔は睨んでも全く怖くないと評判だ。


「…その藁は午後からの委員会活動で使用するから、また竹谷先輩に怒られますよ」
「笹っこごときに俺が倒せるか。俺を大人しくさせたきゃ観念してほっぺ寄こすんだな」


ニヤニヤ笑う名前先輩は実にふてぶてしい。
ぼくが渋々近づくと、ひょい、とまるで子犬を扱うかのように軽く持ち上げて起き上がった名前先輩の膝上に座らされた。ああ、重量が増えたことで更に藁が押し潰されていく…。


「先輩、藁が」
「一平ちゃんの体重が増えたくらいでどうにもなりゃしねぇよ」
「先輩、傷は」
「軽い軽い」


それは僕の体重に関しての言葉なのか、名前先輩自身が昨日の実習で負ったという大怪我に関しての言葉なのか。
いつも抱きあげられたときにふわっと香るのは、藁と土と獣の匂い。今日はそれに混じって、傷薬と錆の様な匂いがした。
ぼくはそれが、なんだか凄く嫌だった。だから今日は近づきたくなかったのに。


「あー癒される」


でも名前先輩はそんな僕の気持なんてお構いなしで、ぷにぷにぷにぷに、しつこいくらい頬を触ってくる。
なんなんだやっぱりぼくに何かを思い知らせたいのか。竹谷先輩にあることないこと吹き込んでやるぞ。苛められたとか。
そう思って睨んでたら、それに気付いていつも以上に意地悪そうにニヤリと笑った名前先輩が、あろうことかぼくの鼻をべちゃっと押した。よし決めた。貞操を奪われそうになったって吹き込んでやろう。


「心配しなくても、まだまだ一平ちゃんのほっぺぷにぷにし足りねぇからそう簡単にはくたばらねぇよ」
「…っ」



やっぱりぼくは、この無神経な委員長のことが、大の苦手だ!



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