おはなし | ナノ
ごめんねヒーロー
私は怖がり。風の音で戸がガタガタ鳴っただけでびっくりして涙が出るほどの怖がり。
でも、昔から私が怖がっていると何処からともなくヒーローがやってくるの。
ほら、今もがたんがたんって、屋根の板が外れて…
「名前が泣いてる気配がした!」
「せせせ、せんぞぉぉぉぉ…」
「どうした今度はなんだ!?風か声か顔か影か!?」
「か、風ぇぇぇ」
「あーほらほら泣くな泣くな。泣くなら私の胸で泣け」
「うぇぇぇぇん」
「よーしよしよしどーどーどー」
「それ馬の宥め方じゃねぇか」
「煩いぞ。というか何故お前がここにいる、文次郎」
突然違う人の声にぴっと肩が跳ねたけど、仙蔵の言葉で誰かが分かってほっとする。
埋まっていた仙蔵の胸から顔をそろりと上げると、仙蔵の向こう側に見慣れた仏頂面が立っていた。
み、眉間に皺が乱立してて怖い…けど、それ以上に情けなくて恥ずかしい。私、くのたまなのに未だにこんな怖がりなんだもん。
幼馴染だからって仙蔵にずっと甘えて、もう五年生。仙蔵は一つ上だから、来年には卒業しちゃうのに。
「お前が急に走り出すから追いかけてきてやったんだろうが。今から忍務だってのにまったく」
「忍務中でも名前が泣いていればお前に押しつけて帰るぞ」
「おーおーおー!そりゃ身に染みて知っとるわ!一年の時から何かありゃやれ名前が泣いている気配を感じた、それ名前が怖がっている気がする!その度俺が何度迷惑をっ」
「文次郎。大声を出すと名前が怖がる。先に行ってろ」
「っ〜〜〜!馬鹿野郎!名字馬鹿!おい名字、お前もいい加減多少の事には動じねぇ肝を身につけろ!このまま仙蔵におんぶに抱っこで生きていく気か!?」
「っれ、は」
「名前はこれでいいんだ。私が守るから」
「……勝手にしろ!」
あ、あああ…こうやって潮江先輩と仙蔵が喧嘩するのは何度目だろう。
年々酷くなっていくそれは、潮江先輩が仙蔵を心配してるから。仙蔵はそれを知ってるけど、それでも私を見捨てないのは、彼が優しいから。頼りない幼馴染を、放っとけないから。
私はそれが申し訳なくて情けなくて、嬉しいと感じてしまう自分がみっともなくて、ぐるぐると目を回しながら泣き出してしまう。
「ああほら、名前。何も考えるな。お前は昔から、考えすぎると怖くなって涙が出るのだから」
「せん、ぞ」
「ここにいる。私が怖いもの全てから、お前を守るさ…ほら、もう寝てしまえ」
優しい仙蔵。昔からこうやって泣きだした私を、見捨てないで抱きしめてくれる仙蔵。
大好きよ。まるで兄のような貴方が、大好きなのに。
「全てから、守るからな」
ごめんね、ヒーロー。
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