おはなし | ナノ そうきたか



ある朝起きると、にゃんこの耳が生えてました。


「……に、にゃー…?」


というか猫そのものになってました。


猫耳に猫尻尾生えてうわああどうしようって混乱中に攻とか受とかが部屋に入って来ていやんあはんな展開を期待したそこの画面の前の君!そう、君だ!まったくもって期待外れですまないね!いやしかしそういう不埒な考えを展開させるのもお兄さんどうかと思うんだ。
というわけで地味に混乱している俺だったが、そういえば一緒に寝ていた可愛い弟はどうなっているのかと慌てて顔を向けた。髭がわさっとしました。


「むー」


ごろんと腹を出して横になっている俺の可愛い弟、作兵衛は、何事もなく人間体。耳も丸いし尻もプリケツだ。あああ可愛いよ俺の弟超可愛いよ!
いつも通り悲鳴を上げて飛び起きるまでかいぐりかいぐりしてやりたいけど、残念かなこの体では無理なようだ。でも肉球でぷにぷには出来るけどな!
ぷにぷにした頬をぷにぷにした肉球で突いてみる。
うはっ!なんだこの燃え滾る熱き衝動…これが情よ…じゃなくて親愛というものか。愛だね愛!


「うーん…」


おっと余りの興奮にいつのまにか高速でぷにぷにしてしまっていたらしい。
可愛い作兵衛が可愛らしく眉間に皺を寄せて可愛い唸り声を出して


「鬱陶しいわこのボケェェ!」


まさかのコークスクリューパンチを放ってきた。


「みぎっ」


いつもならこんな攻撃それこそ子猫がじゃれているかのように避けるものだが、そこはほら、俺が今猫だし。
哀れちっちゃな猫さんは空を飛んじまったってわけさ。自由に飛びたいね。でも残念、コントロールなんて一切出来ないまま俺は地に叩き伏せられた。
固い畳を覚悟したが実際俺を包んだのはぽふっとした布と綿の感触。あ、よかった座布団置きっぱにしといて。
これこそ備えあれば憂いなしって言葉通りの状況。誰だ部屋片付けろって言った奴。


まぁそんな俺をよそに、さっきのでようやく起きた作兵衛は目をむにむに擦ってた。うぉぉ超可愛い!俺の弟天使やでぇ…!
…と興奮していたら、なんだか作兵衛はきょろきょろと周りを見回し始めた。ぼんやりとしていた目が段々と見開かれ、徐々に焦った様子に。なんだ?どうかしたのか兄ちゃんに話してみ?


「にゃー」
「あれ?お前どっから入ったんだ…?」


声に反応して俺を見た作兵衛が、目を丸くして聞いてきた。
どっから入ったかってそりゃ入口からですが。寝ているお前を担いで堂々と自室入りしましたよちなみに同室はまた恋人の所に行ってるよ。俺も恋人欲しい。でも作兵衛を構いたいから当分はいらないや。


「兄貴が入れたのかな」


いやいや目の前にいるのがお前のお兄ちゃんなんですけどね。というか昔みたいにお兄ちゃんってハート付きで可愛らしく呼んでくれよ。兄貴!とか呼ばれるのは暑苦しい後輩だけで十分です。


「ほら、おいで」
「にゃんっ」


いくいくー!作兵衛が俺を見下ろすとか撫でてくれるとかそうないシチュエーションだよ何これ神は俺に日頃の褒美を与えたもうたのか。日頃碌なことしてねぇけどな。主に後輩教育という名のセクハラとか。


「にしても、兄貴どこ行っちまったんだろ…」
「にぃ」
「お前何か聞いてねぇか?」
「み!」
「ははっ、猫に聞いても仕方ねぇか」


いやいや仕方なくないよお前の愛する兄ちゃんはご満悦で首撫でられるよ。悔しい…でも喉がごろごろ鳴っちゃうビクンビクンッ。…いやうん、ごめん。


「まったく…また寝てる間に勝手に連れ出しやがって…後で左門と三之助に怒られるんだぞ、無駄な心配かけんなって」


まぁそれはこっちの台詞なんだけどな、と肩を竦める作兵衛。うんあいつらお前に迷惑と心配かけすぎだよね!兄ちゃんあまりの嫉妬に時々文次郎と小平太を締め上げるもの。物理的に。


「…でもおかしいな…いつもなら、俺が起きるまで絶対傍にいるのに」


そりゃあ寝ていて無防備な可愛い作兵衛を放置なんて出来ませんからね。防犯的な意味でも理性的な意味でもおっとこれは違う。
しかし俺を撫でながら不安そうな顔の作兵衛を見て、なんだかほんの少しの罪悪感が湧いた。猫になったのは俺のせいじゃないけど、でも、そんな顔させるなんて。


「にゃー」


駄目な兄ちゃんでごめんな、作兵衛。


「わっ、はは、いきなり舐めんじゃねぇよ!くすぐってぇだろ!」



ここぞとばかりに頬とか指とか舐めてすりすりしてお前とのスキンシップを謀る、そんな駄目な兄ちゃんで。



「うにゃん!」
「ははは!っつうかお前、名前あんのかな」
「にゃ、にゃ、にゃう」
「何言ってるかわかんねぇっつの!」


可愛い作兵衛の笑顔にきゅんきゅんしながら富松、と言うが、そこはほら、猫だし。
案の定全然伝わらなかった作兵衛だが、次の瞬間爆弾を落とした。


「んーそうだな…よし、お前は今から名前だ」


な、名前!なんて楽しそうに名前を呼びながら俺の頭を撫でる作兵衛。
俺の心をこれ以上かき乱してどうしようっていうんだ兄弟の垣根とか軽く飛び越えるぞ。



猫に俺の名前をつけるとか、どういうことなのこの可愛さ。俺の弟マジ天使やでぇ…!



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富松名前
富松作兵衛の兄。六年生。弟溺愛の変態。同室が頻繁に夜外出するので、ここぞとばかりに作兵衛を(本人にも無断で)連れ込んでいる。



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