おはなし | ナノ
裏切り者には制裁を!
数々の障害を乗り越え、多くの犠牲者を出しながらも、ようやく屋上に辿り着いた【モメン】の二人。
台車を止めれば、あれほどあったチョコの山も今となっては少なく思える。
残してきた仲間達のチョコはこの後自分達の祝杯で使おう。そうすればなんだかチョコにも勝った気になれる。
そう思いながら遠くを見ていたが………おかしい。
「おい、ヘリはそろそろの筈じゃ…」
「………ごめん」
「…どういうことだ?」
突然深く項垂れて謝る名前を訝しげに見つめるリーダー。それもその筈。この項垂れる男は誰よりもこのバレンタインデーという日を憎み、撲滅に力を入れていた。自分と二人で金持ち的札束アタックを使い近隣のチョコを買い占めたのもこの男だ。
その名前が…どうして、裏切りを…?
「ヘリが来ないのは、お前が止めたから、か」
「しょうがなかった…しょうがなかったんだ…僕にはこうするしか…っ」
「…何があった?」
「ふふふ、俺ですよ」
「っお前は!」
突然響いた第三者の声にばっと振り向けば、そこには屋上の給水塔の影から現れた男…久々知の姿。
まさかの後輩の出現に、リーダーは目を丸くして驚いた。
「久々知…?何故ここにいる!お前達五年は名前の担当で昨日潰されたはずじゃ…」
「愚問ですよ。豆腐あるところ俺があり、『もめん』と名のつくところ俺があり、そして【モメン】副リーダー名前先輩のあるところに俺があるのは当然なのだ!名前先輩の愛の鞭程度、返り討ちで逆に俺色に染めてやりました」
「なんてこった…×られたのか名前…」
「そ、そんな目で僕をっ、汚された僕を見ないでリーダーァァァ!」
呆然と見つめるリーダーの目から逃げるように蹲る名前。そういえば今日はいつもより動きが鈍く声が擦れていた気がしないでもなかった。実は幼馴染な男が大人の階段(しかも同性と)登ってしまったこの衝撃、どう言い表わせばいいのだろう。
しかしここは、【モメン】リーダーとしてこう言わせて貰おう。
「おめでとう名前。しかし【モメン】規約第百七条、『裏切り者には制裁を』……まさかお前に施行する日が来ようとは…しかしこれも定め!恨むならイケメンを恨め、名前!」
「あ、あぁぁぁあああっ」
「名前先輩ぃぃぃぃ!!」
数秒後、そこには制服をびりびりに破られて赤い痕だらけの体をチョココーティングされ、額に『滅』の札を貼られしくしく嘆く名前と、その傍で大量の鼻血を吹き出して気絶している久々知の姿があったとか。
「ぎぼちわるい…」
よほどの甘党じゃなければ、全身チョコまみれは結構キツい。
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