おはなし | ナノ 全軍突撃準備 チョコを買い占めろ 皆平等だ



ピンクのハートを一年で一番多く見かける日。
ここ、大川学園でも女の子が頬をほんのり赤くして可愛らしいラッピングの小箱や袋を手に、誰かの元へ急いでいた。空気は桃色と、そして裏を返すような青色にはっきりと分かれている。


「はいどいたどいた!そこ通るよ道開けて道!」


しかしそんな中、数人の男子生徒だけが真っ赤に燃えていた。
彼らはそれぞれに大量のダンボール箱を台車に乗せ廊下を爆走していた。箱はどれも味気ない茶色の大きなもので、ガムテープで厳重に封をされてその上から『滅』やら『封印』やら『イケメン爆ぜろ』といった赤い札がびっしりと貼られていた。正直怖い。


そんな一種異様な集団に近寄りたくない者達は、どけと言われる前に反射的に道を開けて行った。
しかしぎゅるると煙を上げながら進む彼らの前に、勢いよく飛び出した者もいた。勇者か。


「その箱を、寄こせ!」


いいや馬鹿だった。
しかしその少年は、一部の女の子達にとっては正義の味方であり救世主であり紛れもない勇者であったのだ。
少年はまだ大分幼さの残る目元をきりっとさせ、奇妙な暴走集団の行く手を遮った。両手を広げて通せんぼする少年に、薄く笑ったのは黄緑色の台車を爆走させていた少年だった。


「先輩方、ここァ俺が」
「…任せたぞ。我々は任務を遂行する」
「ラジャー」
「あ、お、おい!」


進み出た少年の姿に目を丸くし若干頬を赤らめた少年は、動揺のあまりそのまま勢いよく発車する台車達を止める事が出来なかった。
慌てて引きとめようとするも、残った一人の笑い声に体は止まる。


「くくくっ…」
「名前…どうしてこんな事するんだ!女の子達、困ってるだろ!?」
「どうせ女子の口車に乗せられたんだろうがなァ…今更遅いんだよ、神埼ィ」
「学校周辺のチョコを全部買い占めるなんて…用意できなかった女の子がどんな気持ちでいるのか、考えないのかバカ!」
「それがどうしたァ!俺は困らない。一切困らないねェ!何故なら俺にくれるような子はいないからだァ!」


そう、爆走集団が厳重に封印して護送していたのは…大量の、チョコである。
可愛らしいラッピングからただの板チョコまで、めぼしいチョコは全て買い占めた。少し無茶かもしれないが、爆走集団…【モメン】に出来ないことではない。
昨日の夜から店の先々で消えていくチョコに、用意できなかった女の子達が朝から嘆く声が続出している。それを聞いて、そしてある事情から神埼は立ち上がったのだ。


「お前が困らなくても、他の皆は困るんだ!」
「例えば、誰だよォ?」
「女の子とか、ぼ、僕とか…っ」
「……お前ェ?」


自分だと宣言する段になって真っ赤に染まった神埼の頬を凝視しながら、名前は訝しげに首を傾げた。



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