おはなし | ナノ
歌う猫2
「そーらっを自由に〜飛ーびたーいな〜」
歌いながらぶらぶらと歩く名前。
まったく目的が無いように見えて、その足取りはしっかりと何処かを目指していた。
しかし目的地に着く前に、「おい!」という声に呼び止められる。
「はーいはーい。俺かしら」
「お前だ!見慣れない姿…さては曲者だな!」
「いやいや、臭ぇもんだなんてそんなまさか。これでも毎日風呂に入ってる綺麗好きなのにそんなまさか。よく入るの忘れるから実質五日に一回くらいだけど」
「臭ぇもんじゃなく、曲者だ!それに全然入ってないだろうがそれ!」
「え、君、曲者さんなのかしら。確かに生徒には見えないお顔…アラサーですね分かります」
「あらさー?」
「あらうんどさーてぃーん…三十代ということですよ」
「誰が三十だ!どう見たって十代だろうが!」
「あらら年上だと思ったのにしょんぼり。そして久しぶりに敬語っぽく喋ったのにがっくし。なんだ君、俺を弄んで楽しいのかこの嘘つき!顔面嘘つき!」
「いきなりキレるな!というより顔面嘘つき…」
名前に声をかけた忍術学園一老け…じゃなく忍者していると噂の潮江文次郎は、名前のペースに取り込まれてがくりと膝をついた。
その周りを「あらあら」と井戸端のおばちゃんのような声を出しながらくるくる回る名前。シュールな光景である。
「おい文次郎、何をしている」
「仙蔵…俺は、俺の顔は嘘つきなのか…?」
「何を今さ…ではなく、そこの男は何処の誰だ。お前の知り合いか」
「はっ!」
そんなシュールな場に偶然出会ってしまった文次郎の級友は、未だ周りをぐるぐる回っていた名前を指差して怪訝そうに聞いた。
そんな仙蔵の声に現実に戻って来た文次郎は、ばっと名前の胸倉を掴んだ。
「危うく話術に取り込まれる所だったが、気付いたからにはもう効かん!やい曲者!目的を吐け!」
「話術じゃなくて現実だよ少年。そして心配していた俺にこの仕打ち。最近の若者はこれが普通なのかしらおじさんついていけないわ」
「で、貴方は?」
一見自分達とそう変わらない年齢に見える名前が自分をおじさんと評したことは置いておいて、仙蔵は場を収めにかかった。
すでに騒ぎを聞きつけて周りにわらわらと忍たまが集まっている。殺気や危ないものは感じないが、それでも怪しいことに変わりない男を、後輩達にあまり近づけたくない。
そんな仙蔵の考えなんてなんのその。名前は己の胸倉を掴む文次郎の頭を撫でてにこっと笑う。
「迷子の猫を回収に来ましたー」
「怪しいわ馬鹿」
「っいだ」
その場の全員の突っ込みを代弁して名前を叩いたのは、騒ぎを聞きつけてやって来た山田伝蔵だった。
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