おはなし | ナノ 歌う猫



「お魚くわえた飼い猫、追っかけて〜」


聞き慣れぬ歌をなんとも軽快に歌うのは、何処にでもいそうな普通の青年だった。
いや、一目でそれと分かる黒い忍装束を着て堂々と道を歩いてくる辺り、普通とは言い切れないかもしれない。
しかしここは忍術学園の真ん前。普通なら奇妙な格好も、ここでは当たり前の姿。
というわけで暢気そうな忍がふんふん歌いながら学園の門をくぐろうとして小松田がストップをかけたのは、何も彼があからさまに怪しかったからじゃない。


「ちょ、ちょっとちょっと、待ってくださ〜い!」
「裸足で、駆けてく〜……ん?俺かしら?」
「はい、そうです。入門票にサインをお願いします!」


はい、の言葉と共に差し出した紙束と筆を受け取り、忍は目を真ん丸にした。猫みたいに細められていた目が開くと、なんとも愛嬌がある。


「お、おお〜…!いつの間にこんな複雑な手続きが必要になったのさ忍術学園…これはいわゆるあれかしら、せきゅらてーというものかしら」
「せきゅらてー?」
「せきゅりたーだったかしら?いかんね、えーごなんてかれこれえーっと、いっぱい話してないからぽんぽん忘れっちまうのさ」
「ははぁ」
「で、入門票にサインだったね。そして喋れたね英語。もちょっと流暢に言うとsine。驚きついでにさらっさらーのさらさーてぃーひゃくー…っと。んじゃ通らせて貰うよケルベロス一号君」
「小松田ですよ〜」


何の躊躇もなくさらさらとサインすると、緩く挨拶して緩く侵入する忍。
黒い忍装束の頭巾が首の後ろでリボン結びになってるのが気になりながら、小松田は返された入門表を見てぽつりとつぶやいた。


「名字名前さんていうのかぁ…裸足で寒くないのかなぁ?」



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