おはなし | ナノ Good Luck Boys!



悪逆非道な事で知られる城の忍が、ある日忍頭に言われました。


「そこらで忍術学園の生徒を一人だけ拾ってこい。決して我が城の行いだとは悟られるなよ」


忍術学園を敵に回すと今は沈黙を守っている他の城主達が煩くなることは明白でしたので、決して悟られるなという忍頭の言葉に疑問を挟む余地もなく忍は頷きました。
でも忍術学園の生徒なんてそこら辺には落ちていないと思います。暗に忍術学園に忍びこんで攫ってこいということでしょう。あの難攻不落と名高い要塞に一人で行けとは、なんとも意地の悪いことです。





忍は年若く、童と言っても間違いではない背格好でしたから、普通の着物を着れば町中でも目立つことはありませんでした。それどころかいっそ影と間違えるほどに気配のない様子は、さすが忍と言うべきでしょうか。忍は取り立てて急くこともなく、周りの人々と同じようにのんびりと町を歩きました。忍頭からは期限を言い渡されておりません。そういう所は酷く不真面目な面がある忍でありましたが、普段の仕事働きの甲斐あってか、そう表立って叱責されたこともないのでした。いえ、もしかしたら積もり積もったそのツケがこの度の忍務なのかもしれませんが。


のんびりのんびり、歩いていると、目の前に小さな少年が転がってきました。
いつもなら避けられるほどの速さでしたが、忍はのんびりと空を見上げていたので、気付けば転がって来た少年の巻き添えになって同じく転げていきました。


ころころごろごろ、転がる忍と少年は、いつのまにか三人になっていました。
一人は言わずと知れた忍、もう一人は一番最初に転がってきた眼鏡をかけたふわふわの赤毛、いつのまにか増えた三人目は青褪めた顔の黒髪の少年でした。忍は転がりながらそれを観察して、そのまま転げていきました。


ごろごろがらんばしゃん、町の端に用心のため置かれている火消し用の水桶に突っ込んでようやく止まった四人。
忍はびしょ濡れになった自分の枯れ葉色の着物を見て、次いで赤毛と黒毛を見て、最後にいつのまにか増えていた四人目に目を向けました。他の二人より少しばかり年上、忍びより少しばかり年下に見える黒髪の少年はすっかり目を回しています。ぼんやりとここに辿り着くまでの道中を考えるに、そういえば転がる忍と少年達を止めようとして一緒に巻き添えになっていたような気もします。


さてどうしようと忍が立ち上がると、四人が転がって来た方向からぱたぱたと慌てたように茶色い髪をした男が駆けてきました。桃色の合わせの間に手を入れた瞬間少し警戒しましたが、出てきたのはただの手拭いでした。
しかしただの手拭いといっても安心してはいけません。あれに毒薬が染み込まされていることも考えられます。


「町を凄い勢いで転がって行く姿を見かけて、慌てて追いかけてきたんだ!乱太郎伏木蔵左近数馬、全員怪我はないかい!?」


赤毛と黒毛、少し大きい黒毛、そして忍の順に手拭いで顔を拭われました。抵抗をしようとした忍ですが、他の子どもが回していた目をぱちくりと開くのを見ると、されるがままに落ち着きました。基本的に面倒臭がりな面がある忍でした。


「あれ、善法寺伊作先輩?あれれ、ここは…?」
「町の端から端まで転がったみたいだね。すっごいスリルだった〜」
「呑気な事を言ってる場合か!伊作先輩ありがとうございます。ぼくはいいですからこいつらを…お前ら、怪我は?」
「ないでーす」
「右に同じでーす」
「良かったー…もう気が気じゃなかったんだからね。町では普段の倍不運に気をつけて…あ、数馬はどう?何処か痛い所はない?」


茶髪の男は手拭いで小さい子ども二人の頭を拭きながら、忍に向かって首を傾げました。忍も首を傾げました。赤毛と黒毛も首を傾げました。
少し大きい黒毛だけが顔を一気に蒼くしました。


「数馬先輩?もしかして頭でも打ったんじゃ…」


忍は青い空、、びしょ濡れになった枯れ草色の着物、赤毛、黒毛、茶髪、と順に見てから、少し大きい黒毛を見て、申し訳無さそうな顔を作りました。


忍頭、どうやら思ったより早く帰れそうです。


濡れてめくれた子ども達の着物の裏がかわり衣になっていたのを目敏く見ていた忍でした。
つまりはまぁ、棚から牡丹餅。瓢箪から駒というわけで。



。ο(なんとも不運な忍たま達に幸運あれ!)



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