おはなし | ナノ
嘘吐きと豆腐5



若草色の忍装束が、焦げたり破れたりでボロボロだ。
兵助はろ組の三人と並んで、教師に思いっきり叱られていた。


「だから危ない真似はするなといつもいつも…久々知も乗せられるんじゃない!」
「違いますせんせー!」
「兵助は自分から乗ってきたんでーす」
「えっと、えっと、そう、です。たぶん」


渡り廊下の床はひんやり冷えて、正座に痺れた足を容赦なく追撃してくる。何もこんな場所で叱らなくてもいいだろうに。兵助は溜息を吐きたくなった。


(…あ)


先ほどからちらりちらりと見てくる通行人の姿に気を寄せると、今は会いたくなかった人の姿が目に入る。どころか、ばっちりと目が合ってしまった。
なんでこんな所にいるんですか。いつもは池の近くでしか遭遇しないくせに!勝手極まりない文句を言いそうになって、説教の途中だと気付く。


「大体な、鉢屋!お前、成績は久々知同様優れているのに、何かと騒動ばかり起こして」


名前はいつもの無感動な顔で、しかし興味深そうに正座をさせられている後輩達を眺めていた。


「あ、名前先輩!」


そんな名前の姿に気づいたのは兵助だけではなかったようで、隣で正座していた八左ヱ門が嬉しそうに腰を上げかけて先生の鉄拳を食らっていた。


「いってぇぇぇ!」
「教師の話を聞かんか馬っ鹿者が!」
「木下先生」
「ん、おお、名字か。どうした」
「山田先生が、実習用の火縄銃がどうとか言っておられましたが」
「む、そうか…よしお前ら、あと一時間はそこで正座だ!それと一週間風呂磨きを命じる!」
「「「えぇーーっ」」」
「二週間にされたいか」
「「「「すいませんでした!!」」」」


去って行った先生の姿が見えなくなると、「そろそろ立ちな。床は冷たい」と後輩を促す名前。
「え、でも」と迷ったのは雷蔵。さっさと立ったのは八左ヱ門と三郎。兵助はじっと床を見ていた。
恥ずかしい姿を見られてしまった。叱られている場面なんて。どうせなら褒められているときに現れてほしい。
ずうんと項垂れている兵助の旋毛を見つめて、名前は首を傾げた。


「どうかしたか」
「コイツ、恥ずかしがってんですよ。普段怒られないもんだから」
「僕なんて毎日のように怒られているが」
「伊作先輩ですか」
「最近は留三郎でさえ怒る。新しく入った用具の子に話しかけただけで怒る」
「嘘吐いて泣かせたんじゃないんスか」
「失敬な」
「じゃあその一年の印象は?」
「泣き顔が可愛いな」
「やっぱり!」


いつの間にか八左ヱ門と名前の会話が弾んでいることに、なんだか酷く悔しくなる。


「名前先輩」
「ははは、やっと浮上したか」
「山田先生が探してるなんて、嘘でしょう」
「ははは、豆腐は聡い子だ」
「「「えっ!?」」」


八左ヱ門どころか、それまで黙っていた三郎や雷蔵も目を丸くして声をあげたことに、何故だかすっとした。小さな優越感が灯る。
この人の嘘に、俺だけが気付いたのだ!
なんだか体の奥がふわふわと熱を持って、兵助は思わず腹を押さえた。



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