おはなし | ナノ 拍手ログ07/伊助
伊助の染め物は綺麗だ。
ある日くのたまが持っていた手拭いを見て綺麗だね、と言うと、彼女達は得意そうに「一年は組の伊助にお願いして染めてもらったの」と教えてくれた。
ある日事務員さんがうどんを服に溢したのを助けて色落ちしない服に感心していると、事務員さんは嬉しそうに「伊助くんが染めてくれたからね」と言っていた。
ある日元髪結いの先輩が綺麗な布を裂いてしまっていたので勿体ないと告げると、彼は楽しそうに「伊助くんが余り布を分けてくれたんだ。せっかく綺麗だから結紐にしようと思って」と紐になった布を一本くれた。
私は綺麗なその布切れを根付に通した。鮮やかな緑と薄い桃色が美しい。留め具である木製の兎が野原で跳ねているように踊った。こんな綺麗なものを作る伊助は、凄い子だ。
「あ、名前先輩」
「やあ伊助。お前、チビで鼻ぺちゃで口煩いだけのお馬鹿じゃなかったんだねぇ」
「なっ!どうしていつもいつも名前先輩はそうやって酷いことばかり、」
感心して褒めてみれば、伊助は顔を真っ赤にして怒った。
鮮やかな赤い頬に、なるほどこの子の染め物は綺麗だ、と私は納得した。
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