おはなし | ナノ サバイバーの帰還2



それからダンジョンの中での十二年もの生活は語ると長いからまたいつか。
強いて言えば最初の一年はおっさんとの追いかけっこサバイバル。二年目からは自給自足生活。五年目からはツアーガイド。八年目になる頃にはダンジョン内に立派な俺用の家が出来ていた。
それというのもモンスターはいるけれど同じように豊富にあった食料や水、粘土や木といった資源のおかげだ。それと先人たちの残した膨大な武器。勿論あのおっさんのナイフだってそうだ。俺はそれを自分で使ったり、新しく来た挑戦者に売りつけたり、物々交換したりしていた。布や鍋、火打石なんかは自然に手に入らないしね。
そうして暮らしていくうちにダンジョン攻略を諦めた奴や俺を心配した奴、なんか意気投合した奴らなんかが集まって集落みたいになってった。俺が一番年季長かったからか、周りの奴らはいつも俺の意見を尊重してくれて、なんだか村長みたいな役所に納まったりして。でも皆本当に優しくて、長い事一人で暮らしてた俺にとっては家族みたいな存在になってった。元々スラム街育ちで大家族みたいなところはあったけどね。


そうして俺が不本意なダンジョン入りして十二年が過ぎたある日のこと。
自然と副村長的な立場になってた執事さんが俺に聞いたんだ。
『名前はダンジョン攻略を目指さないのですか?』って。
いや、今更と言えば今更な言葉なんだけどさ、周り中呆気にとられた顔して。俺もびっくりしたね。おいおいこいつ何言ってんだ、って感じで。


『前にも言ったけど、俺はおっさんの道連れでダンジョンに入ったんであって…』
『それは知っています。ですがそれなら尚のこと、このダンジョンから出たくないのですか?』
『出たい』


俺は即答した。だってそれは俺の本心だったから。
でも、でもな。それと同じくらい俺は、


『死にたくない、死んじゃいけないんだ』


こうして過ごしていればいつかダンジョン攻略する奴も出るかもしれないだろ。そしたらその時駄目もとで、一緒に出れるかもしれないじゃん。万に一つの可能性だけど、俺はそれにかけてるんだ。


『俺を故郷で待ってる奴がいるから。あいつ臆病で泣き虫だから、今もきっと泣いちゃってるよ』


俺より年上なのにおどおど、びくびくとしょうがないあいつを慰めてやるためにも、俺は生きてここを出たいんだ。
…俺の言葉を聞いて『名前…お前も男だったのか…』だの『ただの小猿と思ってて悪かった』だの『今夜は大人になった名前を祝うぞ!酒持ってこい!』だの言った奴ら、明日の警護班に強制的に加えるからな。
俺のぶすっとした顔を見て、執事さんは『私は』と焦れた顔をした。


『モンスターに殺されそうだったところを、ツアー中の貴方に助けられました。救って頂いたこの命、貴方の幸せの為に使いたいのです。それがここを出ることだと言うのなら、尚更。…最奥を目指してみませんか、一度だけでも』
『最奥なら何度も行ってるよ?』
『『『………は?』』』


俺の言葉に、真剣に話していた執事さんは勿論、周りを囲んでいた仲間たちも目を見開いた。…あれ?知らなかったの?


『俺用の畑あるじゃん、あの桃色の実植えてるやつ』
『あの甘いやつですか?』
『うん、そう。俺あれ大好きでね〜。いっぱい食べたいから専用の畑作っちゃうほど…ってそうじゃなくて。あの畑あるとこ、あれ最奥』
『…冗談は』
『や、冗談じゃなくて。あそこの石材とか使ってここらカスタマイズしてたから皆気付かなかったのかな。元々あそこら辺一帯は結構な都市の跡があったんだ。俺が半分くらい開墾しちゃったけど』


ちなみに入口と思わしき扉は年単位で破壊しました。ヒビが入ってなきゃもう少しかかってたと思う。
…俺のあんまりな告白に、仲間達が機能停止している。ちゃんとツアー中も言うよ、『ここが最奥となっておりまーす』って。皆何故か笑ってスルーするけど。
なんとか皆を再び動かそうと、俺はとっておきを見せることにした。



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