おはなし | ナノ サバイバーの帰還1



やっとこさ死ぬ思いでダンジョンをクリアして早数日。
俺は久々の娑婆に感動する毎日を送っていた。


「おお〜…こんな店出来たんだ…」


あっちをふらふらこっちをふらふら、同行者の警備兵は苦笑しながらついてくる。
一人でいいって言ったんだけど、今や俺はダンジョンから持ち帰った宝で大金持ちなのだから一人で出歩いては危ないと、財宝の管理運用を任せた執事さんに押しつけられてしまった。いい人なのだけど、少々心配性だ。
俺は金属器を持っているから少々大変な目に遭っても死にゃしないと思う!と主張しても、暖簾に腕押しだった。ダンジョンの中で出会ったのだが、それ以来ずっとこんな調子でまるで親が出来たみたいだ。


「ふふ、親かぁ」


なんだか少し嬉しくなって足取りも軽くなる。
俺が店先を覗くと、店主や客が「今日も来たのか」と声をかけてくれて楽しい。ダンジョンみたいに曲がり角の度に警戒しなくていいのが楽。娑婆って凄いな。


「名前様、そろそろ屋敷に戻られては」
「もうそんな時間かぁ…でもまだ見たいなー」
「明日も見て回れば宜しいじゃありませんか」


貴方はもう、外にいるんですよ。
苦笑いしっぱなしの警備兵の言葉に、俺はそうだね、と笑顔で頷いた。
なんで俺がこんなに必死になって外を見て回るのか、朝起きてすぐに窓を開けるのか、見るもの聞くもの話すものに触れたがるのか。



それは俺が、実に十二年もの間をダンジョンで過ごしたからだ。



しかも始まりが最悪だった。俺は一切ダンジョンへ行く気などなく、この街へは貿易商人の下っ端のバイトでやって来た。噂のダンジョンはどんなもんだと皆と見学に来て、うわぁでかいなパンチ効いてるなおいお前入ってみろよぜってー嫌だよばーか、なんて言いあっていたら。


『うわぁぁぁのけのけのけぇぇぇぇ!!』


泡吹いて刃物振り回したおっさんが駆けてきた。どう見ても錯乱した様子のおっさんの背後には、街の自警団の姿。何かやらかしたのは一目瞭然で、皆慌てて脇にのいた、はずだった。


『うわっ』
『ああ!?よ、よしお前、おまえ俺とこい!道連れだちくしょぉぉぉ!』
『わっ、何すんだよバカ!離せ!』


急なことに足をもつれさせた俺はどすんと尻餅をついた。それに目をつけた犯罪者らしいおっさんは丸太のような腕で俺の首をホールドすると、そのまま周囲に見せつけるように持っていた刃渡りの長い無骨なナイフを俺の首筋に突きつける。


『おい、名前をどうするつもりだよ!』
『その子を離せ!』
『煩ぇうるせぇ!おれがどうしようと俺のかってだろ!』


俺を助けようとして仲間や自警団の人達がじりじりと近づいて来てくれるが、おっさんも必至だ。じりじりと後退を続け、遂に。


『あばよ!お前ら全員じごくにおちろ!』
『うわ、うわぁぁぁぁっ!?』


俺を拘束したまま、ダンジョンの入口へと突っ込んだのだ。
あのぷよんとした奇妙な感覚と、汗臭い丸太のような腕の感触を、俺は生涯忘れないと思う。



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