おはなし | ナノ
火薬ご飯だす
「三木は偉いね」なんて暢気に笑う名前が、僕は心底気に入らない。
だいたい生まれも育ちも同じ場所、同じ時間、ずっとずっと一緒に育ってきた兄弟同然の幼馴染。そりゃアイドルに相応しい僕の顔と比べれば数段落ちるけれど、名前だって見られないほど、というわけじゃない。
座学は名前の方がほんの少しだけ良くて、実技では僕の方が上。火縄の扱いにかけては言うまでもない。
でも大きな目で見て成績的にそう差のない僕と名前。同じろ組なのはある意味当然だった。
でも…それでも!僕はアイツのあることがずっと気に入らないのだ。
「三木、ねぇ三木」
「なんだ名前、煩い」
「酷いなぁ。ねぇ三木、もう昔のようには話さないの?」
「むか、し」
「うん。『〜だす!』って話し方、可愛かったんだけ「わーーーー!!!!」
にこにこにこにこ。悪気なんて一切無いという顔で他人の黒歴史に土足で上がりこんで塩塗りたくってくる名前の口を、思いっきり塞ぐ。二人の時ならまだしも、ここは食堂。いつ誰が聞いて、僕の恥ずかしい過去の汚点を思い出さないとも…
「ふっ…ははは!無様だな三木ヱ門!やはりお前は田舎言葉がお似合いなのだ!」
「煩いぞ馬鹿夜叉丸!」
「なっ!?馬鹿とはなんだ阿呆ヱ門!不細工!」
「ぶっ!?不細工はお前だろこの自惚れ!」
高笑いしながら現れた天敵に、僕は吼える。が、今回はどうしても分が悪い。それもこれも名前のせいだ!
僕らは山奥の田舎で育った。野を駆け川で遊び、そうして十歳になる年に入学した忍術学園。そこで僕の衝撃といったら!皆の話す言葉と僕の言葉が、大きく違っていたのだ。僕は初め、彼らが異国語を喋っているのかと思った。混乱して縋りついた名前は、にこにこといつものように暢気な笑顔で僕に…
『僕達の故郷はとても訛りが酷かったからね。どちらかというとここでの言葉が標準語だよ』
なんて、今まで話していた訛りを微塵も感じさせない流暢な標準語で話しやがったのだ、あの男は。
いつの間に…!?その時の僕の衝撃は計り知れないものだった。裏切られた気分だ。外で恥をかくまいと、密かに練習していたのか!僕にも言ってくれればいいのに。だってずっと、それこそ寝るときも風呂も一緒だったのに。
なんだか酷く傷ついた僕は、名前が止めるのを無視して、訛りを矯正することにした。これが意外と難しくて、四年になった今でも時々出てしまうことがある。
まあ、そんな一件以来、僕は名前の隠し事主義が気に入らないというわけだ。
けれどよくよく考えてみるに、名前は田舎で時折話辛そうに、説明したいのに出来なくてもどかしそうにしていることがあった。こっちに来てからはそんな様子はまったくない。…つまり名前にとっては、こっちの言葉こそ喋り慣れた言葉?……いや、違う。だってずっと一緒にいた僕が違うのだから。
名前はずっと、僕の隣にいたのだから。
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