おはなし | ナノ
十数えたら3



「食満くんやーい」


呟く声は木の葉の擦れる音に消えて行く。
一歩進むごとにどきどきと胸が高鳴るのは、遠からず口にする味を思ってだろうか。


食満くんを食べたいと初めて思ったのは四年の春。
それまでは普通に同級生の一人で、武道派の熱血で、不運の申し子と名高い善法寺くんの同室で、貰い不運が年々増してるね、とたまに話題に上がる、そんな程度の認識だった。会話もするし課題の写し合いもする、広く見るなら友とも呼べたかもしれない。


だが俺は偶然にも桜の木の上で昼寝をする彼を見て、頭の裏が痺れるような衝撃と、とてつもない飢餓感を感じた。薄い肉付きの唇に桜の花が舞い落ちる様を見て、ごくりと唾を飲んだ。


本当はその時齧りつきたかったんだけど、さすがに己の中のそれまでの常識が待ったをかけた。いきなり噛みつくとか人としてヤバいだろう自分。というか男に齧りつきたいとか、ないわ。どうせなら柔らかい女の子の方が美味しいよふわふわしてるよきっと。でも食満くんの唇もふわふわしてそうだよね!うん!
…うん!じゃないだろ自分。
結局その日はふらふらと自室に戻り、三日の間引き籠って自分整理、心配して見舞いに来てくれた友に片っ端から食いついて、結論。



俺は食満くんだから食べたい、らしい。



他の男とか筋張って食えたもんじゃなかったよ仮にも忍者目指してるんだもんね細く見えても筋肉パネェわ土臭ぇわで食えたもんじゃなかったね。腕とか首とかに歯形がついたぐらいでぎゃあぎゃあ煩いし。かといって女の子も無理だった。柔らかいし良い匂いするんだけど、柔肌に犬歯が喰い込んだ所で萎えた。


「じゃあ、いただきます」


どうやら俺の渇きを癒せるのは、食満くんだけみたいなので。



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