乙女と熊と饅頭と(和菓子屋のアン) ※まさかのアンで男主友情夢? ※キャラ的なネタバレを含みますので読む予定あるけど未読って方ご注意ください ※ナチュラルに立杏なのは気にしない 「立花、お前いい加減にしろよ…」 「え、どうしたの○?」 ポツリと漏らした俺の一言に紛れようのない怒りを感じ取って、立花が白々しく首をかしげた。その指先がもじもじとこねてる辺り、多少の罪悪感はあるんだろう。だが俺は、奴を許す気はない。 「自分の部屋ならいざ知らず!俺の部屋を!ファンシー仕様にするなと!あれほど言ったよな!?」 「え〜…まだ窓辺だけじゃない」 「桃色花柄とレースのカーテンの下でふわっふわの熊が何匹も並んでんのが外から丸見えじゃねぇかクソンダラァッ!!」 「○ったら口悪い」 誰のせいだ、誰の! 俺は自分の部屋の一角を乙女空間に魔改造した犯人を睨み付けた。が、いつも無駄にキラキラなイケメン顔でウサギのぬいぐるみを抱き締めてる姿に色々挫けそうになる。物静かできりっとしてかっこいいとか言ってた三組の真理奈ちゃんに見せてやりてぇ。 「お前は昔から…」 「あ、○。一口饅頭作ってきたんだけど食べるよね」 「お?食う食う!」 ぶちぶちと文句を並べそうな俺に、早太郎が餌を見せる。 さすが幼馴染み。俺の扱いを心得てやがる。どうせなら何をやると怒るのかもちゃんと心得ていてほしいものだが。 「でねっ、そこでアンちゃんが〜」 ふっくらとした皮に包まれた上品な餡に舌鼓を打っていると、立花が『今日のアンちゃん』を話し出した。 ちなみに『アンちゃん』とは立花が現在勤めているデパ地下の和菓子屋に新しく入ったバイトの子で、本名は梅本杏子。立花曰くほっぺたぷにぷにしたくなる感じの可愛い女の子だそうな。杏って字はあんとも読むから、この無駄にイケメンで乙女な男に連想ゲームみたいな要領で餡子を渾名にされてしまった可哀想な子である。 そんなアンちゃんだが、立花はいたく気に入ったようで毎日のように俺にその日の報告をしてくる。最初こそおいおい勘弁してくれノロケかよと思ったが、よくよく聞いていればなんのことはない。アンちゃんの不憫日記を立花が乙女フィルターにかけてみているだけのようである。合掌。 「俺も一度アンちゃんに会った方がいい気がするわ…」 「ええ?面倒臭がりの○が急に何言い出すの」 「だってお前…」 聞いているとどうもアンちゃんは乙女思考とは縁の薄い割り切り型で、けど本人が思っているより情に厚く優しい人間の様だ。素を出した立花に動揺こそしたが、後は特に嫌がらなかったそうな。前のバイトさんが辞めた時の理由が理由だったせいか、いい子が入ってくれたと無関係の俺までほっとしてしまった。 だがこの男、乙女思考のあまり突然暴走するのは日常茶飯事で、なまじイケメンなためか天然なためか和菓子職人なんて職人道を突き進んでしまったためか…時として、非常にデリカシーに欠ける。つまりそんないい子なアンちゃんを知らぬ間に傷つけたりしてないか…最近俺はそれが心配で堪らない。 いい奴なんだよ本当。家事は得意だし頭もいいし顔は文句なし。B組の聖美ちゃんが結婚するなら絶対立花くんとか言ってた気持ちは分からんでもない。だからこそ、そんな幼馴染が嫌われるのはなんとなく阻止したいというか。 「よし、やっぱり今度行く。アンちゃんに首洗って待っとけって言っといて」 「や、やめてよ保護者でもあるまいに恥ずかしい〜!しかもそれって絶対違う意味で取られちゃうでしょ○の馬鹿!」 「ば、馬鹿っていうな傷ついた!もっと饅頭寄こせ!」 「ああ!それはおばさんの分…っ」 「あとお前あのメルヘンな窓辺片付けてけよ!仕事場近いんだから万が一同僚に見られたら恥ずいだろうが!」 「あのテディちゃん、自信作なのにぃ」 「うっせぇ!」 ああもう本当、アンちゃんご苦労さま!願わくばそのまま引き取ってくれ! 2011/09/19 22:04 |