策謀:はかりごとをめぐらすこと。たくらみ。 変わり者と名高い友人がいつも通りへらへらと楽しそうな顔で軒先に着地したのを見て、俺は持っていた湯飲みを置いて溜息を吐いた。 「友に対してその態度、深く傷つきます」 「委員会中は近付くなって言っておいたよね」 「可愛い後輩に悪影響を与えたくないのとあと面倒臭いからと言われましたね。たいがいお前も人でなしなようでホッと一安心したのを覚えていますよ」 「ならなんで来たの」 お前の委員会は碌に活動もしてないんだから、わざわざ学級に持ってくる用件なんてないだろうに。 さっさと帰ってほしくてわざといつも通りに接していたら、隣で同じようにお茶を飲んでいた庄左ヱ門と彦四郎が目をまん丸くしていた。ああ、可愛いなぁ。 「後輩にデレッデレの所悪いんですけど、事件です」 「何、遂に誰かが襲った?」 誰を、とは言わない。この学園で現在襲われるのなんて、色的な意味でも暴力的な意味でも天女と呼ばれる女ただ一人だ。 いっそ遅いくらいだなという思いで聞けば、へらへらした友人は首を横に振った。 「それはもう少しですか」 「なら何」 「○が例の彼に宗教勧誘を受けて泣いてまして」 「……ふーん?」 「ええまさに不運としか言いようがないです。奴は保健委員の方が向いていたやもしれませんね」 自称天女はどういった妖術でか学園中の恋慕の念を一心に集め、それを整理しようともせずあえて放置している節があった。いつか誰かに刺されるんじゃないかと思っていたら案の定恋人を盗られたと激高したくノたまに襲撃され、あわやという段で偶々通りかかった○が成り行きで助けていたが…思えばあれも彼の不運の一端だったのだろうか。それ以来どうも天女に付き纏われているようで、迷惑そうに逃げている○の姿を何度か見た。 「で、今○は?」 「例の一年に与えて来ました。そろそろ○にも春が来ていい頃かと」 「明日うどんでも奢ってやろうかな」 「明日は大掃除するから駄目です」 「…お前、結構怒ってるでしょ」 「当り前です」 この友人が力の加減を知らなかった昔、無駄に頑丈で間が悪い○と面倒臭がりの俺だけがなんとなく傍に残った。俺は世渡り上手だから他に友人もいるけど、意外と気難しいこいつが心許せるのは二人だけ。まして○はこいつの暴力の濡れ衣を一身に着せられ続けているが、それを一度も責めたことはない。人相も間も悪く運もなく、泣き虫でどうしようもなくお人好し、つまり○はいい奴だ。その不器用な優しさに救われているのはこいつだけじゃない。 「あー…大掃除の段取りは」 「今から詰めようかと思いまして。というわけで一年生達、先輩をお借りしていきますよ」 「ごめんな、彦四郎庄左ヱ門。もう少ししたら鉢屋も来ると思うから、今日の活動はあいつに聞いてくれ」 「えっ、いいえ!お掃除頑張ってください!」 「僕らもお手伝いすることあったら言ってくださいね。同室の伊助から掃除のコツとか聞いておきますから」 話の邪魔をしないようにと静かにしていた二人に声をかけると、首を振り生真面目な顔で手伝いを申し出る後輩に頬が緩んだ。ああ、可愛いなぁ。 明日はこの子達に会うのをやめておこっと。 - - - - 脇役と友人の暗躍 2011/07/30 01:36 |