うそつき | ナノ


残忍:無慈悲なことを平気ですること。また、そのさま。



ある日空から降って来た天女さん。
不思議な衣を着て不思議な言葉を操る美しい彼女は、争いを嫌い平和を愛する、まさに清らかな天上人。
天に帰る方法が分からないと学園に逗留する彼女に惹かれていく人間は、一人、また一人と増えていった。


かく言う僕もその一人で、太陽のような彼女の笑顔のためなら何でも出来ると思う。それくらい天女さんは僕の中で大部分を占めていた。
だから天女さんが荒くれ者として有名な○先輩に恋していると知ったときは全力で反対したし、それで顔を曇らせた天女さんが泣くものだから方向性を変えて渋々彼の元まで足を運んだ次第だ。
噂通り殴られることを覚悟していたのだけど、ほぼ何の繋がりも無かった後輩に突然「天女さんを大事にしてあげてください」と言われた彼は、暫く黙りこんだあと、何かを企んでそうな表情で腕を大げさに広げた。


「そうだな。お前が俺に『大好き』って言ってくれたら、その願いを叶えてやってもいい」


なんだ、そんなことでいいのか。
一瞬どんな無理難題を言われるのかと思ったが、驚くほど簡単なそれに僕は勢い込んで「大好きです!だから先輩、天女さんと出かけてあげてください!」と告げた。
天女さんは彼と『でえと』という逢引きがしたいらしく、それには町へ二人きりで出掛けなければならないらしい。すでに何度も誘っては断られたり無視されたりしたのだと泣く天女さんは健気で儚く、僕を奮起させた。なんとしても彼を『でえと』に了承させねば。それに噂を考慮して、二人きりで天女さんが酷い目に遭わないように釘も刺しておかなくちゃならない。
すると○先輩は目を大きく開いて、少し俯くと唇の端を歪めて笑った。艶のない真っ黒な前髪が影を作って目元が見えないのがひたすらに怖い。天女さんはなんでこの男が好きなんだろう。そういえば理由を聞くのを忘れてたや。


「ああ、分かった」


短い了承の言葉に、僕の恐怖も疑問も吹き飛んだ。早く天女さんに伝えなくちゃ。いや、○先輩から言って貰った方がいいかな?彼女は嬉しそうに、あの美しい顔で太陽の笑顔を咲かせるのだろう。きっと、とても綺麗に違いない。


小さな了解の声が震えているような気もしたが、それよりも僕は喜ぶ天女さんの姿で頭がいっぱいだった。


- - - -
夢主→数馬→天女→夢主


2011/07/18 23:23





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -