夏と法螺 「こんなに暑いと、あの夏を思い出すなァ」 男は法螺吹きで有名でした。 かつてとある学園で忍びとして学んでいたのだ、と折に触れては話すのです。 「叔父ちゃんはいつも嘘ばっかりだ」 「嘘なもんかァ」 「もういいや。行こ、仙」 「ああ」 出ていく甥達を見て、男は目を細め笑いました。 「裏山の川に行って涼むんだが、いつも最後には騒動になって全員びしょ濡れでなァ」 法螺吹きの男は水を張ったタライに足を浸けて懐かしそうに言いました。 「裏山に川なんてないぞ!長次と探検したもん!な?」 「…ん」 一緒に足を浸けながら頷く近所の子供達に、男は目を細め笑いました。 「きっとあの日、私だけ外れてしまったのかもなァ」 「なんだ、おっさん何か壊れたのか?俺、得意だから直してやろうか」 駄菓子屋でアイスをつついていると、目の前で器用に型抜きをしていた少年が話しかけてきました。 これでライバルの記録を越えたと得意気な姿に、男は目を細め笑いました。 「みぃんながいるのに覚えてるのは私だけ。ああ寂しいなァ」 男はそう嘯いて縁側でだらりと寝てしまいました。 暫くして、その体にタオルケットをかける少女。 「まったく、風邪をひいてしまうだろう…また夏風邪と熱中症を拗らせて死んだらどうするんだ、バカ」 姪は眠る男を見て、目を細め笑いました。 とある夏の、嘘つきのお話。 2011/07/11 01:17 |