[ 阿波くん放浪記 ] |
■2011/6/10 ここはとある町の片隅にひっそりと建つカフェ。 ログハウスの様な木組みの二階建ては大きくはないものの、可愛らしい季節の花やレトロなランプの下がったアーチが彩りを添え、何処か隠れ家めいた魅力を出している。正面から向かって左側には大きな木が一本のびのびと枝を広げており、真下にあるオープンテラスを木陰で優しく守っていた。 そんな何処にでもありそうなカフェだが、客足は多い。学校帰りに寄る学生。子供を連れた主婦。お昼休みの会社員。中心街から離れた位置にあるにも関わらずわざわざ出向く常連達は皆口を揃えて言う。 ―――『Café Seven』は面白い、と。 「柚葉、これ二、四、五卓!」 「分かったー」 昼下がりの店内。お昼のラッシュも粗方終わり、主婦達がケーキを前に談笑する中を両手どころか両腕にトレーを乗せたオレンジ色の髪の青年が行ったり来たりと移動していた。 載っているのはケーキやジュースだが、量による重さやバランスなどまるで無いもののように笑顔で運んでいる。 「はい、お待たせしました!ベリータルトとチーズケーキ、クリームソーダです。あと布巾をどうぞ」 「あら、ありがとう。ここのケーキ美味しいから、娘もはしゃいじゃって」 「ちーずけーき!」 「ふふっ、ありがとうございます。はーい、チーズケーキ。ひんやりして美味しいよ」 「わぁい!」 先に食べていたパンをぽろぽろと溢していた女の子の傍に布巾を置けば、向かいで母親がにっこりとほほ笑んだ。女の子も楽しみにしていたデザートの到来に顔を綻ばせる。 二人の前にケーキを置いて、次の卓にも置こうとして青年の手が止まる。 「うっ…お待たせ、しました…」 「柚葉くん相変わらずだね」 「うう…それを知っててこればっかり頼むお姉さんも相変わらずですね…」 お昼休みだろうスーツの女性がにんまりと笑えば笑うほど、青年、柚葉の顔は苦いものになっていく。その目線は今自分が運んでいたものに釘付けだ。 たっぷりとシロップを含んだスポンジの上にしっとりとしたクリームチーズと黄色のソースの層が幾つも重なり、表層にはふわふわなクリームに彩りを添える鮮やかなミカンソースが網状にかかっていた。頂点にそっと添えられたミントの緑が瑞々しさを感じさせている。 「日替わりケーキセットの、みかんチーズケーキ、です」 「美味しそう!」 「ありがとうございます」 「…ぷふっ!あ、はは!柚葉くん何もそんな、娘が嫁に行くのを見守る父みたいな目で見なくたって!」 「あっ、す、すいませんっ」 はっとした後瞬時に真っ赤になった頬に、客は更におかしそうに笑う。そんな様子を見ていた周りの客の大半も微笑ましそうだ。 「ほれ柚葉、次のん出来たで!物欲しそうに見とるんもええ加減にせぇ!」 「ち、違うよ吉野くん!じゃあ、失礼しました!」 「はいはい。お仕事がんばってね」 ひらひらと手を振る常連客の楽しそうな労わりに、ぺこりとお辞儀して奥に戻っていく柚葉。その間にも右から左からと声をかけられて、赤くなった頬のまま照れ臭そうに眉を下げてしまう。 オレンジ髪の店員、伊予柚葉が無類の蜜柑好きなのは常連客にとって周知の事実。さらにみかん関連の商品が出る際、食べたそうな、でも注文して貰えて嬉しそうな複雑な顔をすることも彼らは知っている。その顔見たさにあえて通う客もいた。 「早い話、可愛がられとるんやな」 「え?」 「おまはんがホールの日は蜜柑関連がよお出るっちゅう話や」 「美味しそうやぁ…」 「…ほれ、これ持って奥に休憩行き。んでたたき呼んでこい。へー、パスタにうどん投入すんな阿呆!」 「ちゃ、ちゃう吉野!これは常連の小禄さんが作ってみてくれて…!」 「また新しい味作り出す気かおまはんらは!!」 「人生何事も挑戦やき言うからー!」 ぴー!と涙目でうどん麺を手に主張する平野と、新メニュー開発を阻止しようとする吉野がぎゃあぎゃあと吠える後ろで、柚葉は渡された紙箱の中を覗き込んだ。 …そして、柚葉の顔が見る間に蕩けていく。 「…たたきくん、呼んでこうわいっ」 「おお、ほれ平野もさっさと注文!」 「うど「まかない抜き」あ、五卓さんお会計や!」 ぷるるんと揺れる蜜柑ゼリーは、夏に向けての新メニュー。 - - - - あまり面白い感じが出なかった…(´・ω・`) いつかリベンジしたいです。ちなみに阿波は厨房、柚葉くんと平野くんはホール、たたきくんは休憩入ってました。 |