[ 阿波くん放浪記 ] |
■2011/2/18 「七尾ぉぉぉ!!」 爆走する阿波が、視界の端に映ったクラスメイトをロックオンした。 紙パックのジュースを飲みながらのんびり歩いていた黒部はかくんと軌道修正して自分へ向かってくる物体を見てぎょっと体を強張らせる。 それもそのはず。阿波の声がするその物体は、何故かタキシードを着たピンクの兎だった。いや、着ぐるみだとは一目見て分かるのだが、それが土煙を上げながら向かってくる光景は中々にシュールだ。 思わず逃げようとしたが、時すでに遅し。兎のつぶらな瞳がカッと光ったかと思うと、急速に加速して黒部の腕を捕らえた。なんだ今の速さは。ジェットエンジンでも積んでいるのか。 「七尾、七尾!湖滋郎は魔性の男じゃ!気ぃつけんとおまはんも弄ばれてぽい、じゃ…!」 「ああ、うん。何があったが大体は分かったちゃ」 たぶんいつも通りにからかわれて阿波が暴走して自爆して今に至るのだろう。なんだかその光景を見てないのに容易に想像できてしまって、黒部は溜息を吐いた。というか兎のどアップがちょっと怖い。なんだろう、これがもう少し落ち着いた兎ならナゾナゾでも出してきそうな感じなのに。 「はぁ…ほら、クッキーあげっから勘弁して」 「え、クッキー?わーい」 「あっさりしたもんやね…」 クッキーを取り出した途端、がたがたと震えていた兎の暴走が止まり、ぱかり、となんとも簡単な音を立てて兎の頭が外れた。中から出てきたのは宇宙人…ではなく、当り前だが阿波だ。暑かったのか、若干頬が赤い。 「七尾、クッキー」 「ほら、味わって食べ」 「むぐっ」 あーんと開けられた口に勢いよく突っ込むと、目を白黒させながらも咀嚼する。徐々に笑顔になっていく阿波にもう混乱の影はなく、なんともお手軽な奴だ、と黒部はもう一度溜息を吐いた。 |