一緒にいたい

「名前ー、この後飲みに行かない?」
「え、行きたい!この前のお店行こう!」


仕事終わりに同僚に誘われた名前は久しぶりとお酒ーとワクワクしながら居酒屋に向かった。


のが、3時間前。


今、目の前に唇をとんがらせて怒っているバーボンがいる。腕を組んで仁王立ち。


「どういうことですか」
「…あの」
「飲みに行ってたなんて連絡もらってないです」
「何故バーボンに言わないといけないのですか…?」
「何か?」
「いえ」


因みに名前は正座。
バーボンがとても怖い。凄く怒ってる、と冷や汗をだらだらと流す。そもそも彼の連絡先を知らないのだから無理だ。


「どうして飲みに行ったんです」
「どうして…?」
「理由」
「えと、お酒好きなので…?」
「僕より?」
「いや、あの」


何で怒られてるんだろう…?と彼女の頭の中はハテナでいっぱいだった。飲みに行ってはいけなかったのだろうか…?
はっ!とする名前。


「(そ、そうだよね!バーボンが待ってるかもしれないのに飲み行ったら寒い中待たなきゃいけないし!実際待ってたし!)」


だから怒ってるんだ!と理解する。
兎に角謝ろう。


「バーボン、ごめんなさい」
「何が?」
「バーボンを寒空の中待たせてしまったことです…」
「…………」


あ、もっと怒った。

つーん、とそっぽをむいてこちらを見てくれないバーボン。謝ったのにもっと怒らせてしまった…と半泣きになる名前。


「バーボン、」
「…」
「バーボン…」
「…」
「無視…」
「……」


返事なし。
ど、どうしよう、完全にシカト…と青ざめる彼女。話し合いすらさせてくれない。


「あの、甘いもの食べませんか…?」
「…」
「職場の同僚から旅行のお土産もらって…」
「……」


もう無理、仲直りできないと1人でお土産の饅頭を食べる。もそもそと寂しく食べていると彼女はぽつりと呟いた。


「バーボンに嫌われた…」


しくしくと泣き始める。
その瞬間、そっぽを向いていたバーボンが勢いよく彼女の肩を掴んだ。青ざめてとても焦っている。


「き、嫌ってないです!!」
「だって、無視…」
「違います!!!嫌ってるつもりじゃ…!す、すみません、意地悪しましたもうしません!!」
「ほ、本当…?」
「本当です!嫌ってないです、寧ろ…、…」


寧ろ?と彼女は言葉の続きを待つ。口を紡んだまま彼は顔を赤くして…思い切り自分を殴った。ぼたぼたと流れる鼻血に彼女はぎゃー!と驚いた。


「え、え!?大丈夫ですか!?」
「大丈夫です…生きてます…」
「良かったです!!」


この気持ちには蓋をしておかないと。
ティッシュで彼の鼻血を拭く彼女に彼はかっこ悪い…とげんなりする。


「だ、大丈夫ですか…?」
「はい…」
「怒ってた理由聞いてもいいですか…?」
「…そ、それは」


あ、また言いづらそう、でも話できて嬉しいと彼女は安心する。しかし、そんな雰囲気も束の間、彼は彼女の頬をいつも彼女にしてもらっているように撫でる。あれ、珍しい、と彼女はちょっと思う。


「寒空の中、待つのは怒ってないですよ」
「よ、よかったあ…」
「僕は貴方と会えるならいくらでも待ちます」
「ん?うん?」


少し雲行きが怪しい。


「飲み行くのは嫌ですね。僕との約束忘れたんですか?」


すりすりと彼女の頬を撫でる手が生暖かい。


「約束…?」
「ずっと片時も僕の側を離れないって約束ですよ」
「そんな約束しましたっけ…?」


覚えがないぞ、と彼女は首を傾げそうになった瞬間、撫でてない方の手で頬を挟まれた。視線が逃れられない、と思わず冷や汗を流す。バーボンまだ怒ってた。


「しました。プレゼントがなくてもずっと側にいるって」
「あ、ああ、あれはそういう意味では」
「そういう意味ですよ」


そういう意味だったんだ!と衝撃を受ける名前。私はなんて軽はずみな言動を…!


「で、でも片時も離れないのは無理ですよ?」
「…」
「私だって他の人との時間がありますから…」
「…わかりました」


あ、拗ねちゃったと彼女は心配そうに彼の名前を呼ぶが返事がない。すると彼はぽすんと彼女の太ももに頭を乗せて「…撫でて」と呟く。きょとんとした彼女はふふと微笑んで言われた通り撫でる。


「そんなに一緒にいたいなんてバーボンは可愛いですね
「べ、別に」
「ふふ、いい子いい子」
「、…もっと」
「はい、勿論」



でも他の人と一緒にいるのはあまり好きじゃない。



こっそりと職場から出てくる彼女をつける。職場の人間と一緒だ。今日も可愛い…と惚れ惚れする自分にハッとして顔を横にブンブン振る。そんなこと思っちゃだめだ。

彼女とはそういう関係にはなれない。ただえさえ日向の人間とは一緒にいてはいけないのに。


「ねえ、夕飯一緒に食べない?」
「え?」


ダメ、絶対ダメ。そう念を送るが、彼女に届くわけもなく。しかし、


「うーん…ごめんね。今日は友達が遊びにくるの?」


友達?と同僚が首を傾げる。

心が満たされる感じがする。嬉しい、友達と言ってくれて。嬉しい、優先してくれて。

名前さん、名前さん。


「…気持ちが抑えられなくなりそうだ…」


ぽつりと口から吐き出して、彼はドキドキと鳴る心臓を押さえた。



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