それはそれ
「貴方のこと可愛いとは思ってましたけど、気持ちいいとかは別に…」
つまり可愛いから撫でてた。バカにしてるのか。
あまりのショックで固まるバーボンの顔を覗き込む彼女。ハッと正気に戻ると彼は言った。
「いや、でも心が満たされた感じはしたでしょう…?」
「どういう感じですか?」
「満足したというか…」
「???」
首を傾げて本当によくわからないと顔に書いてある。
彼は密かに考えていることがあった。
それは彼女にしか出来ないことで、domにしか出来ないこと。
なのに
「本当にdomじゃないんですか…?」
「そうですよ
」
ニコニコしている彼女とは裏腹にショックを隠しきれないバーボン。
そんな…と黙ってしまった彼に彼女は心配そうに話しかけた。
「えと…すみません。なんでそんなにショック受けてるんですか?」
その言葉にむぐ、と唇を固く紡ぐ。言えない、こんなこと考えていたなんて。いやでも彼女なら快く引き受けてくれるかもしれない。でもdomじゃないから無理かも、でも、でも。
黙って何かを考えているような彼に彼女は不思議そうにする。
「バーボン…?」
「…あの!」
「は、はい」
突然大きな声出した彼の声に驚いて肩をはねらせる。意を決したが不安なのか彼はそんな表情で彼女の両手を取る。
「あの、…」
「何ですか?」
やっぱり無理、と自信をなくす。
するとそれを察して彼女は優しく言った。
「言って欲しいな」
「絶対困りますよ…」
「大丈夫ですよ」
「でも…」
すると、彼女は彼の頬を撫でる。嬉しい気持ちいいと彼は擦り寄る。でもそれに浸る余裕は無くて目を泳がせて言う。
「僕の…パートナーになってくれませんか…?」
「え?」
「あ!いや、仮です、仮」
「わ、私domじゃないですよ…?」
困ったように微笑むと彼女は手を離した。その手を追いかけるように彼は再び掴むと懇願した。どうしても彼女に仮のパートナーになって欲しい。
もっと癒して欲しい、もっと気持ちよくして欲しい。
「それでもいいんです」
「えと…、仮っていうのは…?」
「どちらかが好きな人が出来ればこの関係は終わりです。それか貴方が嫌と言えば僕は身を引きます」
「…」
「だからお願いします。ここに来させて…」
仮のパートナーにならないとここに来る理由がない。もっと来たい、もっと会いたい。
こんな恥ずかしいことして、穴があったら入りたい。でも言わないと何も進まない。
彼女が黙ったままこちらを見ていて不安で仕方ない。
「いつでも来ていいですよ?」
「……へ?」
「来たい時にいつでも来ていいですよ。仮のパートナーじゃなくたって来てもいいんですよ」
「で、でも」
「私はバーボンと仲良くなりたいな」
「な、なんで?」
「折角出会えたんですもん。…バーボンは仲良くなりたくない?」
そんなの決まってる。そんなの聞かれなくたって。ぎゅっと彼女の手を握る力を強くする。
「なりたいです。沢山撫でられたい」
熱い視線で彼女を見ると「ふふ、嬉しいです」と彼女は笑った。バーボンの頭を撫でると彼は緩む頬を必死で耐えた。
「subのことはよく分からないけど、撫でられるの好きなんですね
」
「き、気持ちよくて…」
「私で良かったら沢山撫でますよ!」
「毎日?」
…ん?と笑顔で固まる彼女。今なんて言った?
彼は顔を近づけて期待の眼差しで言った。
「毎日撫でてくれますか?」
「毎日は…えーっと…難しいかな…」
「そ、そうですか…」
「ご、ごめんなさい」
「い、いえ、僕こそ…」
僕は何を言ってるんだ、と頭の中で自分を殴る。毎日なんて無理に決まってる。遠慮しないと。
撫でられていると頭が鈍る。
少ししゅんとしてしまった彼に彼女は微笑んで言った。
「でも来てくれたら、沢山撫でてあげますよ」
「…あ、明日来ても…」
「勿論いいですよ」
「…ありがとうございます…」
「待ってますね」
一言一言が優しくて温かい。ついつい甘えそうになる気持ちを必死を抑える。でも、よしよしと撫でられるのが嬉しくてたまらない。
気持ちよさにうとうとしていると軽く頬をポンポンと叩かれた。…ん?と顔を上げると彼女が困ったように言った。
「もうそろそろ寝ますから…」
「…」
じっと彼女を見つめて、彼は気まずそうに「…もう少しだけ」とぽつりと呟く。
「ふふ、少しだけですよ」
どきどきと鳴る心臓は無視するかのように彼は目を閉じた。
最近、凄く調子がいい。よく眠れるし、体も軽い。
自室に一人いる彼はベットに座る。なんでこんな調子いいんだろ、と考える。
「…………名前、さん」
ぽつりと呟くと、ハッとして顔を横に振る。なんで彼女を思い浮かべるんだ…!とまた頭の中で自分を殴る。違う違う、そんな彼女のお陰じゃない。でも彼女と会ってからだ、体調がいいのは。
会いたい。
明日も会いに行こう。
楽しみ…と頬を緩めながら彼はベットに寝転がった。
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