弄ぶ
subは欲求が満たされないと体調が悪くなるらしい。
そ、それは大変だ。
「わ、私にできることがあれば何でもしますからね!」
「…本当ですか?」
「はい!」
「優しい…、そしたら毎日大好きって言いながら抱きしめて下さい」
「え、」
ま、毎日…!?と目を丸くすると隣に座るバーボンはべったりと私に抱きついた。な、なんだか大変なことになったぞ…!
というか、なんだかさっきからべったりしててバーボンがバーボンじゃないみたい…。何か吹っ切れたような…。
「そうしないと僕体調悪くなります…」
「う…」
「それでもいいんですか…?」
「で、でも…」
そんな恋人みたいなこと出来ない…と黙るとじっと見つめていたバーボンがうーんと口を開いた。
「…まあ無理やり言わせるのはあまり興奮しませんね」
「?何かいいました?」
「いえ、そしたら」
ずい、と顔を近づけられて彼の顔が至近距離にあって目をぱちくりとさせていると唇に人差し指が触れた。
「ここにキスさせてください」
「へ!?無理です!無理無理!」
「はあ…ピュアで可愛い…」
「な、何言ってるんですか…?」
わかった、バーボンが壊れた。だってこんなデレデレになるなんておかしいし、キスしたいなんて今までの君はどこに行ったの?
今にもキスしようと顔を近づけてくるバーボンに腕を前に出して拒否する。恥ずかしくてそんなの無理!!
「はあ、はあ名前さんとキスしたい…」
「い、いやー!」
「…う、」
抵抗が無くなったと思ったらバーボンが青ざめて私の膝に頭を乗せてきた。え、え?と戸惑っていると彼は「くらくらする…」とまだ不調らしい。subって大変だなあ…と彼の頭をよしよしする。
「今日はゆっくりしてくださいね」
「キスして…」
「だ、ダメです」
「…」
「不貞腐れてもダメなものはダメです」
「キスしてくれたらすぐ治ります…」
「それ以外ならたくさんしてあげますよ。撫でるとか褒めるとか」
キスはダメ。バーボンとそういう風な関係になりたいとは思わない。
バーボンの頭を撫でていると「名前さん…」と小さく名前を呼ばれた。
「ん?何ですか?」
「僕…貴方とパートナーになりたい」
「うーん…それって何するんですか?」
すると彼は起き上がってすぐに私の手を取った。
「僕の体調が悪くならないように撫でて褒めて欲しい」
「他は?」
「命令だってしてほしい。キスもしたい」
「キスはダメですよ」
「どうしても?」
「どうしても」
落ち込んだ表情見せる彼に少し心が痛む。でもダメだよ、と彼の頭を撫でると抱きしめられた。
「…唇にはしないから。頬とか額にさせて欲しい」
「えーと…」
「お願いします。唇は我慢します。だから他は許して欲しい…」
そこまでしないと体調悪くなるのかな。
体調不良になるのはよくないし…と悩む。ちらりとバーボンを見るとじっと私を見つめていた。…はあとため息を吐くと私は言った。
「分かりました。それだけは許します」
「!嬉しい…!」
「わっ」
思い切り引き寄せられて額や頬にキスされる。は、恥ずかしいけどバーボンの体調のために我慢しなきゃ…と耐える。
「バーボン、体調はどうですか?」
「少しくらくらするけど…でも最高です…」
「(最高…?)そう?そしたらもう少しゆっくりしましょうね」
「ふふ、名前さん」
べったりとくっつくバーボンに私はん?と首を傾げる。
「大好き」
…。
「私も好きですよ」
「!本当に?」
「はい、本当です」
「嬉しい…僕のパートナー可愛い、好き」
バーボンに凄く懐かれたな…。
ある日。
「名前さん、命令して?」
「えっと…」
「kissって命令して」
「それはダメです」
ねえねえ、と甘えるバーボンは隣にいる私にくっつく。
「キスしないっていう約束でしたよ」
「う、…」
「ね、ちゃんと約束守らないとダメですよ」
「…はい」
しゅん…と落ち込む彼の頭を撫でると幸せそうに目を細めた。
勘違いする。彼が私のこと恋愛的な意味で好きなんじゃないかって。いつも私を求めてくれて、必要とされて嬉しい。
けど、私は今は恋愛する気はない。
「名前さん…」
「ん?何ですか?」
「好きって言ってほしいです」
「…」
私は彼の体調が悪くならないようにしたい。
「好きですよ」
そう言うと彼は嬉しそうに頬を赤く染めて、そこを撫でる私の手に擦り寄った。
勘違いしてはいけない。
「嬉しい…」
「…」
「もっと言ってほしい…死ぬほど言われたい…」
「バーボン…」
「名前さん、僕は」
私の言う好きは貴方の期待するような意味はない。なのに、こんなに嬉しそうにされて罪悪感が募る。
彼の言葉を待っていると頬に両手を添えられた。
「貴方に弄ばれてるのがとても嬉しくて仕方ないです」
あ、バレてた。
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