寝言

「…」


彼女の部屋でほわほわと花を浮かせるバーボン。緩みきった表情をして彼女の帰りを待つ。
ゴソゴソとポケットの中に手を入れると、出てきたのは鍵。ここの部屋の鍵。彼女から渡されたものだ。


「ふふふ、」


つまり合鍵。
嬉しくってニヤニヤが止まらない。これで隠れて作った鍵は必要無くなる。彼女の許しを得て部屋を自由に行き来出来る。


「さてと…そろそろ」


立ち上がって主人のいない部屋を歩く。クローゼットやチェストの引き出しを開けると、音を立てて中を物色する。鞄も遠慮なく開けるがすぐに閉じた。


「浮気してないみたいでよかった」


あったらどうしようかと不安だったと言うように呟くとまた定位置に座ってベットにもたれかかる。


「早く帰ってこないかなあ…」


そして目を閉じた。



ガチャガチャと鍵を開ける音で目が覚めた。ハッとして小走りに玄関に向かうと愛しの彼女が帰ってきた。


「わっ」
「名前さん!」


彼女が出てきた瞬間、抱きつくとそのままちゅ、ちゅとキスの雨を降らせる。「来てたんですね」と彼女は彼の頭を撫でる。


「ただいま」
「お帰りなさい」
「夕ご飯今から準備しますね」
「…」
「?どうしました?」


黙ってしまった彼に名前は首を傾げる。目を泳がせてなんだか少し緊張してる?と心配する。


「…今度食事しませんか?」
「え?」
「美味しいレストランがあるんです。よかったら…」
「勿論、いいですよ!バーボンと食事なんて楽しみです」


喜ぶ彼女に安心して彼もぱあと明るくなる。ぎゅうぎゅうに抱きしめると思い切り匂いを嗅ぐ。


「好きって言って欲しい…」
「バーボン大好きですよ」
「僕も世界一好き…」
「ふふ、可愛い」


ハートマークを浮かべる彼に彼女はそれを受け入れて抱きしめ返す。すると彼もお返しとばかりに強く抱きしめる。どうやら彼はいちゃいちゃしたいらしい。しかし、パッと彼女は離れると言った。


「それじゃ私は夕飯を作りますので」
「!!もう少し抱きしめて欲しいです、もう少しだけ」
「だめです」
「名前さん…」


あからさまにショックを受けるバーボンに彼女は小さく笑う。




合鍵なんて渡さなくても彼女は僕が守る。
一度帰ると部屋を出たが、彼女が寝静まった後に合鍵で部屋に入った。天使の寝顔で眠る彼女が可愛くって仕方ない。緩む顔を隠そうともせず彼は手を伸ばした。名前の頬を撫でると呟く。


「可愛い…」


彼女が合鍵を渡したのは信頼してるから。
夜、彼女より早く部屋に着いた時に寒くないようにと渡した。
けど、彼は何かあった時のために渡してくれたと思っている。


「本当に可愛い…連れて帰りたい…」


ぎゅう、と抱きしめる。頬擦りしたりキスしたりと目一杯愛するとギシ…と音を小さく立ててベットに乗る。


「はあ…名前さん」


早く、早く一つになりたい。好きで好きで仕方ない人と付き合えて舞い上がってしまう気持ちを抑えるが、我慢できない。馬乗りになると彼女の頬に手を伸ばして撫でる。


「寝顔可愛い…可愛い…」


自分しか見れないその表情がもっと見たい。れろ、と頬を舐めるが彼女は全然起きる気配がない。それをいいことに彼はやりたい放題。
興奮混じりに名前を呼ぶと彼女の頬を両手で挟んで唇にキスをする。


「ん、…僕だけがキスしていい…」


特別が嬉しい。
荒い呼吸を隠そうともせず、彼のキスしたまま彼女の腹や腰を撫で始めた。もう少しでこの先だっていける。はあ、はあと興奮すると段々を撫でる手を上へと持っていった。


「名前さん…触りたい、触ってもいいですか…?」


鳩尾までくるとバーボンが眉を下げて我慢できないといった表情で彼女に問う。
好き、大好きだからその先も触れたい。触れることを許してほしい。でもこの線より先は許しがないといけない気がする。


「僕のこと大好きでいて…」


勝手に超えることを許して。
彼女の胸に手を伸ばそうとすると、


「…ん、?」


彼女が起きた。どっと青ざめるバーボンはやり過ぎたと後悔した。名前はうつらうつらする目で彼をみると、彼の頭に手を伸ばした。叩かれる、嫌われると汗を流すバーボンはぎゅっと目を瞑った。


「…、……?へ?」


次の瞬間、わしゃわしゃと頭を撫でられて目を開けた。そのまま抱きしめられて隣に寝かされた。

…寝ぼけてる?

と思うと同時に彼女は半分夢の中に入った状態で彼の頬を撫でながら呟いた。


「んー…、…すき」


その言葉だけで彼の心を支配するのは容易かった。完全に夢の中に再び入った彼女はすぴーと寝始めた。そんな彼女を彼は熱い視線で見つめて、少し空いた唇で呟く。


「…僕は一生貴方のものです」


その後は彼は彼女を抱きしめたまま、幸せな夢を見始めた。





朝起きたら何故か隣にバーボンがいて驚いて一瞬やらかしてしまったのかと冷や汗が流れた。そんな彼女はバーボンを起こすと彼は幸せそうに言った。


「…最高でした」
「へ!?いや、あの」
「そんなに僕のこと好きなんですね…僕も貴方のこと死ぬほど好きです」
「よ、夜は何をして…?」


お酒飲んでないのだから記憶なくなったとかないだろうし、そもそも帰ったはずの彼が何故いるのか。聞きたいことは色々ある。
彼女の様子を見てああ、と納得したバーボン。彼は彼女の手を取るとキラキラとした表情をした。


「愛を確かめ合ってました」
「ま、まさか」
「ふふ、いつか僕の全てを受け入れてくださいね」


ふふふ、と幸せそうに微笑む彼に彼女は全部?と首を傾げた。



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