幸せな時間

「何か忘れてません?」
「?何がですか?」
「…」


朝、起きた時にバーボンがちょっと拗ねたように言ってきた。すすす…と近寄ると顔を近づけてきた。


「一週間頑張りました。ご褒美ください」
「あ」
「あ、…って忘れてたんですか?」
「そんなことないですよ。はいはい」


色々あってもうなかったことになるのかと。
彼の両頬を挟んで自分の方へと寄せるとそのまま唇にキスした。すぐ離れたそれにバーボンは物足りなく顔を近づけてもう一度しようとするが、彼女が「こら」と止めた。


「また今度ね?」
「今したい…」
「私、仕事行かなきゃなんです」
「…」
「時間無くなっちゃいますから次会った時のお楽しみです」


頭を撫でられると彼は大人しく離れた。ああでも幸せ…晴れて恋人関係になってそしてキス…と幸せに浸るバーボン。これからもっと愛し合いたい。
その為には


「名前さん、好きです」
「私もバーボンのこと好きです」
「もっと言ってほしい…」
「大好きです」
「…どれくらい?」
「へ?」
「どれくらい僕のこと大好きですか?」


きらきらとした期待の眼差しでそう聞かれて困った名前はうーんと考えた。そうだなあ…。


「えこ贔屓したいくらい好きですよ」
「!沢山して欲しいです。特別扱いしてほしい、優先してほしい」
「勿論です」


名前さんすき…とべたべたと抱きつく彼に「ね、遅刻しちゃいますから」と離れるように遠回しに言うと、んー…と離れ難いバーボン。


「夜迎えにいきます…」
「職場の場所知ってるんですか?」
「名前さんのことなら何でも知ってます」
「ちょっと怖いけど…分かりました。職場の最寄りで待ってますね」


ふふん、とドヤ顔するバーボンにちょっと恐怖しながら了承するとやっと離れてくれた。鞄を持って玄関に向かう彼女の後をぴったりとついていく。幸せいっぱいな彼はかなり上機嫌だ。すると彼女は立ち止まって、こちらをくるりと振り返った。


「バーボン」
「?」


彼の頬を両手で添えてそのまま顔を近づけさせると、再び唇にキスした。すぐ離すとぽかんと口を開けたバーボンがいて、少し笑う。ぽんぽんと頭を軽く撫でると彼女は言った。


「行ってきます」


がちゃんと閉まる玄関。ぽつんと残された彼はまだ放心状態。段々と状況を理解すると顔を緩ませた。わー!とベットにダイブするとキスされた感触を思い出す。
幸せ過ぎる…!と有頂天になる。

僕は愛されてる。


「名前さん好きだ、もう大好き。僕だけの天使。早く結婚したい…」


はあはあと興奮する。好きが止まらない。大好きすぎて苦しい。でも自分と同じくらい好きでいてほしい。この身も心も全て彼女の物なのだから、全力でもっと愛して欲しい。ゾクゾクする身体を抑えるが幸せすぎてたまらない。


「もっとキスされたい、したい、はあ、はあ…」


その先だって行きたい。
苦しいくらい愛されたいし、それくらい愛することを許されたい。
でも彼女なら受け入れてくれる筈。

今夜が楽しみ…。




「あ!名前さん!」
その日の夜、最寄りで彼女を待っていたバーボンはキラキラとした表情で彼女を見つけると駆け寄ってきた。名前の両手を掴むとうっとりと彼女に見惚れる。


「お疲れ様です」
「はい、お疲れ様です」
「キスしてもいいですか?」
「ダメです」
「な、なんで」
「外ですよ、帰ってから沢山しましょうね」
「死ぬほどしたい…」
「勿論、いいですよ」


ハートマークが沢山飛んでいるバーボンに彼女はニコニコしながら答える。幸せだなあ…と思う彼女は彼の車に乗り込む。運転する彼をチラリとみると彼も楽しそう、幸せそう。

着いたのは彼女のアパートの前。彼は素早く出ると彼女の手を引いて部屋に小走りに向かった。
早くキスしたい、待てない。


「んっ…」


彼女の部屋のドアが閉まった瞬間に名前を引き寄せてキスをする。好きすぎて重い愛を受け入れてもらえるように彼女に体重をかけると、彼女はバランスを崩しそうになりバーボンにしがみつく。それが嬉しくて彼はもっと体重をかけて深いキスをする。しかし、彼女は息が苦しくて彼の肩を叩いた。


「くるし、」
「…もっと、」
「ね、ちょっと休憩…」
「…」
「んん、っ」


休みたがる彼女に無理やりキスして、今度は離れないように後頭部を押さえる。柔らかい唇の感触を味わうかのように角度を変えて何度も食む。


(気持ちいい…)


今まで感じたことのない快感に溺れそうになる。
でももっと溺れたいと彼は更に体重をかけるとそのままぬるりと舌を彼女の口に捩じ込む。それに驚いた彼女は思わず目を見開くが彼は構わず奥へ奥へと入れる。


「ふっ…ぁ、」
「……んっ、」
「ね、もう」
「すき…」


そう呟けばすぐ様口を塞いでくる。吐息が混じって体が熱い。くちゅ、と卑猥な粘着質な音と聞こえる吐息に彼は興奮して彼女の口の中に唾液を流し込む。彼女は受け入れようと必死にそれを飲み込むが、口の端に溢れてしまう。


「はあ、ぁ」
「…、名前さん」
「むり、もうむり」
「…」
「休憩…させてください…」


彼女は力無くへたりこんでしまった。
呼吸が続かなくて無理という意味だったが、自分の愛を受け入れるのは無理と取ってしまった彼は焦って彼女に体を近づけた。床に膝付いて顔を近づける。


「欲しい、名前さんが欲しい」
「もうあげてます、」
「まだ…、唾液下さい…」


はあ、と吐息を漏らすと彼は彼女を追いかけるようにキスをした。



「キスしたい」
「今ご飯食べてるので後でね」
「今したい」
「少し我慢して、ね?」
「名前さん可愛い…」
「話聞いてます?」


夕食を食べる彼女をうっとりと見つめる。キスしたくて仕方ないらしい。そんなに見られると食べづらいな…と彼女はもそもそと食べる。


「バーボンは本当に食べなくていいんですか?」
「仕事で食べてきましたから」


そういえば、彼の仕事は企業秘密なんだっけ?と彼女は前に言われたことを思い出す。全く仕事の話をしないから普段何してるのかわからない。仕事以外で私と会ってない時は何してるのか聞いてみると、


「名前さんをどうやって手に入れるか考えてます」


と満面の笑みで言われた時は黙ってしまった。私はやばい人と付き合ってしまったのかもしれない…と思ってしまう一般人女性。


「ごちそうさまでした」
「名前さん…」
「はいはい、おいで?」
「好き…」


彼女に近づいてぴとりと抱きついて、ちゅ、ちゅとこめかみや目尻にキスの雨を降らす。彼女も照れながらも嬉しそう。すると彼はふと止まると不安そうな表情で言った。


「…本当に僕と付き合っていいんですか?」
「へ?」
「後悔しませんか?」
「どうして?」


優しく微笑むとバーボンは目を泳がせた。名前が頬を撫でると観念したように言った。


「僕、自分のこと話さないじゃないですか…こんな怪しい人間を…」
「それでも私はあなたのこと信じてますから」
「すぐ嫉妬するし…」
「嬉しいです」
「束縛だってしますよ」
「してほしいな」


すぐ即答してくれる、受け入れてくれる彼女に嬉しいけど…と複雑な気持ちになるバーボン。
額と額と合わせると彼は話し続ける。


「別れたいって言っても絶対許しませんから」
「勿論いいですよ」
「…嬉しい」
「ふふ、可愛い。不安だったんですか?」
「不安ですよ、こんな天使が僕と付き合ってくれるんですから」


すると、彼のスマホが震えた。電話らしい。彼はそれに出ると「…はい、分かりました。……今から行きます」と返事だけして通話を切る。仕事の呼び出しだろうか。こんな時間に忙しいんだなと思っていると彼に抱きしめられた。


「名前さん大好き」
「私もです」
「…」


彼は少し離れて顔を見合わせる。幸せいっぱいなのか嬉しそうに微笑んでいる。彼女もニコニコしていると彼の手が頬に添えられた。


「いつか汚させて下さいね」


僕の手で。



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