「はー、テニス部」


名前はあっけらかんと言った。またか、と。
目の前の菜々は顔を赤く染めながら楽しそうに話す。


「幸村君ちょーかっこよくてえ、あ、どれくらいかっこいいのかというとね!宇宙5個分くらい!」
「意味わからん」


ずずーとリンゴジュースを飲む名前は興味なさげに返事した。
よくもまあこれだけテニス部好きなのにマネージャーには興味ないのか不思議である。
それよりも次の英語は小テストがある。勉強しないと。
すると、菜々はボソリと呟いた。


「…まあ、そのテニス部になんか目つけられてるんだけどね」
「は?」


めちゃくちゃ表情暗いじゃん…。







「凛、友達がほしいらしい」


三日前、部室に集まったテニス部。難しい顔してそんなことを言う幸村に他のレギュラーはそらそうだろうよ…と口には出さなかった。そもそも彼女が友達を欲しがっていたのは皆、前から知ってる。因みにこの場に凛はいない。


「…いや、皆が言いたいことはわかる。凛が友達になりたいと思ってる子がいるらしい」
「へー、どんな子なんだよ」
「俺も気になって話しかけてみたけど…なんか、…電波?みたいな子だったな」
「電波…」


丸井がこの学年である意味有名な長谷川のことを思い出す。え、嘘、ああ言うタイプが凛好きなの?絶対仲良くなれないわ。いやいや、でも本人が仲良くしたいのなら外野がとやかく言うべきじゃない…。


「というか、幸村君。そういうのは凛に任せたらいいんじゃねーか?俺達が首突っ込むわけにないかねえよ」


確かにそう。いくらテニス部関連で虐められているのだからと言って、彼女の友達に自分達が関わるのはやり過ぎな気がする。あくまで、凛が困った時に力を貸すくらいがいい。
すると、幸村は腕を組んでうーんと悩んだ。ここまで悩む彼を見るのは珍しい。


「…それが凛は話しかけるのも難しいらしい」


その場にいた全員、あぁ…と声を漏らした。


と、言うわけで幸村から聞いた凛が仲良くなりたいその女子生徒の名前を聞くと杉野菜々というらしい。その日の放課後、その生徒がいるという教室に幸村と丸井は行ってみる。教室のドアからこっそりと…周りには何してるんだこの二人?と思われながら覗く。


「あの子。窓際で話してる子」


幸村が小さく言う。丸井はどれどれ…?と探す。

下手に首を突っ込むのはいけないと思っていても、なんだかんだ心配な丸井。凛が虐められないか、仲良くなってもテニス部のことを知って離れていかないか…そもそも仲良くなりたいと思うほどの子はどんな子なのか。色々と不安だった。
そりゃ守れるものなら守りたい。

窓際には女子生徒は二人いた。ギャルそうな女の子と隣で気だるそうに話す女の子。


「…どっち?」
「柳に写真見せてもらっただろ?」
「あ、確かに」


幸村以外、杉野菜々がどんな顔をしているのかわからないので柳に写真を見せてもらったんだった。見た目完全にギャル。柳がなんで写真を持っているかなんて知りたくない、怖い。


「えー…、ま、まあ…明るそうな奴、じゃね、」


あまり悪く言いたくない。おとなしい凛とは合わなそうだけど、話してみたら違うのだろうか。
「そうだよね、」と幸村もちょっとね…という感じ。


「え?杉野、テニス部好きなの?まあでもそんな感じするよねー」
「そうそう、部活ない日は毎日テニス部見に行ってるとか言ってたよ」
「行きそう!」


後ろでキャッキャと女子生徒の会話が聞こえる。「「…」」と黙る二人はドアから離れると顔を見合わせた。

これは…よろしくない。







そして、現在。菜々ははあ…とため息をついた。


「意味わかんない。行くとこ行くとこ、テニス部が視界に入ってくるし」
「ほー、何でだろうねえ」
「私なんかしたかなあ」


ちら、と菜々は教室のドアの方を見ると、幸村がいた。それに名前も気づくとあー、絶対菜々のやつ。幸村君かっこいーとか思ってるわ。と菜々の方を見るとうっとりしていた。


「そこに幸村君いるし、聞いてみたら?」
「え、やだよ。…てかなんで幸村君のこと知ってるの?」
「前に廊下で会った。多分その時部活のペナルティのやつ持ってたから不審に思われてさ。あはは
「ああ、あのガラクタ…」


凄い怪しまれてたな、流石にあのガラクタ持ってたらどんな人も不審に思うか。結構頑張って作ったんだけどな…。でもナンパされたのはびっくりしたな、ん?されてないか!名前聞かれたからなんか面倒なこと起こりそうと思って菜々の名前言っちゃったんだよね。だって軽々しく個人情報を人に教えるなって言うじゃん?


…ん?


「…まさか」
「どうしたの?名前」
「いやー、何でもないっ」
「ふーん?」


もしかして…もしかしなくて…。
知らぬが仏!!


「とりあえず頑張れ」
「何かあったら力貸してね」
「勿論」


キャピ、とウインクした名前に菜々は少しおかしかったのか安心して微笑むと言った。


その日の帰り、菜々は部活なので名前は一人で校門を目指し校庭を歩いているととんとんと肩を叩かれた。


「こんにちは」
「oh…」


笑顔の幸村がいた。思わず顔が固まる名前は一歩距離を取る。

なんで菜々(私)につきまとうのかわからないけど、多分私が何かしでかしたからそういうことしているんだ。ということは??そもそも幸村君と初めて会ったあの時、彼は私に用があった?つまりその前に何かやらかした。そして、名前を聞かれた。その上私は菜々の名前を勝手に使った。

やらかしすぎでは??あのことがバレた??


「杉野さん、帰るの?」
「い、いえす、」
「あはは、そんな警戒しなくていいよ」
「おけ。私急いでるから。さらば!」
「まあ、待ちなよ」
「ぐえ、」


走り去ろうとした名前の襟を遠慮なく掴む彼は全く力を入れてない。なのに、名前は首が閉まった。逃げるのは無理な模様。
…成る程、バレたか。


「でさ、話なんだけど」
「分かった。よーく分かった。あのお嬢さんに伝えといて」
「え?」


あのお嬢さんとは凛のことだろうか、と幸村は目の前の彼女の話を聞こうとする。すると彼女は鞄を開けてゴソゴソと何かを探し始めた。そして出てきたのは怪獣のキーホルダー。それを幸村に渡すと言った。


「あの子の猫ちゃんのキーホルダー拾う前、実は少し踏んじゃったんだよね…すみませんでした!!!」
「あ、え…?」
「お詫びと言っちゃなんだけどそれあげるから許してほしいななんて…」
「…」


よーし!呆然としてる今がチャンス!!
「それでは!」と言って名前は学校から出た。
なんで呆然としてたのかわからないけどとりあえず謝ったから大丈夫でしょ。早く帰らないと妹に怒られちゃう。




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