「名前ちゃん……」
「あ、長谷川さんじゃん。どうしたの?」


とある日の放課後、長谷川は普通に下校しようとした名前を見つけて話しかけた。
物々しい雰囲気に名前はたじろぐことなく鼻くそをほじる。


「名前ちゃん、部活始まってから部室きてないよね…??」
「うん」
「百恵ちゃん凄く怒ってるよ……」
「まじか」


オカルト研究会、部長の長谷川さん、副部長の謎の百恵ちゃん。そして名前。部員3名の小規模部活。


「百恵ちゃんから伝言…3日以内にペナルティとして発明品持ってきてね……勿論発表してもらうから…ふふ、」
「えー、何でもいいの?」
「勿論……でもオカルトに関係するものじゃないとだめだよ……」
「あいよー。ちゃんと持ってくね」
「…」


当たり前のように去っていった名前に長谷川はなんで?と首を傾げた。
部活に行く気のない名前。これはいけない。







「何作ってんの?名前」


休み時間、名前は画用紙とセロハンテープで箱のようなものを作っていた。一面にはペンで書かれたON/OFFやボタンのようなものがたくさんあった。


「見てわからんかね」
「分からないから聞いてんだけど。小学生の工作かな?」
「この魅力がわからないとはまだまだ子供だな…」
「で、何それ」


名前のボケはスルーして菜々は聞いた。どう見てもガラクタである。


「部活全く行ってないからペナルティ出た」
「はあー、おつ」
「流石に一回は出た方がいいか…」
「いや週一なんだから毎週出なよ」


何としてでも部活に出たくない名前。頑なに行こうとしないから菜々はいつも何かあるの?と聞くが彼女は家事しなきゃいけないからとはぐらかす。両親も妹もいることは知っている。


(はっ…まさか毒親で家事させられて休む暇ないとか…!?…ないか)


鼻歌歌いながら何かを作る名前を見ていたらそれはないなと思い菜々は呆れた。
でも言いたくないのなら聞かない。それが友達。

そしてペナルティを見せに行った帰り名前は彼女を探していた幸村と会い、親友の名前を名乗ったことは親友には内緒にした。





「これは……?」
「幽霊を操る機械です」
「じゃ、じゃあ実際使って見せて」
「おっけーでーす」


薄暗いオカルト研究会の部室。名前と長谷川がいた。
「うぃーん、ガチャガチャ、スイッチオーン」という台詞を口にするが何も起こらない。
長谷川はん?と首を傾げる。
すると名前は真面目な表情で言った。


「今、この部屋にいる幽霊に電波を送りました」
「うん…?」
「ああ、長谷川さんには見えないんだね。まあ霊力の弱い幽霊にしかまだ通用しないから仕方ないか」
「…??」
「何か命令してみよっか。長谷川さん、何がいい?」


ぱああ、と顔を明るくする長谷川。因みに名前が言っている事全てデタラメである。しかし、効果が何もないと怪しまれてしまうので適当にこじつけようとしている。なんとかなるだろうと。
長谷川はにたあ…と笑った。


「じゃ、じゃあ、私に乗り移るとかどうかな…?」


なんてこったい。





デタラメだとバレたらやばいので「そういう危険なのはやめといた方がいいよ??」と言ったら


「ふふふ、わ、私の夢は幽霊と以心伝心することだから…」


やべー、と名前は笑うしかなかった。
とりあえず、幽霊と交渉してみるとその場凌ぎの嘘をついた。
変な部活に入ったなー、と名前は次の日どうしたものかと登校した。まあ、なんとかなるっしょと完結させると目立つ銀髪を見つけた。


「ねえねえ、そこのお兄さん」
「ん?俺か?」
「そー!」


名前はいいこと思いついたと彼に話しかけた。彼は眠いのか怪訝そうに返事した。


「飴ちゃんあげるからちょっと手伝ってくんない?」
「嫌じゃ」
「あああー!待ってー!お願い!怪獣のキーホルダーも付けるから!」
「いらん」
「冷たい!」


朝から変なのに絡まれた。男子生徒はげんなりしながら足にしがみついてくる女子生徒を振り払う。「へぶ、」と彼女は手が離れると廊下に顔面を強打した。暫く動かない。男子生徒は5歩歩くと反応しない彼女を少し心配して振り向いて近寄る。


「…大丈夫か?」
「…」
「!?」


どくどくと彼女の額から血が流れて廊下に広がる。え、嘘だろと彼は動かない彼女を担いで急いで保険室に行った。


「いやー!君優しいね!」
「完全に騙されたなり」
「何のことかな?」


保険室で血を拭く彼女は笑顔で言った。所謂血糊だった。ちっと舌打ちしたくなる彼は迷わずした。普通の女子がこんなことするとは思わなかった。
「何の用かわからんが、怪我してないんじゃったら教室行くなり」と彼はすぐに彼女から離れようとした。


「わー!ちょっと待って!」
「…何じゃ」
「飴ちゃんと怪獣のキーホルダー…プラスポッキーあげるから話だけでも聞いて」
「その鞄、教科書入っとるんか?」


次から次へとお菓子やらおもちゃが出てくる。
彼はため息をつきながら椅子に腰掛ける。しょーもない話なら即帰る。


「幽霊役やってくれない?」
「帰る」
「なんで!?」


ズコーン!と彼女はショックを受ける。
私の学校生活で重要なことなのに!と青ざめる彼女に彼はまたため息をついた。


(凛のことじゃったら殴ろうと思ったけど、何じゃこいつ)


第一印象は変なやつ。


「部活の手伝いしてほしいの」
「は?」
「でね、君には幽霊役やってもらいたい」
「意味わからん」
「わー!帰ろうとしないで!」


男子は無視して保険室を出る。後ろでギャーギャー騒いでるが無視。


(変なやつに絡まれたなり。…ていうかなんで俺なんじゃ)


A.銀髪で幽霊っぽいから。







「どうしよっかなー」


ポッキーを食べながら名前は部室に向かっていた。
正直にガラクタだったことを話すか。でもそしたら部活参加させられるかもしれないし。
すると、ポケットに入れていたスマホが震えた。メールらしい。


『帰り、トイレットペーパー買ってきて』


顔文字くらい使え、顔文字くらい。素気ないメールに名前は『あいよー』と返事した。
そういえば、今日は木曜日…近所のスーパーで卵がセールになっているはず…帰らねばと頭の中で考える。


「……名前、ちゃん」
「あ、長谷川さん。こんちゃ」
「ここここんちゃ、こっち部室と反対の方だけど……」
「…帰ろうとした」
「…部室行こっか」
「はーい」


後ろから気配なく長谷川が現れた。名前はびっくりすることなく返事すると長谷川は少し肩透かしだった。
皆、彼女を見る度びっくりする。引いてしまう。おどおどしてるし、いつも霊的なものを連れているから。


「名前ちゃんは、私のこと怖くないの?」
「なんで?」
「わ、私暗いし幽霊連れてるし…」


実際後ろは悪霊的なものがいる。
名前は見えているのか見えていないのかサラッと答えた。


「長谷川さんとは仲良くしたいから一緒にいるだけだよ」


ぱあ、と長谷川の表情が明るくなった。こんな雰囲気だからクラスメイトが近寄ってこないのだ。でも名前は気にせず、普通に接してくれる。それが嬉しくてたまらない。


「じゃ、じゃあ、今度こと幽霊乗り移らせてね…!」
「お、おう」


やべー。
遠い目をする名前。


「さ、さあ…やってみて」
「おっけー」


仕方ない、ちゃんと謝るか、と名前はとりあえずハリボテを取り出すと、バンと思い切りドアが開いた。驚いた名前と長谷川はドアの方を見ると今朝見た銀髪の男子生徒がげんなりしながら大股でこちらにやってきた。


「ちょっと匿ってくんしゃい」


とだけ言って、教室のロッカーの中に入って扉を閉めた。なんだなんだ、と二人は顔を見合わせていると廊下からバタバタと足音が聞こえた。
「仁王君どこ!?」「私の仁王くーん!」「私のに決まってるでしょ!!」と女子の大群が走り去る。


「「…」」


何か喋ってはいけないような雰囲気に黙りこくる二人。女子の気配がいなくなると静かにロッカーの扉を開いた。


「…行ったか?」
「に、にににおう君、また追いかけられてたの…?」
「おん、急にすまんな」


状況が掴めない名前は暇なのでポッキーを食べていた。どうやら二人は知り合いらしい。
教室を出て行こうとする彼の肩をがしっと掴む名前。ん?と彼が振り向くと笑顔の名前は言った。


「だめだねえ。モテる男は」
「は?」
「私たちは匿ってあげんだよ?お礼しなきゃ」
「名前、ちゃん…」


呆れる長谷川。というかやめろと思っていた。イマイチよくわかってない男子生徒は「お前さん、何もしとらんじゃろ」とすたすたと教室を出て行った。


「…ちっ、」
「…名前ちゃん、つ、続きやろっか」
「…」


数分後、全部デタラメだとバレました。




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