「文武両道?」


なんてことだ、と名前は持っていたうまい棒を机に落っことした。立海は文武両道を掲げていて入部は必須らしい。なんてことだ。初めて知った。


「部活勧誘期間、今日までだけど」
「うん、どこにも見学行かない名前見てもしやと思った」
「ま、いいや。このまま入部しないに貫く」
「強すぎる」


入部する気なんてさらさらない名前はこのままでいようと決めた。


「でも先生に怒られるかもよー」
「そしたらどっかの部活の幽霊部員になるよ」
「文武両道なのに?そんな緩い部活あるかなあ」


そんな部活、立海にあるとは思えない。







「あった」


昼休み、名前は菜々にとある紙を見せた。紙は部活勧誘の紙。ポップなお化けのイラストと『オカルト研究会』と書かれていた。菜々は冷めた目線で名前を見た。


「そんな部活聞いたことないけど」
「トイレ行く時に真っ黒なロングヘアの子がまだ部活決まってないでしょ?って言って渡してきた」
「なんで部活決まってないって知ってんの?怖い」


まあオカルト研究会だし、と名前に「そうか…?」と菜々は納得したようなしてないような。


「週一の活動らしいし、入部しよっかな」
「まあいいんじゃない?そしたら私の推し活に付き合えるし」
「推し活?」


アイドルでも好きなの?と聞くと「何言ってるの?テニス部のことだけど?」と当たり前のように言われた。あー、そう言えばテニス部の誰々君かっこいいって最近よく言ってるなと名前は理解した。


「名前覚えられなくて」
「頭いいのに興味ないことまじ覚えないよね」
「いやー、そんな褒められても」
「褒めてた?」


照れ照れと頭をかくと菜々はポッキーの袋を開けた。


「それでさー、ファンクラブ入ろうと思ってるの」
「ふーん」


男子テニス部はイケメン揃いでファンクラブがあるらしい。最初聞いた時は信じられなかったが、テニスコートに集まる女子の大群を見ると現実だったか…と信じざる終えなかった。
菜々は頬を赤く染めて「やっぱ幸村推しかなー、でも仁王君も素敵!」とまるで恋する女の子状態。名前はずこーっと音を鳴らせながらリンゴジュースを飲む。全く興味がない。


「名前もファンクラブ入らない?」
「え?やだ」
「ちょっとは考えてよ。…いーじゃん、友達をボッチにする気?」
「菜々、友達多いじゃん。私全然いないよ」
「うっそだあ!みーちゃんとか詩織とかと仲良いじゃん!」
「うん」
「ほら!」


菜々も名前も顔は広い方だ。二人とも分け隔てなく話すので性別関係なく友人は多い。


「私は名前と一緒に入りたいなっ」
「ぶりっ子してもだーめ。めんどくさいの嫌いなの、知ってるでしょ」
「ちっ、」
「態度の変わりよう」
「いーよ、他の子誘うからー」
「そうしてくれ」


関心のないこと、面倒なことはしたがらない名前はどこまでも無気力だった。ふあ、と欠伸すると窓から見える渡り廊下にとある女子生徒が小走りに走っていた。


(あー、あの子は)


と、名前は入学当日のことを思い出した。ぶつかってきた女の子。凄くおどおどしてこっちを見なかったから私のことなんて覚えてないだろう。


(…なんで私は覚えてるんだろ)


まいっか、と名前は視線を菜々の方に戻した。







オカルト研究会を見学した後、彼女はまっすぐ下駄箱に向かっていた。キャラの濃い人達だったな…と思いながらその人達からもらった飴を見た。薄紫色のお化けの形をしたペロペロキャンディ。新入部員勧誘の為に作ったらしい。かわいい。食べながら帰ろ、と彼女は包みを剥がした。


「きゃー!丸井くーん!」
「お菓子持ってきたよー!」


きゃあきゃあと騒ぐ女子生徒の声が聞こえた。ん?と名前はそちらを向くと赤い髪の男の子が両腕いっぱいにお菓子を抱えていて笑顔だった。「サンキュー!じゃ、部活行かねえと!」と早歩きでこちら…下駄箱に向かってくる。すると、ぱち、と名前と目が合った。周りの女子の流れからこちらを見る。彼女の手にはペロペロキャンディ。彼の腕には女子生徒から貰ったであろうお菓子。3秒の間があった後、あーと名前は理解した。


「これ、私が貰ったやつだからあげない」


はっきりと言った。男の子ぽかん、周りの女子もぽかん。誰も欲しいと言ってない。
名前はそのままキャンディを口に含みながらすたすたと校舎を出て行った。

その後、あたりを歩いていた教師に見つかり全速力で逃げたのは言うまでもない。







「部活どう?楽しい?」


菜々が聞いてきた。その質問に対して名前は首を傾げた。
部活勧誘期間が終わって一週間が経った。


「どうって?」
「いや昨日部活だったでしょ?」
「あー、休んだ」
「早速!?」


私も部活休みだったのに寄り道しよーよと菜々は名前にひっついた。名前は寄り道を全くしないので菜々は人付き合いが悪いと思っていた。


「家帰って何やってんの?」
「家事」
「は?偉すぎない」
「まあね」
「そうやって謙遜しないとこ素敵!抱いて!」
「ふっ…何言ってるんだい?昨日の夜散々抱いてあげただろう…?」


途中から夫婦漫才をし始める女子高生。ここは廊下。周りに生徒はいる。しかしそんな生徒達は彼女達のことは気にしてない様子。


「そんな素敵なダーリンにお願いがあるの」
「なんだい?ハニーのお願いなら僕は喜んで聞くよ」
「化学の宿題見せてっ」
「やだ」
「えー!なんでそこ素に戻るかなー!」


ちくしょー!と菜々が泣く。勿論嘘泣きである。
因みに次の授業は化学。泣き崩れる菜々を名前はスルーしてすたすたと前を歩く。


「菜々ー、置いてくよー」


呆れた名前は後ろを向きながら歩くと「あ!待ってよー!」菜々復活。こちら向かってくるので名前は前を再び向こうとすると誰かにぶつかった。何だかぶつかること多いな。お互い倒れはしなかったようだ。


「い…たくはなかった」
「いてて…石頭すぎんだろい」


誰だ、失礼だな。石頭の何が悪い。
男子生徒とぶつかったらしい。


「飴ちゃんやるから元気出して」
「お?おお、サンキューな」


名前はポケットから飴を取り出すと目の前の男子にあげた。
その時、チャイムが鳴ってあ、やべ、授業始まると彼女は急いで化学室に向かった。

授業中、菜々が名前に話しかけてきた。


「ねえねえ、さっきぶつかった男の子、丸井君だったよね!」
「ん?あーそーだね。(全く聞いてない)」
「私も話したかったなあ」
「菜々、当てられたよ」
「げ、」




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