『立海大附属高等学校入学式』


4月、達筆な字で書かれた看板が桜の花びらと共に春を彩る。
沢山の生徒が校門をくぐると一人の女子生徒が真新しい制服を着て、欠伸をしながら周りと変わらず学校の敷地に入った。
中学から入学した内部生と高校から入学した外部生はクラスは分けられておらず、混合だ。大勢の生徒の中を潜りながらクラス表を見る。隣に立っていた女子生徒二人は「同じクラスだ!」「やったー!」と仲良く話している。
先程の女子生徒はクラスを見るとC組。喜ぶ訳でもなく不安になる訳でもなく表情を変えずに人混みから出た。
全く知らない廊下と教室を見渡しながら、C組を目指す。教師が「一年の教室は3階だ」と案内している。
『1-C』と書かれた教室に構わず入ると既に生徒が何人か席に座っていた。友達同士なのか仲良く話している生徒もいる。黒板に書かれている席を見て自分の席に座る。周りは誰も座っていない。暇だしスマホ弄るか、と鞄を漁っていると後ろから肩を叩かれた。


「おはよ!」
「おはよ」


…誰だろう。茶髪をゆるふわに巻いた派手目な女子生徒が人懐こい笑顔で話しかけてきた。すると彼女は前の席にどかりと座った。


「ねえねえ、君外部生?」
「そうだよー、君も?」
「うん!私の席はここ!初めまして、私は杉野菜々!よろしくね!」
「よろしく、苗字名前」


手を差し伸べられた。名前は躊躇せずを握手する。一見ギャルとマイペースな女子生徒の絡み。お互い初対面だが緊張も人見知りもしていない。


「入学式、ドキドキするね!」
「校長の話とか聞くんだっけ。ウォークマン聞いとこ」
「怒られるよ」
「へーきへーき」


………


入学式、体育館での長い校長の話に菜々は眠そうに欠伸して、その隣に座っていた名前は音楽を聴きながら完全に寝ていた。先生に見つからなかったのは凄い。

式が終わって教室に戻ると担任の話。名前は話を聞きながら頬杖をついていた。なんで教師というのは話をするのが好きなんだろ、と。早く帰りたい。これから新しい生活が待っているというのに全く興味のない名前だった。

終礼が終わって皆立ち上がる。掃除はないので名前もそのまま帰ろうとすると荷物をまとめていた菜々に「あ!ちょっと待ってよー!名前ー!」と急いで彼女を追う。
しかし構わず教室のドアを開ける名前。
その時、


「わっ、」
「きゃっ、」


横から来た誰かに勢いよくぶつかった。尻餅をつくことはなかったが、相手の女子生徒は走っていたせいか床に手をついた。彼女の持っていたプリントが散らばってひらひらと床に散乱する。


「大丈夫?」
「…。」


手を差し伸べるが相手はこちらを見ない。…?そんなに痛かったのだろうか。心配になって「ね、大丈…」ともう一度言おうとすると、


「っ、…」


びくびくと腕を前にする彼女に名前はえ?と止まってしまった。まるでこれから暴力を受けると言わんばかりな反応。そんなつもり全くないのに。
か弱い、脆そう、後女子力高そう。女の子という言葉が似合う子だった。
…怖いのだろうか、名前はどうしていいのか分からず、手を引っ込めると黙ってプリントを拾った。
プリントには『男子テニス部入部届』と書かれてあった。この子はテニス部に入るのだろうか。いやいや、どう見ても女の子。マネージャーか。


「何してるの?凛」
「、あ!せ、精市…」


彼女の後ろから青い髪の優しそうな男子生徒がやっていた。名前はん?と最後のプリントを拾い終わると前を向いた。わー、イケメン、この子の彼氏さんだろうか。彼は名前を見ると凛と呼ばれた女子生徒は「ち、違うよ!私がぶつかっちゃって…」と慌て出した。すると彼ははあ…とため息を吐いた。


「分かってるよ。彼女を見れば。プリントを拾ってくれたんだろう?」
「んー、まあそんなとこ」
「…普通はこういう反応なんだろうね。君、外部生だろ?」
「?そうだけど…?」
「良かったら凛とー…いや、何でもない」


話が見えない。彼はプリントを受け取ると「凛が迷惑をかけたね。行こう。」と凛と歩き出して名前の横を通り過ぎた。
まいっか、考えても仕方ないし。と名前は制服を整えるとヒソヒソと話し声が聞こえた。周りを見ると皆こちらに注目して小さな声で何か話している。


(まあ、あんだけ派手に転べば目立つか)

と気にせず、彼女は歩き出そうとすれば「名前ー!大丈夫ー?」と菜々が抱きついてきた。


「菜々…見てたならプリント拾うとか手伝ってくれてもよかったのに」
「えー、だって目立つの嫌いだもん」
「イケメンと話せるチャンスだったのに」
「イケメン??」


どうやら教室にいた菜々からイケメンの姿は見えなかったようだ。


「それよりさー、寄り道しよーよ!」
「やだ」
「即答!?」





クラスは皆仲良しで虐めもない。私はよく菜々と一緒にいる。席が前後だから休み時間はずっと話してるし、昼休みは弁当を広げる。


「部活、何入るの?」


弁当を食べていると菜々は口を開いた。部活?


「入る気ないよ」
「えー!なんで!?勿体ない!」
「え?どこが?」


どこが勿体無いのだろうか。謎である。

名前は中学の時も部活は入ってなかった。
部活なんて面倒だ、と彼女は思っていた。


「そういえばさ!聞いた?」
「ううん、聞いてない」
「まだ話してない!…テニス部がね、凄い人気らしいよ」
「菜々、テニス部入るの?」


そんな熱血キャラだっけ?どちらかというとミーハーじゃない?と名前は悪びれもなく言った。すると菜々は違う違うと首を横に振った。


「男子テニス部!イケメン揃いでファンクラブできる程人気なんだって!」
「(ファンクラブ…?)ふーん?」
「でさ!放課後、一緒に見に行かない?」
「えーーーー」
「ついて来てくれたらアイス奢ってあげる!」
「行く」
「ちょろいなー、そこが好き!」


後、ファンクラブも気になる。

男子テニス部か…。そういえば、入学式の日にぶつかったあの子もいるのだろうか。
やけに印象に残ってるから覚えてる。
購買で菜々が名前にチョコアイスを奢った。

名前はアイスを食べながら菜々と歩いているとテニスコート付近に人混みを見つけた。


「何あれ」
「ファンクラブじゃない?早く行こうよー!」
「(やべえ、めんどくせえな)あー、あたたたアイス食べて腹痛になっちゃった。私ベンチで休んでる」
「アイス食べながら言われても世話ないわねー。まいっか、ちゃんと待っててよー?」
「あいよー」


やっぱ嘘か、と菜々は文句言いながらテニスコートに向かった。





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