「やだあー!やだやだやだ!!」
「漫画読んでる。お静かに」
「やだ!!!」
ただを捏ねる友人に一人の少女は呆れていた。朝、自席で漫画を読んでる名前の隣で暴れる友人。
床でじたばたしていた菜々は立ち上がって名前の肩を強く掴んだ。
「名前、私のこと好き?」
「程々に」
「そこは大好き!って言うところ!」
「もし菜々かたけのこの里を選べって言われたらきのこの山選ぶくらいには好きだよ」
「全く好きじゃないじゃん!!」
わーん!と泣き叫ぶ菜々に名前はやれやれ…と呆れたようだった。
彼女曰く、今日の放課後にファンクラブの入会式なるものがあるらしい。その時点なんだそれという感じだが、どうやらファンクラブは生徒達が作った同好会らしい。
「お願いだからファンクラブ一緒に入ろうよー!」
「あ、妹からメール」
「話聞け!!」
どうしてもファンクラブに入って欲しい菜々とどうしてもファンクラブに入りたくない名前。
名前が帰りたくない理由はただ一つ、放課後早く帰りたい。
「なんで入ってくれないのぉーー」
「面倒臭い」
「ちょこっとだけ!1mmだけでいいから!」
「…」
しつこい、と名前はため息を吐く。
「じゃあこうしようか」
「??」
「私に勝負して勝てたら入ってあげる」
「何の勝負?」
流石に断り続けて良心が痛んだ名前は勝負を持ちかけた。
今日は物理、数学、英語の小テストがある。そのどれかで名前より高く点数を取れたら菜々の勝ちである。因みに菜々はアホ。
「名前いつも満点じゃん!」
「同点は菜々の勝ちでいいよ」
「無理だよおー、ねえー」
「そう言うと思って用意しました。こちらが柳君です」
ててーん、と名前の隣に柳がいた。いつの間に!?と菜々は目をギョッとさせる。
そして名前は柳に話しかけた。
「で、何でここにいるの?」
「名前が呼んだんじゃないの!?」
「ちょっと苗字に用があってな」
用?と首を傾げると頭の上に何か置かれた。ん?とそれを手に取るとチョコクッキー(市販品)だった。
「何これ」
「この前チョコ味の菓子が食べたいと言っていただろう」
「ああ、柳君の手作りのね」
「だから持ってきた」
「どう見ても市販品だよねこれ」
パッケージにロゴがついてるよ。
「易々と俺が作った菓子が食べられると思っているのか?」
「え?うん、まあ」
黙る柳にえ、え?と二人を交互にみる菜々。話についていけてない。
「で、俺が何だ」
「菜々に勉強を教えてやってほしい」
「何故だ?」
つらつらと訳を話す名前に目を輝かせる菜々。憧れのテニス部員に勉強を教えてもらえるなんてラッキー!と思っているに違いない。
訳を聞いた柳は少し考えた後、口を開いた。
「別にいいが、タダでとはいかないな」
「金?」
「違う。俺が彼女に勉強を教える代わりにお前は真田のところへ行け」
「どちらさん?」
真田とは誰ぞ?と首を傾げる名前に柳はふっと笑う。
「行けば分かる」
*
「貴様ーーー!!!!」
あまりにも大きな声で耳がキーンと鳴った。この人知ってるよ、風紀委員でしょ、と納得する。柳が真田に会いに行けというのはそういうことだった。校則無視の常習犯で風紀委員会に目をつけられていた。
「校内で菓子を食うな!スマホの所持も禁止!ネクタイをきちんと着用しろ!」
「へーい」
「はい、だ!たるんどる!」
怒る真田ともぐもぐとポッキーを食べる名前に周りはすげえ…とある意味関心していた。
「風紀委員さんはテニス部だったんだね」
「ん?ああ、まあな。って話を変えるんじゃない!」
「いいじゃーん、なんかさー菜々がテニス部にまとわりつかれて幸せって言ってたよ」
「ああ、それは…凛が…。じゃなくて!話を逸らすな!」
溜息を一つ吐くと名前の目を見た。「大体何故校則を守れんのだ。貴様、風紀委員の中でも有名だぞ」初耳だぞ。話そらそ。
「凛ってマネージャーだっけ?」
「ん?そうだが」
「怪獣のキーホルダー喜んでくれた?」
「不思議そうな顔してたぞ」
彼女の猫のキーホルダーを踏んでしまったお詫びにあげた怪獣のキーホルダー。因みにあれはゲーセンで大量に乱獲したものである。
「喜んでくれたかあ」
「不思議そうな顔だが」
ふふ、と名前も嬉しそうにする。話を全く聞かない問題児に少々呆れる真田であったが、これくらいあの後輩に比べれば可愛いものだ。
「猫のキーホルダーは別に壊れてないぞ」
「え?そうなの?」
「ああ」
「えー、じゃあ幸村君は私に何の用だったんだろ」
「何かしたのか?」
「何も!」
幸村が苗字に用があったのは凛の友達になれるかどうか見てみる為で、真田は彼女がその相手だと全く気づいてない。幸村以外のテニス部員は杉野菜々だと思っている。約1名除いて。
「まいっか。私そろそろ帰るねー」
「そうか、反省文は書いておくんだぞ」
「げっ」
忘れてると思ったのに。
「柳君かっこいい…」
教室に戻ると名前の席に座って菜々に勉強を教えている柳に惚れ惚れする友人がいた。勉強になんねーな!こりゃ!と名前は安堵した。そんな彼女に気づいた柳は口を開いた。
「真田との話は終わったか?」
「うん、終わった」
「そうか、真田はお前のことをなんて呼んでいた?」
「え?」
うーん、と思い出す苗字。あ。
「貴様」
「弦一郎らしいな」
「え、何この質問」
「じゃあ俺は教室に戻るとしよう」
「無視?」
「精々ファンクラブに入らないように頑張るんだな」
と柳はそう言うと立ち上がって名前をじっと見つめた。そんな柳に名前は成る程!と気づく。
「ポッキー欲しいの?」
「違う。欲しいから見ていたんじゃない」
「甘いもの好きなのに?」
手にはポッキー。
まだ勘違いしてる名前に柳は言った。
「…俺から一つ言わせてもらおう。我らテニス部、ファンクラブには目を瞑っているが、あまり良い印象はない。だからと言って今更誰がファンクラブに入ろうがどうでもいい」
「ふーん?」
「だが、お前だけはファンクラブに入るのは好ましくない」
「?」
「それだけは覚えておいてくれ」
それだけ言って柳は教室を出た。なんだったんだろ、と名前は首を傾げるが、菜々は目を輝かせて言った。
「フラグ…!?」
「何の?」
「柳君は名前のこと好きなのかなー!?だってあれって。(お前のことが好きだから)お前だけは(俺以外の男の)ファンクラブに入るのは好ましくないって意味でしょ!?」
「そんな深い意味はないと思うけどなあ」
けどなんで柳君はあんなこと言ったんだろ?とわからない名前。
「それより勉強できたの?」
「全く!」
「でしょうね」
小テスト、名前の満点勝ちでした。
菜々、どうする。
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