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会議の内容は今週末行われる闇オークションについて。参加者として潜り込むのだ。
とある大富豪の娯楽。そのオークションには違法で入手された身体の一部が取引される。人体収集家が集まる奇妙で不気味なオークション。
頻繁にその世界で出回るの若い女の身体。
降谷は資料を見ていた。爪、髪の毛、心臓…といったオークションに出されるであろう品の写真があった。
ペラリと一枚捲る。降谷はとある写真に目をつけた。

眼球の写真。
写真の下には『少女の目』と書かれてあった。

会議が終わり、職員は会議室を出る。降谷は辺りをきょろきょろと見回した。

…彼女が来てしまっていないか確認していた。

視界に入らなくても未来が見えるようになった。あまりに離れていると見えないみたいだが、流石に不安だ。下手に未来を見られては困る。

いないことがわかると早足で降谷は休憩室に向かった。
それ見ていた風見は、降谷さん機嫌良くなったな…と思っていた。


「名前さん、お待たせました。」
と降谷は休憩室のドアに手をかけて気づいた。鍵が開いている…。まさか、出て行った?嫌な汗が流れる。
僕を探しに行ったのだろうか。急いでドアを開ける。


「名前さ、」
「どうですか!?苺大福美味しいですよね!」
「貴方、痩せてるから沢山食べた方がいいわよ。あの人はどんな食事を与えてるのかしらね。」


休憩室に名前はいた。ソファに座る彼女の隣には太田と田所の姿。きゃっきゃと話していた。名前も楽しそう。
「あら、」と太田は降谷に気づいた。


「か弱い女の子を軟禁するだなんて、いい趣味してますね。」


さらっと毒を吐いた。ぴし、と固まる降谷。名前はというと田所に抱きしめられながら苺大福を食べていた。
「安室さん!」と名前は田所から離れてもぐもぐしながら降谷に抱きついた。きゅ、と力を強くする。
それを見ていた田所はハートを飛ばしまくりながらきらきらと目を輝かせた。


「きゃー!鬼の降谷さんと天使の名前ちゃんの組み合わせ!凄く可愛いー!」
「そうね、苗字さんが襲われないか心配になるくらいね。」


太田は児童福祉法で捕まればいいのに、と念を送ってふっと笑った。ばちばちと降谷と太田は視線で喧嘩する。


「なんで、お前らがここにいる。」
「名前ちゃんが来たって聞いて駆けつけてきたんですよ!」


降谷は彼女は大丈夫なのだろうか、くっつく名前の顔を見た。名前はふふ、と楽しそうだった。降谷に会えて嬉しそうだった。
こっちも嬉しくなる…と降谷はドキドキしていた。


「じゃあね、私達これから仕事だから。」
「バイバイ!名前ちゃん!」
「はい、頑張ってください。」


にこ、と二人に微笑む。二人は休憩室を出て行った。どうやら二人には少し慣れたみたいだ。
このまま警察は味方だと、知ってもらえればいいが…。


「…安室さん、今日は帰れますか?」
「はい、もう帰りますよ。」


降谷は微笑んで言った。マンションに帰ったら、沢山抱きつこう、キスしようと下心満載だった。しかしそんなこと知る由もない名前は嬉しそうだった。
「あ、そうだ。」とドアから太田が顔を出した。まだ何かあるらしい。


「降谷さん。」
「なんだ。」
「(一瞬で笑顔が消えた。)普通見えないところに付けるものですよ。」
「?」


太田はちょいちょいと自分の首の付け根を差した。そしてすぐに部屋を出た。
そして降谷はなんだ…?と首元がどうした…?…!!
気づいた降谷は名前の首元を見た。襟からキスマークが見えている。
たらー、と冷や汗を流した。血の気が引く。


「名前さん!襟上げて下さい!」


見つかったらやばい!と降谷は慌てた。





「ねえー、バーボン聞いてる?」
「聞いてますよ。」


ここはベルモットが泊まっているとある高級ホテル。窓から美しい夜景が見える。ベルモットは風呂上りで髪を乾かしていた。ブォーとドライヤーの音が鳴り響く。しかし、バーボンは一言一句聞き逃さない。


「最近、"人形"はどう?」
「可愛がってますよ。」


ベルモットが彼女にぬいぐるみに薬を忍ばせることを教えた。そして、ぬいぐるみの中には焦げた写真が入っていた。
彼女は写真について何か知っているかもしれない。バーボンは胸ポケットから写真を取り出した。それをベルモットに見せた。彼女は「あら、」とやはり知っているようだった。


「なんで貴方がこれを持ってるの?」
「あの子のぬいぐるみの中に入っていたんです。これは何ですか?」


ベルモットはバーボンから写真を受け取るとふふ、と微笑んだ。それは不敵な笑みでバーボンは目を細めた。


「懐かしいわね。この写真、私が撮ったのよ。」


ベルモットは乾いた髪をブラシで梳かしながら言った。
ベルモットが…?もっと情報を聞き出さなくては。


「誰の写真ですか?」
「あの子に聞いてないの?名前の写真よ。…といってもあの子は赤ん坊だったら覚えてないでしょうね。」


…写真に写っている女性が抱いている赤ん坊は名前さんか。となると周りにいる子供達は彼女の兄弟。成る程、家族写真…。名前さんに両親も兄弟はいた。…しかし、彼女は兄弟はいないと言っていた。どういうことだ?
ベルモットはテーブルに置いてあったライターに火をつけて写真を燃やした。


「これは"人形"には必要ないもの。」


いつの日かジンは言っていた。組織は感情、意思、そして記憶を"人形"から消している、と。…記憶。きっとそれは家族の思い出。
炭がテーブルにぱらぱらと落ちる。


「くれぐれも"人形"に余計なことを教えないでね。」
「…。」
「組織には"目"が必要なんだから。」


分かるわよね?バーボン。とベルモットは目を細めて言った。
「分かってますよ。」とバーボンはにこり、微笑んで言った。悟られてはいけない。


「…そうね、でもそろそろあの子にテストしないと。」
「テスト?」
「そ、簡単なテスト。」


貴方の役目はないわ、とベルモットはとある紙を取り出した。そこには闇オークション、と書かれていた。幾つか写真があり、ベルモットは一つの写真に目をつけた。
そこには眼球の写真。
バーボンからその紙が何を書かれているの分からない。
彼女のその怪しい微笑みにバーボンは何を思うのか。





ベルモットと分かれた後、安室はマンションに帰った。
写真…子供達は笑顔だった。きっと暖かい家庭だったのだろう。それを組織が壊した。
まだ分からないことだらけだ。もっと手掛かりが必要だ。
当の本人は何も知らない…記憶を無くしている。
無理に思い出させる訳にもいかない、体調を崩してしまうかもしれない。家族のことは黙っておこう。
マンションのドアを開けると「おかえりなさい!」と名前が出迎えて抱きついた。ふわ、と香るシャンプーの香り。安室は勿論、抱きしめ返す。


「ただいま、名前さん。」


いい子にしてましたか?と言うとうん!と明るい返事。
彼女を幸せにしなくては。折角、こんなに暖かくなったのだから。
すると、ん?と名前は安室の匂いを嗅いだ。


「安室さん、ベルモットと会ってたんですか?」
「!」


ベルモットの香水の香りが…と名前は言う。しまった。あの後、「貴方、男臭いのよ。」とシュ、と香水をかけられたんだった。


「何話してたんですか?新しい仕事?」
「あ、いえ…ちょっと彼女の足にされていただけです。」
「ふーん?」


後で風呂に入って洗い流そう。
でももう少し、彼女を抱きしめたい。
ぎゅ、安室は彼女を抱きしめる力を強くした。





ここはベルモットのいるホテル。ベルモットはベットから夜景を見ながら、ワインをくるくると回していた。


「ふふ、知らない方がいいこともあるのよ、名前。」



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