36

名前さんの熱は5日間続いた。今までで一番長い。解熱剤もなかなか効かなかった。
話の通り、代償は大きくなっている。
僕は特別に休みを貰った。

幸いにも組織からの仕事はなかった。不幸中の幸いだった。

熱が下がった6日目の夕方。名前さんは元気になっていた。ずっと僕に抱きついている。離れようとしない。どこに行くにもついてくる。それはそれで嬉しいのだが…。寂しい思いを、不安な思いをさせてしまったと、申し訳ない気持ちになった。
しかし、僕は彼女の格好に悩んでいた。

ピンクと水色のボーダーのルームウェア。
短パンから足が出ている。

バタバタしていて気づかなかったが、名前さんは蘭さんと一緒に服を買いに行っていたんだ。

ソファに座って、じーとその姿を見る僕に気づいたのか、名前さんはにこと微笑んだ。


「可愛いですよね!この服!」
「…。(エロい。)」
「蘭が選んでくれたんです!赤にしようか悩んだんですけど私にはこの色がいいって。」


蘭さんナイス。僕の名前さんに赤なんて似合わない。
しかし可愛い。空いたトップスの襟口から僕はちょっとこっそりと鎖骨を覗く。
…キスマークが消えてる。流石に消えてしまったか。
これは新しいのをつけないと。折角可愛い服を着ているんだから。
す、と腕を伸ばして僕は名前さんを抱きしめた。


「安室さん?」


ちゅ、と彼女の額にキスをした。あわあわと名前さんは顔を赤くして、離れた。でも僕は逃がさないように強く抱きしめる。さっきまで僕にくっついていたのに。


「名前さんだって、僕にキスしたじゃないですか。」


相原さんの時に。皆の目の前で。

「あ、あれは私からしたから…!」と言う名前に安室は成る程、と思った。
自分からする分にはいいのか、と。

つまり、僕からすれば可愛い顔が見られる。


「じゃあ、もっと僕からしますね。」
「え?わっ、」


にこと微笑んで、抱きしめたまま体重をかけた。そのままソファに押し倒した。すぐに名前にキスして、隙間から舌を入れた。舌を絡める度にクチュ、といやらしい音が鳴る。彼女が逃げないように両手で顔を固定する。恥ずかしさから名前は目を強く瞑った。
名前は嫌だとは思っていなかった。本当に嫌なら安室を殴っている。
呼吸する為に安室は顔を少し離した。二人の間に銀色の糸が引く。


「はあっ、あむ、ろさん…、」
「…。」


とても官能的だ。頬を紅潮させて名前は息を乱していた。
ぞくぞくする気持ちに背徳感を覚えた。
もっと、もっとその顔が見たい。
安室はトップスの裾から手を入れた。細い腰に手を這わせる。熱い手に名前はびく、と肩を震わせる。


「あ、安室さん、な、何を…。」
「んー?どうして欲しいですか?」
「きゃっ、」


ぷるぷると名前は小さくなった。顔を見られないように腕で隠そうとしたが、安室に掴まれて阻止された。
…可愛い、とずっと思っている安室。
ずっと見ていたい。
ああ、でも早くキスマーク付けたい。
名前の腰を撫でながら安室は首筋にキスした。そして少し甘噛みする。


「あっ、またキスマークつけようとしてる…!」
「消えてたので。」
「うっ、ふ…痛っ、」


ちゅ、とキスマークをつける。首の付け根あたりが赤くなる。少し場所が高すぎたか。


「た、体育の時どうすれば…!」
「上手く誤魔化して下さいね。」


えへ、と安室は嬉しそうだった。わなわなと名前は青ざめる。
満足した安室は名前の上から退いた。またえっちなことをするのでは…と警戒していた名前は起き上がってじーと安室を見る。その視線に気づいた安室は微笑んだ。


「続けてほしいですか?」
「!?」


ぶんぶんと彼女は首を振った。





「…名前さん、僕、仕事に行かないと。」


名前は一週間学校を休むことになった。安室からそう言われたのだ。
朝、本庁に仕事に行こうとするスーツ姿の安室から離れなかった。離れたくないらしい。
困ったな、と安室は彼女の頭を撫でた。安室も離れたくない、しかし彼女を本庁に連れていけば、思い出してしまう。
心の傷はそう簡単には癒されない。


「すぐ帰ってきますから。」
「わ、分かりました…。」


名前は渋々離れた。不安そうに顔を暗くしていた。
そんな彼女を安室は見つめていた。そして優しく言った。


「警察…怖いですか?」
「…。」
「遠慮しなくていいんですよ。」


名前は小さな声で「…怖い。」と言った。
まだ、組織の洗脳が解けていない。彼女の居場所は組織の中にある。


「僕は名前さんの味方ですから。」
「…うん。」


安室は俯く名前を心配しながら部屋を出た。
残された名前は暫く玄関にいた。


そして3日後。降谷は本庁にいた。3徹目である。すこぶる機嫌の悪い降谷に職員は近づかなかった。
不味い、名前さんと組織に関する報告書が終わらない。他の事件の会議もある。今日も帰れないかもしれない。すぐ帰ると約束したのに。
彼女には帰れないと連絡はしてある。
しかし、あの子は待っている筈。思い出すのは暗い表情。


「降谷さん、ちょっと、」
「?なんだ風見。」
「…苗字さんが来てます。」
「……は?」


まさか、と降谷は風見の方を向いた。急いで彼女の元へ行った。休憩室にいるということ。
なんでこんなところに…!


「名前さん!」


休憩室に入ると名前はぬいぐるみを持ってソファに座っていた。黄色いワンピース姿だった。名前は降谷に気づくとぱああと表情を明るくした。立ち上がって降谷の元に走って抱きつく。ふるふると震えていた。ここは怖いのだ。


「す、すみません。き、来てしまいました…。」
「…いや、いいんです。不安にさせてしまいましたね。」


降谷は優しく撫でる。どうしよう、この後は会議がある。風見も同席だ。
ふと視線を感じてドアを見るといいなー、という羨望の眼差しが漂っていた。野次馬である。じろ、と降谷は睨む。


「名前さん、すみません。」
「え?」


降谷は名前の顎を持ち上げるとちゅ、と唇にキスした。真っ赤になる名前は「あの、その、」と狼狽た。可愛い…と思っていた降谷だが、ぎろりと野次馬を睨んだ。見るな、と。所謂牽制である。野次馬はわー!一目散に逃げた。
時計を見ると時間だ。行かなくては。しかしここは休憩室、人が来てしまう。だからといって会議に出席させる訳にも行かない。
ここにいてもらうしか…。


「…名前さん、ここで大人しく待っていてくださいね。これから会議があるんです。」
「えっ?…わ、分かりました。」


しゅん、小さくなる名前。降谷は彼女を気にしながら休憩室から出た。
音を立てずにひょこ、と名前は休憩室から顔を出した。そして足音を立てずに降谷の背中を追う。勿論、私服で目立っているので他の職員にはバレバレ。でも名前は降谷の側にいたかった。
周りの職員はその様子を見てピクミンかな?と思っていた。
するとぴたり、と降谷は足を止めた。名前は急いですぐ横の部屋に隠れた。


「名前さん、何してるんですか?」
「!」


バレてますよ、と降谷は言った。そして名前は再び休憩室を連行された。がちゃ、と外から鍵をかけられる。さあ、と青ざめる名前。
名前が悪い。



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