27

時は少し戻り、マンション前。降谷と風見は話していた。
どうやらまた一人、仲間が組織にやられたらしい。遺体で見つかった。


「わかった…。わざわざ報告をありがとう。」
「いえ…。」


本来ならば彼女に監視兼護衛をつけさせたい。しかし下手に未来を見られれば、全ての計画が失敗に終わる。
「では、自分はこれで。」と風見はお辞儀した後胸ポケットから警察手帳が落ちた。


「…おいおい、こんな大切なもの、落とさないでくれよ。」
「す、すみません!」


安室は拾って風見に渡した。
ふと視線を感じて花壇を方を見る。が、何もいない。僕の気のせいか…?
花壇からにゃあ、と猫が出てきた。なんだ猫か。
風見は帰っていった。車を見届け、安室はマンションに帰った。名前はまだ帰っていなかった。パチ、と電気をつけて部屋に入る。鞄をテーブルに置くとガチャガチャと彼女も帰ってきた。

彼女は僕の鞄をちらりと見た。

たまに「スーツを着てどこにいくんですか?」と聞かれる時がある。いつも組織の仕事だと誤魔化していたが、そろそろ限界か…?

彼女が何をするのか確かめたくて、風呂に入るフリをした。予想通り、彼女は鞄に向かった。

警察の資料を益々持って帰る訳にはいかない。
資料は全部、本庁の机の中。

名前さんの表情は後ろにいる僕には見えなかった。でも怪しまれていることには変わりない。


「…何が入ってるかと思いました?」
「えっ、」


彼女は汗を流しながら考えた。「えーと、えーと…、」と焦っている。僕はじ、と名前さんを見る。


「…エロ本。」
「そんなもの持ってないですよ。」



「、この子!私を殺そうとしたんです!」
次の日、安室はポアロにいた。相原が安室の背中に隠れて名前を指差した。その手は震えていた。
名前の左目に痛みはもうなかった。右手には大きな絆創膏が貼られている。
ポアロには安室、名前、相原の三人がいた。


「…。」


名前は冷たく相原を見据える。その視線に気付いた相原はびく、と青ざめて手を引っ込めた。
成る程…手の甲の傷はそういうこと。と安室は理解した。


「…名前さん。」
「…。」


名前は答えなかった。ふい、と視線を逸らした。世話役の約束を破ったから。


「安室さんは蘭達は傷つけるなと言ったけど、この人は傷つけるなとは言ってません。」
「…。」
「そもそも、その子が石を投げようとしたから殺そうと思っただけです。」


「なんでそれ知ってるのよ!」相原は青ざめた。
名前も安室も"目"の範囲が広がったことに気付いていない。
そうか、この子は大切なものを守るということは理解したが、それ以外とものはまだ殺しても構わないと思っている。
約束の仕方を間違えてしまった。


「…相原さん、僕が注意しておきますから、今日は…。」
「、わ、わかりました…。」


相原は帰っていった。立ち去るのを見届けると安室は名前に近づいた。


「名前さん。」
「私悪いことしましたか?」


つーん、と拗ねている名前は当たり前のことをしたと思っていた。
害のあるものは排除する。それは犯罪者を捕まえる警察と似ているようで全く似ていない。


「…僕が死んだらどう思いますか?」
「!それは悲しいです。」
「相原さんにも大切な人がいるんですよ。相原さんが死んだら悲しむ人がいます。」
「?」


名前は分かっていなかった。他人を自分と重ねてどうするのかと。自分には関係ないじゃないか。
名前の理解していない様子を見て、安室は眉をしかめた。約束をしても意味がない。彼女が自分で気づかないと。


「…後ろから石投げるのは卑怯。」


ボソリと名前は呟いた。
…後ろから?彼女は視界に入らないと見えないんじゃなかったのか?そういえば、以前も後ろにいたのに未来を見ていたときがあった。偶然か?たまたま視界に入ったから?


ポアロの後、降谷は本庁にいた。はあ、と溜息をつく。ずもも…と降谷から黒いオーラが発せられる。「ふ、降谷さんがお怒りだ…。」と周りの部下は恐れていた。
どう彼女に教えればいいんだ…。早く家に帰りたい。
すると降谷に一人の女性が近づいてきた。


「降谷さん。」


眼鏡をかけた黒髪ボブの公安の女性は"人形"の資料を持っていた。
彼女とても冷徹で有名な女性。不機嫌な降谷にも臆することがない。


「"人形"についてですが。」
「?なんだ。」


降谷は彼女の言葉を待った。そして彼女から発せられた台詞に目を見開いた。



その頃、名前は暗い公園のブランコに乗ってギイ、と揺れていた。星空を見ながらボーッとしていた。
安室さん…なんで警察なんかと一緒にいたんだろ。警察は悪い人。世界の為に戦っている私たちを捕まえようとしている。
悪い存在なのに。やっぱり直接聞くしかないかな。仲間を疑ってはいけない。


「こんにちは、お嬢さん。こんなところでどうしたの?」
「!」


ひょこ、と名前の横から黒髪のポニーテールの白いブラウスに赤いスカートを着た女性に話しかけられた。その女性はよっこいしょと隣のブランコに乗った。


「女の子がこんなところにいたら危ないわよ。」


にこと優しく微笑む女性に名前はじっと見つめて警戒していた。いきなり話しかけられて不審に思わない人はいない。「…誰ですか?」と口を開いた。


「私は田所。この辺りに住んでて仕事帰り。貴方は?」
「…名前。」
「その制服、帝丹高校の子よね?」
「まあ…。」


なんなんだろう、この人。名前は帰ろうとブランコから立ち上がった。「お姉さんが送ってあげる。」と田所はついてくる。この人何者…と怪しむ名前は未来を見ようと視界を変える。視界いっぱいに未来が映し出される。それは田所が名前に何か渡すところ。「あ、」と田所の声が聞こえた。その瞬間、頭に激痛が走る。未来がぷつりと切れる。名前は思わず頭を押さえる。
未来を見ているとき、現実は見えなくなる。


「電柱にぶつかっちゃって…凄い音したけど大丈夫?」
「だ、大丈夫…。」


半泣き状態になる名前。凄く痛かった。
そうだ!と田所は持っていたレジ袋からお菓子を取り出した。


「はい、あげる。」
「?」


袋には苺大福と書かれていた。これは…?と名前は田所を見る。


「突然話しかけられて怖かったわよね。お詫びにあげる。また会いましょう!」


そう言って田所は走って去っていった。名前はぽかんとして苺大福を持っていた。



こつこつと、田所は周りを見渡した後とある人に電話をした。


「もしもし、先輩。"人形"と接触できました。」



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