24

黒いパーカーに着替えた名前はじっとコナンを見ていた。じーっと目線を離さなかった。だらだらと冷や汗を流すコナンは名前がどこまで知っているのかわからなかった。因みに何も知らない。

(むやみやたら突っ込むからよ、自業自得ね。)

灰原はコナンの横でみかんを食べていた。

灰原はコナンからホテルであったことを報告されて「私も行こうかしら。」と言ってついてきたのだ。その時コナンはかなり驚いた。


「…ねえ、蘭。」
「どうしたの?ずっとコナン君見て。」


名前はコナンを見ながら言った。


「コナン君とは血は繋がってないんだよね?」
「うん。」
「どこで会ったの?」
「え?えーと、それは」
「わ、わー!お姉ちゃん達!皆でトランプしよ!ね!?ね!?!?」


思いっきり猫被ってコナンはトランプを出してきた。
誤魔化すのが下手ね…と灰原はみかんを食べ終わった。
ババ抜きをしようという話になり、コナンはトランプを配り始める。皆、ペアになったトランプを中央に出していく。


「そういえば戻るけど。」
「?」
「随分とさっきはお楽しみだったみたいね。」


美味しいところ邪魔してごめんなさいね、とさらっと灰原は言った。ぶー!とコナンは吹き出した。な、何を…!と青ざめて震えていた。ああ、と名前はトランプから目を離さず言った。


「あれは蘭がやれって。」
「え!?」
「ちょ、押し倒したのは名前ちゃんでしょ!」
「え!?!?」


蘭が取られる…とコナンの血の気は引いていた。その反応が面白くて灰原は続けた。


「まあいいんじゃない。女の子同士じゃないと出来ないこともあるし。」
「は、はは灰原!」
「あら、私は本当のこと言ってるだけよ。」


うふふ、と灰原が笑った。こ、こいつ…楽しんでやがる…!とコナンは苛立った。
そしてババ抜きが始まった。最初は皆、ペアが出来たり出来なかったり。でも灰原が一番に上がった。そして蘭も。残るはコナンと名前。
未来を見るか、と名前は次に取るトランプのカードを見る。…が、未来は変えないと他のカードが見えないので、あまり意味がない。


「上がった。」


結局、最後に残ったのはコナン。
負けず嫌いないコナンはもう一回!と言ったが、灰原はノーと言った。


「いい加減にしなさい。貴方の我儘に付き合う気はないの。」
「…。」
「あの子に言いたいことあるんでしょ。」


と灰原は名前を見た。…ん?私?と名前は首を傾げ…ああ、あるね…とコナンを睨んだ。
…この子は、私のことを覚えてないのかしら。
それはそれで丁度いい。確認したかっただけ。


「…私、帰る。」
「え?泊まって行かないの?」
「流石に男の家に泊まる気はないわ。」


なーんてね、と灰原は蘭の家を出た。
ぴーん、未来を見た名前は灰原の後を追いかけた。灰原は階段を降りていた。名前はそれを見ると言った。


「ねえ、」
「何かしら。」
「今外に出ない方がいいよ。」


未来を見たのかしら。でも視界に入ったものの未来しか見えない筈…どうして?
私と会った時は10秒後の未来が見えると言っていた。聞いたことがある。成長するにつれてその時間は伸びていくと。今は何秒?
灰原は止まって、名前の方を振り返った。冷や汗が流れる。


「ねえ、貴方。未来が」


キイィイイイー!と大きな音がした。「!」と灰原が外に出ると階段を降りてすぐ横で自転車がぶつかって倒れていた。
彼女に話しかけられないで、そのまま出ていれば怪我をしていた…。
名前はその様子を灰原と見ていた。「大丈夫ですか!?」と人が集まっていく。


「…ありがとう、また助けられたわね。」
「?また?」


灰原は名前が"人形"だと確信していた。透き通る瞳は勿論、幼い頃見た面影。懐かしい、と思っていた。


「…よくわからないけど、傷つけるなって言われてるから。」
「そう。」


世話役に、かしら。それはきっと彼のこと。彼らしいわね。

そして、灰原は帰っていった。
変わった子だなあ、と名前は思っていた。

「おかわり沢山あるからねー。」
と蘭はご飯を用意していた。料理出来るんだ…凄い、と名前は感心していた。
因みに蘭のお父さんは友人とご飯を食べるみたい。早く言えって蘭が怒っていた。
ご飯は幸いにも焼き魚だった。嬉しい。
そういえば、コナン君が私に言いたいことってなんだろう。


「ねえ、コナン君。」
「なーに?名前お姉ちゃん。」
「言いたいことって何?」


「あ、えと…。」とコナンは目を泳がせた。


「…探偵ごっこしてごめんなさい。」
「そうだね。」


危うく殺そうとしたしね。
コナン君は蘭に私に殺されかけたこと、私がホテルにいたことは話していないらしい。…安心した。
蘭を傷つけたくないから。友達を大切にしたい。


「名前ちゃんはベットで寝てね。」
蘭の部屋で、蘭は布団を敷いた。え?私がベット?それは悪い。


「私が布団で寝るよ?」
「お客さんを布団で寝かせる訳にはいかないよ。」
「じゃあ、一緒に寝ようか。」


と自分で言って???となった。結局、シングルベットに二人で寝ることになった。狭いと思ったけど言い出しっぺだし、そもそも安室さんと二人で寝てるから一緒だった。
…そういえばクマのぬいぐるみを持ってくるのを忘れた。どうしよう、1日一回は抱きしめないと落ち着かない。
そうだ!
もぞもぞと私は動いて蘭に抱きつく。ふー…落ち着く。


「ふふ、どうしたの?甘えたさん。」


蘭は名前の頭を優しく撫でた。よしよし、と。名前は嬉しそうに目を閉じて温もりを感じていた。その内は二人は夢の中に入っていった。

二人が寝静まった後、キイ、と蘭の部屋のドアが開いた。コナンはじとーとその隙間から部屋を覗いている。

(蘭に何かあったら…って思って見にきたけど…仲良さそうだな。)

そしてコナンはドアを閉めた。


次の日の朝、ふああ、と名前は起きた。蘭は横で寝ていた。なでなで、と名前は蘭の頭を撫でる。
髪…さらさら…。


「よお、名前ちゃん。よく眠れたか?」
「蘭のお父さん。はい、ぐっすりです。」


リビングで小五郎は新聞を読んでいた。今日も仕事で出かけるらしい。バタバタと足音が聞こえる。蘭だ。


「ご、ごめんー!寝坊しちゃった!今朝ごはん作るね!」


蘭は毛利家のご飯担当なのかな。
コンコンと包丁の切る音が聞こえる。蘭のそんな後ろ姿を名前はじ、と眺める。
ひょこ、と蘭の横に出てきた名前は「なんか手伝うよ。」と言った。…言った後に気づいた。
私は料理が出来ない。


「え?でも名前ちゃん、家庭科の調理実習の時…。」


調理実習、一番嫌いな授業。米を炊くと何故かおかゆが出来るし、トマトは全然切れない。汁物は凄く熱くなる。…なんで?って?私が聞きたい。

朝食を食べて小五郎は出かけていった。コナンは「安心したから僕も遊びに行ってくる〜。」とスケボーを持ってどこかに行った。
私も帰るか。


「蘭、いきなり押しかけてごめんね。」
「ううん、また泊まりに来てね。」


バイバイ、と蘭は手を振った。それをじーと名前は見つめる。それに気づいた蘭は首を傾げて「どうしたの?」と聞いた。
ぱ、と名前は両腕を広げた。!と気づいた蘭は笑顔で名前を抱きしめた。名前も蘭を嬉しそうに抱きしめた。


「ふふ、本当に甘えたさん。」



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