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『先日起きた◯◯ホテル半壊事件について、警察は捜査を進めています。尚、この事件により怪我人は出たものの皆軽傷で…。』


安室さんの傷の処置は完璧だった。"目"もそこまで酷使していないから熱も出なかった。良かった。

名前は完治するまで学校を休むことになった。ボーッとしながらテレビのニュースを見る。
安室はポアロに向かった。

…コナン君は何者なのだろうか。何故私に付き纏うのか。殺すか?しかし安室さんからは殺すなと言われている。仲が良いからか?

関係ない人間ならどんなに傷ついても死んでも構わない。そう生きてきたから。

目が覚めた時、安室さんは静かに怒っていた。私がコナン君を殺そうとしたから。


「名前さん、命をそんな簡単なものだと思ってはいけません。もっと大切にして下さい。」


私は返事ができなかった。どう答えればいいのかわからなかったから。
由香を助けたのは、組織のターゲットだったから。ただそれだけ。


「貴方、本当に"人形"みたいね。」


ふとあの子に言われた言葉を思い出す。

これは幼い時の話。あの部屋にいたらベルモットが入ってきた。


「名前、注射するわよ。」


え?と名前は嫌な顔をした。注射なんて嫌い、でも断ることも出来ない。ベルモットは行くわよ、と部屋を出た。名前はクマのぬいぐるみを持って部屋を出た。すると目隠しをされた。これは組織の中を見せない為。下手に未来を見させない為。いつもそうだった。


「はい、着いた。」


目隠しが外されてぱち、と目を開けるとそこは薬の匂いがする研究室のような場所。パソコンやビーカーが置いてある。


「その子が"人形"?」


奥から出てきたのは茶髪の同じくらい歳の女の子。
「そうよ、シェリー。採血をお願い。」え?こんな女の子が注射するの?不安過ぎると名前はベルモットを見た。
うー、と名前は目を瞑って注射される。ぐ、とクマのぬいぐるみを持つ。注射は痛くなかった。


「はい、おしまい。」
「…。」


名前は何も答えなかった。
するとベルモットのスマホに電話がかかってきた。ジンからだ。どうやら幹部で話があるらしい。


「ああもう、いやね。シェリー、少しの間だけ席を外すわ。名前をよろしく。」
「え?ちょ、」


パタン、ドアを閉めてベルモットは出て行ってしまった。
「…。」「…。」と無言になる名前とシェリー。名前はクマのぬいぐるみを動かしていた。


「ねえ、なんで注射されたか知りたくないの?」
「?」
「…。」


じとーとシェリーは名前を見る。名前はそんなことを聞いてきたシェリーに疑問を持った。しかし何も喋らない。それに痺れを切らしたシェリーは言った。


「貴方ね、少しは喋ったら?」
「…。」
「…ったく。薬を作るのよ。貴方の"目"を持つ人間を増やす為にね。」


組織は未来が見える"目"を持つ"人形"を増やす計画を立てていた。
しかし、それは失敗に終わる。どんなに試験薬を作って試しても"目"は出てこなかった。

何も話さない名前に言っても無駄か、とシェリーはため息をついた。本でも読もうかしらとソファから立とうとした。
すると名前はやっと口を開いた。


「今から本棚行くと、雪崩れが起きるよ。」


「え?」とシェリーは名前を振り返った。そしてその後、本棚から本が次々と落ちた。
名前はぬいぐるみから視線を外して本棚を見ていた。


「…はあ、ありがとう。」


未来を見たな。シェリーは渋々、本を片付けた。
名前は相変わらず無口だった。にこりとも笑わない。
まるで"人形"のようだと思ったシェリーは言った。


「貴方、本当に"人形"みたいね。」


と。





傷が完治した名前は学校帰り、ポアロにいた。そして物凄く顔を真っ赤にしていた。原因は目の前にいる蘭と園子。


「ねえねえ、名前様!もっとニコニコして私のこと口説いてみて!」
「やだー!私のこと好きだって言ってくれたでしょ??」


「わ、忘れてよ!」と半泣きになる名前。どうやら男装するとキャラが変わるらしい。にやにやしている二人は「「遠慮しまーす!」」ととてもご機嫌。その様子を見ていた安室は女子高生のノリって怖いな、と思っていた。


「ま、まあまあ、名前さん、困ってますし、その辺に…。」
「あはは!安室さんも名前に口説かれたいでしょ?」


ウェイター姿の名前、かっこよかったし!と軽く言った園子だが、「え?…え?」と安室は顔を赤くして黙ってしまった。
え?ガチ…?と園子と蘭は固まった。
図星だった安室透。


「「こんにちはー!」」


とタイミング良く入ってきた少年探偵団。た、助かった…と安室は「いらっしゃーい!」と逃げた。わいわいと賑やかになるポアロ。名前はずもも…とコナンを睨む。それに気づいたコナンは「うっ、」と声を出した。そして名前はにこーと笑顔を作った。


「コナン君、こっちおいでよ。」
「いや、僕ー…。」
「来い。」
「はい。」


ぽんぽん、と名前はコナンを隣に座らせる。そして青ざめているコナン。
来い、の時笑顔が消えてた。な、何言われるんだろ…。
名前は相変わらずにっこにっこしていた。凄く怖い。


「時計直したんだね。」
「う、うん。」
「壊してごめんね?」
「いや、その…、」


明らかにコナンのことを怪しんで見てる。その様子を見ていた蘭は「どうかしたの?」と聞いた。


「二人とも仲良くなったんだね!」
「いや、」
「うん。」
「!?」


嬉しいー、と笑顔になる蘭。気付けよ、とコナンは念を送るが届かない。うん、と即答した名前にコナンは更に青ざめる。
そして更なる追い討ちをかけた。相変わらず名前はニコニコしていた。


「今週末、蘭の家にお泊まりしたい。」
「!?!?」
「いいよー!お父さんに聞いてみるね!」


だめだめだめ、そんなのだめだ!とコナンはぶんぶんと手を振る。しかし蘭は名前ちゃんとガールズトークしたいなーと上の空。
がし、と名前はコナンの肩を掴む。目が笑ってない。


「楽しみだね、コナン君。」
「は、はい。」



そして来てしまった土曜日、名前はピンポーンと探偵事務所のインターフォンを押す。「はーい!」と蘭の声が聞こえた。
蘭からコナン君のことを沢山聞き出そう、何か知っている筈。
「名前ちゃん、いらっしゃい!上がって上がって!」と名前は蘭の家に入った。


「お父さん、今仕事中なの。コナン君は阿笠博士のとこ行っちゃって。」
「ふーん。」


まあ、焦らずとも、夜になれば帰ってくる。それに、私のこと危険だと思っていれば、蘭をそのままにしない筈。
…安室さんと約束したんだった。
出かける前。


「いいですか、絶対彼らを傷つけてはいけませんよ。お願いでも命令でもありません。約束です。」


いいですね、と念を押された。
…よくわからない。

「ねえねえ、持ってきた?」
とワクワクする蘭に名前はうっ、と声を濁した。ちら、と蘭を見ると目を輝かせていた。はあ、とため息をついた。着替えるか…。


「きゃー!かっこいいー!」


数分後、ウェイター姿の名前に蘭はドキドキしていた。幸い、制服は破れていないし、洗えば汚れは落ちた。
ぎゅー、と抱きしめられる名前は私、何してるんだろ…と白けていた。
まあ、ここは蘭を喜ばせておくか。と名前は蘭をとさ、と押し倒した。


「お嬢様、あんまり調子に乗ってるとこのまま食べてしまいますよ。いいですか?」


そして、名前は赤くなる蘭に顔を近づけた。勿論、キスするつもりはない。後数センチというところで、「ただいまー!」と玄関のドアが開いた。きゃー!と蘭は思いっきり名前を突き飛ばした。勘違いされるところだった。リビングに入ってきたのはコナンと…灰原だった。
「あ、哀ちゃん、来たんだ!ちょ、ちょっと待ってね!」とパタパタとお菓子を取りにキッチンに向かった。
「…。」と黙った名前はこの状況なんだろ、と思っていた。


「…貴方、何してたの?」
「夜這い。」


「!?」と青ざめるコナンに呆気としている灰原。意味わかって言ってるのかしら、と。



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