21

安室さんは頭を抱えて「いや…あの…、」と困っていた。?私はいけないことでもしただろうか。すると他のウェイターに「お前ら!何をやっているんだ!」と注意され呼ばれた。

再び会場に戻って飲み物を運ぶ。ウェイターの仕事って意外と簡単で良かった、と思っていた名前は女性陣の視線に気づいていない。その様子をじとーと見つめる安室。


「ね、ねえ、僕。」
「!何でしょう!お姉さま!」


にぱー、と営業スマイルを作る。話しかけてきた女性客は20代後半くらい。勿論、お姉さま。
女性客ははああ…可愛い男の子!と完全に惚れ惚れしていた。
昔、ベルモットの遊びに付き合わされたことある。


「名前、ちょっと私をエスコートしなさい。」
「え?なんで?」
「暇だからよ。」


はい、とベルモットは手を差し出した。…?と困惑した私にベルモットは早く、と急かした。…とりあえず手を両手で包む。しかしベルモットはぺい、と弾いた。


「却下。やり直し。」
「!?」


そしてベルモットによる怒涛のエスコート講座が始まった。
ベルモットの暇つぶしが役に立ってよかった。えーと、えーと、他にどんなことしたんだっけ。思い出せ…。


「暇なら私と一緒に部屋で話さない?」


そうだ!と名前は思い出した。離れたところで見ていた安室は冷や汗が止まらない。
くい、と優しくと女性の腕を引っ張って顔を近づける。


「いいですよ、でも今夜は寝かせませんよ?」


「はい…!」と女性は名前に抱きついた。あれ、これで合ってる?と名前は思っていた。まいっか。
すこん、と頭を叩かれた。痛い、と涙目で名前は後ろを見るとごごご、と怒った安室がいた。


「…名前さん。ちょっと。」


は、はい。と名前は固まった。
「すみません、先輩。僕たちトイレに行ってきます。」と近くのウェイターに安室は言うと名前を連れて狭い通路にやってきた。
だん、と壁に手をつくと安室は名前を逃げられないようにした。あ、これ、やばいやつ。


「……だめでした?」
「だめです!何誘ってるんですか!」


あれ以上は流石にやばい!と青ざめた安室は名前の身の危険を感じた。なんでだろう、あの背景に百合の花が見えた。きっと幻覚だ。


「ベルモットを足してはいけません。」
「?でもベルモットは褒めてくれました。」
「あの人は!!!」


余計なことを!と安室は叫んだ。兎に角やめて下さい…と言う安室だが、「でも今更キャラ変えられないです。」と言う名前のセリフにうっ、と固まった。
実を言うと安室はそれを女性にするのではなく、自分にしてほしいと思っていた。いやいや、でもそんなことは言えない。
ぱ、と笑顔を作る名前は言った。


「大丈夫です!僕、お姉さま方好きですから!」
「は?何を…。」


というか可愛い。これがショタ…。
すると名前はしっと人差し指を立てた。すると足音が聞こえて「どこいったのー?」「僕ー!」とお姉さま方の声。


「はいはーい!ここにいますよ!」
「名前さん!!!」


そして名前はお姉さま方によって会場に連れて行かれた。


会場には小さな子供もいた。足元に注意しなくては。そして凄い視線を感じる。安室さんこっち見てるなあ〜〜。仕事してほしい。でもお客さん喜んでるし、今更このキャラ変えられないし。
「きゃ、」と目の前で女の子が転んだ。この会場は転ぶ人多いな。
と思いつつ名前は屈んだ。手を差し伸べて。


「大丈夫ですか?お嬢様。」


「うう、」と女の子は立ち上がろうとして…名前はその顔を見て固まった。
…歩美ちゃんだ。なんでここに。
「歩美ちゃん大丈夫?」と連れの人だろう。女の人の声だ。兎に角バレてはいけない。
名前は歩美の手を握って立たせた。そして、ふいと前を見ると…青ざめた。少年探偵団と阿笠博士、蘭と園子までいた。どうしよう。


「大丈夫!ありがとう、お兄ちゃん!」
「いえいえ。」


博士ー!かっこいいお兄ちゃんいたー!と歩美は皆の元へ行った。あぶなー…とりあえず距離取ろう。なんでこんなところにいるんだ。
しかし、視線を感じる。くいくいとズボンを引っ張られる。歩美だ。なんで?さっき博士のところに行ってたじゃないか。


「どうしました?」
「お兄ちゃん!目見せて!」


……!あ!目!?やばい、目の色でバレる…。どうしよう、どうにかして誤魔化さないと。だらだらと汗が流れる。


「…お嬢様、顔を近づけて欲しいのですか?」
「うん!」
「へえー…可愛らしいお願いですね。」


そして、名前はにこ、と微笑んで歩美の唇に触れた。歩美は突然のことで顔を真っ赤にした。


「そんなに無防備な子猫ちゃんには悪戯のキ…」


スをしますよ?と言おうとするとごん、と今度は強く殴られた。痛ーい!何するんですか!と名前は涙を流して殴った安室に怒る。じとー、安室は名前を睨む。余計なことはするなと。


「あ!安室さんだー!」


とわいわいと皆、安室に集まる。「いやー、偶然ですね。皆さん。」と知り合いのようだ。
え?安室さんの知り合い?こ、この隙に逃げよ…。
と名前はそろーと足音を立てずに離れようとする。勿論、安室は逃がさない。ぐ、と肩を掴まれた。ぎぎぎと壊れたロボットのように名前は青ざめて振り向く。
安室さんの笑顔が怖い。


「嫌だなあ、お客さん置いていくなんてだめですよ。名前さん。」


大きな声で言った。血の気が引く。
「え?名前ちゃん?」と蘭達は名前の顔を見る。


「あ!本当に名前ちゃんだ!なんでここにいるの?」
「名前お姉さん、ウェイター姿だ!かっこいいー!」
「なんで男装してんた?」


きゃあきゃあ、と皆名前に興味深々。
先程の女性客と名前の騒ぎを見ていたコナンは何とも言えない表情になっていた。

蘭達は園子の紹介できたらしい。園子の父親がこのパーティーの主催者の友人。

安室はどことなく嬉しそう。彼女が女だと周りに知らせれば女性客は言い寄られることもなくなるだろう、と。
しかし。


「あ!あの!」


やってきたのは先程名前が怪我を手当てした女性。22歳くらいの女性だ。顔は幼いが。
「あの、あの…!」と女性は名前に近づいた。心なしか顔が赤い。
ああ、この子は。と名前は笑顔を作る。
その笑顔を見た蘭と園子は誰だ…?と思わず思った。


「一緒にあちらで話しましょうか。」
「はい…!」


と百合の花が咲く。すたすたと名前は女性と行ってしまった。なんだ?ここはホストクラブか?とコナンはじーと見ていた。
安室さんも安室さんでモテてるし。
と安室は他の女性に言い寄られていた。戻ってきた安室は名前がいないことにすぐ気づいた。


「あれ、コナン君。名前さんは?」
「名前お姉ちゃんなら知らない女性とどっか行ったよー。」
「探してきます。」


すたすたすたー!と安室は消えていった。
名前さんまた怒られるな…。…それにしても二人がウェイターをやってるってどういうことだ?別に女のウェイターもいるし、わざわざ男装する必要はない…。目的は?組織が絡んでる?


「由香様は主催者様の娘さんなんですね。」
キラキラと名前はさりげなく由香の手を握る。その行動に男慣れしていない由香は顔を赤く染める。
しかし名前は、この子はターゲットか…と瞳を鈍く光らせていた。
今回の仕事は彼女を誘拐すること。
だから気に入られれば、どこかで隙が出来る。


「わ、私、男の人苦手で…。でも貴方は女の子っぽい顔してるし、身長も低いから話しやすくて…。」
「それはよかったです。嬉しいです。」


僕も由香様のこと好きですよ、と笑顔で嘘をつく。その言葉にぽぽぽと顔を更に赤くする由香。とても奥手だった。これは押さないと隙は出来ない…。
しかしどうしたものか。ベルモットに言われた台詞ば底をついてきた。うーんと考えている名前は悩んでいた。


「あ!お父様!」


と由香は繋いだ手を離さず、小太りの男性な元へ駆け寄った。「やあ、由香楽しんでるかい?」とのんびりした口調で男性は微笑んだ。


「はい!あ、あの、こちら先程仲良くなった…えと、」
「ウェイターの名前です。」


その瞬間、ピシリと場が固まった。女の子の名前にもしや…という空気になった。それに気づいた名前はにこりと微笑んだ。


「すみません、よく女の子の名前だと思われるんです。こんな見た目なので幼い頃から女の子と間違われていて。」


あはは、と笑う。
流石に無理があるか?安室さんと交代してもらった方が…。しかし彼女は男性が苦手。
と考えている名前に熱い視線。ん?と由香の方を向くとキラキラと見ていた。

(なんて可愛い…!やーん、もっと一緒にいたい…。)
「…由香様?」
「はっ!!そ、そうだ!お父様、彼と…その…、」


なんだろう、と名前は腕に絡みつく由香を見ていた。もじもじという由香に何かを察した父親は「いいよ、行っておいで。」と言った。ぱああ、と由香は明るくなって「名前様!こちらです!」と会場の外へ連れ出した。


「…名前さん、どこに行ったんだ。」
一方、安室は広い会場で名前を探していた。あの子を一人にするとロクでもないことが起こる。また女性に言い寄られていたら…と考えると凄く複雑な気持ちになる。


「あの子を探してるんでしょ。」
「!哀さん。」


あっち、と灰原は会場の外を指した。え?会場の外?嫌な予感しかしない。「ありがとうございます!」安室は走って会場から出ていった。
ずずーと灰原はジュースを飲む。


「…あの子、あんなに笑うのね。」


誤解していた。



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