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「じゃ、失礼しますね。」と安室はニコニコしながらちゃっかり名前の隣に座った。反対側には勿論男子高校生。視線が凄く怖いです…。

映画が始まると女子高生と男子高校生と青春ラブストーリーだった。最初はすれ違いから始まり、最終的には結ばれるというありきたりなもの。

つまんねー、推理ものがいいと思いながら観るコナン。隣に座る安室が気になってチラリと見る。安室はこくこくと眠そうにする名前を見ていた。いやいや、映画を見ろ。
名前は男子高校生の方に寄りかかりそうだった。安室は名前の肩を抱いて自分の方へ寄せた。

(これで無自覚とかこえーな…。)

敵に回さないようにしないと…と悟ったコナン。


「…ん?」
「あ、起きました?」


まだ映画は続いている。名前は目が覚めた。まだ寝てて大丈夫ですよ、と安室は肩を抱いていた手で名前の頭を撫でる。
じーと映画を見る名前に、ん?と安室も映画を見る。


『好き…。』
『俺も…。』


と抱き合ってキスするシーン。わー!と青ざめた安室は焦って名前に目隠しする。
…名前さんには早すぎる!こ、こんなシーン見せられる訳がない!


「それじゃあ今日は帰りますか。」
映画館を出て安室は言った。18時を過ぎていた。ぴったりと名前の隣から離れない安室に他のメンバーはあはは…と苦笑いしていた。勿論男子高校生も。しかし頑張る男子高校生。がしっと名前の手を握って言った。


「あ、あの…!また今度デートし、」


てくれますか、と言おうとして鋭い視線を感じた。名前の後ろで安室がめっちゃ睨んでいる。どうしたんだろう、と男子高校生を見てぱちくりする名前。安室は握られている手に自分の手を重ねた。


「女性の手を不用意に触るものではありませんよ?」


そして笑顔で男子高校生の手だけギリギリと力を入れて握った。さあーと青ざめる男子高校生は「じゃ、じゃあ明日!」と猛ダッシュで帰って行った。
モンペ怖い…とコナンは思っていた。


「それで、」
「「「「?」」」」


名前はじとーと安室達を見た。


「ストーカーして楽しかった?」


あっ、やっぱりバレてる…。





「お届け物でーす。」
とある日、名前が留守番している時荷物が届いた。ずっしりと重いダンボール。差出人は書いてなかった。なんだろう、書き忘れたのかなと名前は思ってガムテープをびりびりと剥がした。中には白いワイシャツと黒いネクタイ、ベスト、ズボンが入っていた。そして手紙。名前は戸惑いなく手紙を開ける。間違ってたら郵便局に行けばいい。


「!ベルモットの字だ。」


手紙は英語で書かれてあった。
『元気かしら?突然だけど仕事よ。約束の三週間も経つからね。来週の日曜日に開かれるパーティーのウェイターとして変装して貰うわ。その服はその制服。似合うといいわね。』


「新しい仕事?」
安室が帰ってきて名前は荷物について報告した。彼は手紙を読むと眉を顰めた。折角休めていたのに…。
バーボンも参加するらしい。はあ、とため息を吐く。


「変装したことないので緊張します。」
「見様見真似でいいんですよ。」


キラキラと名前は制服を手に取って眺める。
"目"を酷使しないように言い聞かせないと…。


「名前さ、」
「あ、」


ヴーと名前のスマホが震えた。名前はスマホをポケットから取り出すとちょっと嬉しそうにした。嫌な予感…と安室はスマホを取る。見るとやっぱりあの男子高校生からメールが来ていた。


「……………名前さん。」
「は、はい、」


安室が怒ったことを察した名前は小さくなった。
あの男子高校生…!僕の娘に…!妹に…!


「だめです、名前さん。そんな簡単に靡いたら。」
「な、靡く…?」


ぐ、と安室は彼女の腰に手を当てて引き寄せる。なんだろ、と分かっていない名前はぱちぱちと瞬きした。じ、と安室は名前の様子を見る。
可愛い…。男は狼だって知らせないとな…。
く、と顎を持ち上げて顔を近づける。吐息が混じり合う。後3cm、唇が近づく。
……って!!!だめだ!!き、キスなんて名前さんには早すぎる!!
安室は顔を真っ赤にして離れた。ぽけーとしている名前は何が起こったのか分からない。


「…あ、安室さん?」
「な、何でもないです!べ、別にキスしようとしてないです!」
「?キスしようとしてたんですか?」
「あ、いや…、」


ずささ、と名前は恥ずかしがって後ずさった。
ああ、やばい、口走ってしまった。これでは公安が務まらない…。名前さんといると調子が狂う…。
気を取り直して安室はにこーと笑顔を作った。


「男には気をつけないといけませんよ!油断してるとああやって無理やりキスされるかもしれませんから!」
「へ、へえ…?」



パーティー当日、安室は名前を車に乗せて会場に向かっていた。名前はじーっと窓の外を見ている。そんな名前を安室はチラリと見る。
名前は今ウェイター姿。しかも男装中。これは出かける前、安室のマンションで。


「安室さん、ネクタイ結べないです。」


制服に着替えた安室に名前はてくてくと近づいた。流石ベルモット、サイズがぴったりだ。安室は「僕がやりますよ。」と半ば喜びながらドキドキしながら名前の首元に手を伸ばす。ち、近い…!
きゅ、とネクタイを結ぶと名前は淡々と「ありがとうございます。」と言った。

(ウェイターの仕事内容は教えたけど上手く出来るだろうか。)

安室の心配事はそれだった。変装もウェイターもした事のない名前。彼女はお世辞にも愛想がいいとは言えない。ポロッと本音が出てしまえば問題になる。


「名前さん。せめて愛想は良くしてくださいね。」
「?どうやって?」
「うーん…。」


そうきたか。どう答えば分かるだろうか…。あ、そうだ。


「僕がポアロで働いている時みたいに!ですかね?」
「ふーん…。」


分かってくれただろうか…。不安は積もる…。

パーティーが始まった。ドレスを着た女性にスーツを着た男性が大勢いた。「お嬢さん、お飲み物は如何ですか?」と声をかける安室に女性達は顔を赤くした。難なくこなす安室は名前のことが気が気でなかった。


「きゃー!」


と女性の叫び声が聞こえた。事件か!?と安室は足を向かわせた。そこには女性が集まっていた。「すみません、何が…。」と安室は割って入る。もしかして殺人事件か!?と中央に入っていって固まった。


「だめですよ、お姉さま。男は皆、狼なんですから。」


ウェイター姿の名前が女性客の腰を引いて顎に手を添えていた。女性客は顔を真っ赤にしてベタ惚れ中。「あ、あの…!私…!」とあわあわと慌てている。キラキラと輝くその光景に安室はぴし、と石になった。何をやってるんだ。


「きゃー!かっこいい!是非!食べて下さい!」
「私も!」
「やーん!私も!」


と女性達は名前に群がる。「ちょ、ちょっと…!」別の意味で問題が起こっていて安室は名前の腕を掴んで会場の外に出た。人気のないところに行って、はあはあと息を切らす。そしてがしっと名前の肩を掴んで言った。


「な、何やってるんですか…?」
「安室さんの真似してみました。」
「僕ってそんなイメージなんですか!?」


しらーといつもの調子でいる名前は「え、この前、」とキスされそうになった時のことを言おうとして安室は手で塞いだ。


「と、兎に角、ホスト紛いなことするのやめてください…何がどうなってあんなことになったんですか…。」
「ああ、あれですね。」


名前が言うには。ウェイターの仕事をしていたらドレスの裾を踏んでしまって転けそうな女性がいたとか。それをたまたま通りかかった彼女が受け止めた…まではいいが。その後、名前はどう声をかければいいのは分からず、咄嗟に安室の真似をした。


「大丈夫ですか?…お姉さま!」


にこと安室のように笑顔を作った。お姉さま呼びにきゅんとした女性客は足首を痛めていたので、名前は軽々と女性客を抱き抱えて椅子を座らせた。持っていたハンカチで足首を巻いて固定した。「あ、あの…、」恥ずかしそうに女性客は顔を赤くした。それに気づいた名前はにぱ、と笑顔になり彼女の手を取った。


「遠慮なさらず。僕は気にしてませんので。恥ずかしがるお姿もとても可愛らしいですよ。」


ちゅ、と手の甲にキスをした。
それからそれを見た女性達に囲まれてああなったらしい。
全てを聞いた安室はわなわなと震えていた。
…な、な!僕ってそんなキャラ!?真似しろとは言ったけどそんなキャラだっけ!?!?


「因みにベルモットを足して2で割ってみました。」
「それだ!!!!」



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