18

「ねえ、君。何者?」


未来を見て、コナン君が私に盗聴器を仕掛けたこと、後をついてきていることは知っていて泳がせた。路地裏に入ると視界から外れたからその先の未来は分からないけど。
何故、私にそんなことをしたのか。ただの好奇心とは思えない。


「え、えーっと、」
「…。」


名前はコナンを睨む。すると安室はコナンの肩に手を置いた。


「探偵ごっこですよ。」
「探偵…?」
「コナン君は探偵ごっこが好きなんです。」


安室の思わぬフォローにコナンは頷いて「そ、そう!僕将来探偵になりたくて!」と言った。じ、と名前はコナンを見つめる。
安室には名前が今どんな未来を見ているのか分からない。だからコナンがこの先余計なことしない未来を願うばかり。


「…本当みたいだね。」
「でしょ!名前お姉ちゃんに見つかったし僕帰るねー!」


バイバーイ!とコナンは帰っていった。
良かった、と安室は心の中で溜息をついた。相変わらずコナン君は察しが良い…。





日曜日、名前は一人で出かけていた。勿論、いつもの黒いパーカー姿。雑貨屋のショーケースの前にじっと立っていた。目の前には3つのクマのぬいぐるみ。か、可愛い〜!とハートを飛ばす。欲しいけど、最近仕事してないからお金がない…。うーん…。


「あ!名前お姉ちゃん!」
「…コナン君と……。」


誰だっけ。茶髪の女の子と小太りなおじさん。
茶髪の女の子は名前を見るとおじさんの後ろに隠れた。コナンは人懐こい笑顔で名前に近づいた。


「名前お姉ちゃん、何してるの?」
「ぬいぐるみ探し。」


暇だから出かけていた。コナンは目が点になって「ぬ、ぬいぐるみ…?」と聞いた。イメージ違う、と思っていたコナン。


「コナン君達はどこ行くの?」
「少年探偵団と仮面ヤイバーのショーを見に行くんだ!」


…子供らしい。するとぎゅるるるる、と大きな音が鳴った。名前でもコナンでもない。「いたた…。」とおじさんがお腹を押さえていた。コナンは呆れた様子で「だからさっき食べすぎだって言ったんだよ、阿笠博士ー。」と言った。


「いやー…流石に食い過ぎたのう…、すまん、わしは帰り…。」
「あー!コナン君達!」


わいわいとやってきた少年探偵団。「あ!名前さん、こんにちはー!」と挨拶される。お腹を押さえる阿笠博士に歩美はどうしたの?と首を傾げた。お腹を壊したことを知った少年探偵団はえー!と叫んだ。


「どうする?大人の人いないとショー見にいけないよ?」
「僕達で入れますかね…。」
「俺仮面ヤイバーに会いてーぞ!あ!」


元太は名前を見た。…ん?と名前は返事をする。嫌な予感しかしない。


「名前姉ちゃんと一緒に行くってのはどうだ!?」
「そうですね!名前さん!一緒に行きましょう!楽しいですよ!」


曇りなきまなこに名前はう、と後ずさる。そんな面倒なことしたくはない。キラキラとした瞳に「えと、その…、」と言葉を濁らす。なのでつい、


「わ、分かった…。」


と言ってしまった。



「てい!やあ!」
ショッピングモールの屋上、子供に混じって名前はショーを見ていた。少年探偵団は「ヤイバー頑張れー!」と楽しそう。…凄く楽しそうだった。名前はげんなりしながら見ていた。なんでここにいるんだろ。

そしてショーが終わると少年探偵団は「楽しかったねえ。」「また次も見にいこーぜ!」と話していた。歩美は名前の手を繋いでいる。


「お姉さんも楽しかった?」
「全然。」


そ、そっか…と歩美はショックを受けた。おいおい、と思ったコナンだが、自分も同じなので何も言わない。するとぴたりと名前は止まった。コナンは名前の視線の先を見ると店先にクマのぬいぐるみを見つけた。それを少年探偵団は気づいた。


「お姉ちゃん、あれ欲しいの?」
「え?い、いや…。」
「ショーに付き合ってくれたお礼に僕達が買います!」
「いこーぜいこーぜ!」


と4人は店に入っていった。その様子をコナンと灰原は見る。
何も話さない灰原はずっと名前と距離を取っていた。隠れるように、組織に見つからないように。


「…おい、灰原。名前さん、兄弟はいないって言ってたぜ。お前の勘違いなんじゃねーの?」
「…そうね。」


それだけ言って灰原は歩き出した。なんだあいつ…とコナンはじとーと見ていた。

店に入ると「えー!あのクマさん、売り物じゃないの!?」と歩美の声がした。がーん、とショックを受ける名前は仕方ないと思った。


「申し訳ありません、あれは店のディスプレイでして…。」


というか売り物でも小学生のお金では買えないだろう。名前もお金は大して持っていない。
店から出て名前のスマホが震えた。電話だ。画面を操作すると安室から沢山着信が来ていて引いた。
そういえば、安室さんに何も言わないで出かけちゃった。安室さん、朝早く仕事に行っちゃったし。
名前は怒られるのか…と電話に渋々出る。


『名前さん!!今どこですか!!!』


大きな声で耳がキーンとして思わず名前はスマホを離した。め、めっちゃ怒ってる…。
「え?この声…安室さん?」安室の声は側にいる少年探偵団にも聞こえたらしい。
あ、まずい、一緒に暮らしてるのがバレる。内緒にしろって言われてるんだった…。
ばっと名前は『名前さ、』と喋るスマホに聞こえないように手を当てた。


「いや、あの…ごめんね、ちょっと電話してくる…。」


と名前は早足で少年探偵団から離れた。それをじーと見る少年探偵団。
コナンはえ?どういう関係なんだ?と疑問に思っていた。こっそりと名前の後ろについてきて話を聞く。絶対バレる。


「ご、ごめんなさい、出かけてて…、は、はい、大丈夫です…か、帰ります…。ば、場所は…、」


名前はショッピングモールの場所を言う。
?安室さんは勝手に出かけた名前さんに怒っているのか…?なんで?帰る?どこに?
はあ…とぴ、と名前は通話を切った。予想以上に怒られた。


「ねえ!名前お姉ちゃん!」
「わっ!」


思わず名前はびっくりしてスマホを落とした。カラカラとスマホをコナンの方へ落ちる。画面には『安室さん』と書かれてあった。
やっぱり安室さんか。
コナンはスマホを渡すと「安室さんと何の電話してたの?」と何気なく聞いた。


「…い、言えない。」
「なんで?」
「…。」


言っちゃダメなんだ!と名前はだらだらと冷や汗を流す。
「もしかして…名前お姉ちゃん…」とコナンは悪戯っ子のように名前を見る。ドキドキと緊張する名前。


「安室さんと付き合ってるとか?」
「……は?」


「いや、ないよ。」としらーと言う彼女にコナンはそうなの!?と驚いた。


バイバーイ!と名前は少年探偵団と分かれる。空はすっかり夕方だった。
名前もてくてくとマンションに向かう。街中を歩いていると後ろから手を掴まれた。振り向くと…そこには、


「あ、安室さん。」
「名前さん!」


探しましたよ…と安室は息切れしていた。「す、すみません…。」しょんぼりする名前は反省していた。ちゃんと直さないと…。


「でも何もなくてよかったです。…欲しいものありましたか?」
「はい、あ、でも…。」
「?」


どうしよう、また怒られるかも…。
だらだらと冷や汗を流す名前に安室は「名前さん?」と急かした。


「…コナン君に安室さんと住んでるのバレたかも…。」
「!?」



「なあ、灰原。」
コナンは他の三人が前を歩いてる様子を見ながら灰原に話しかけた。
「何、あの子の事でしょ?」と灰原はわかっているご様子。


「安室さんと何かあるらしいんだけどな…。教えてくれないんだよ。」
「そう。"人形"なら本当のことはなかなか話してもらえないでしょうね。」


もしかしたら、公安に狙われている?可能性は十分ある。公安が知っているならFBIも、赤井さんも…。
「そういえば、一つ知っていることがあるわ。」と灰原は思い出した。


「"人形"は兄弟全員、組織の人間に殺されたって。」



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