17

「なあ、灰原。名前さんについてなんか知ってんのかよ。」


ここは阿笠邸。コーヒーを飲みながら灰原はパソコンを弄っている。
あの日、初めて名前に会った時から灰原の様子がおかしい。もしかしたら組織の人間では、とコナンは怪しんでいる。


「組織にいる時、噂を聞いたことがあるのよ。」


透き通る瞳を持つ少女の話。
組織には、組織に匿われている一つの家族がいた。父親、母親、そして沢山の子供達。母親の目はとても透き通るような綺麗な目だったという。
その目は未来が見えた。
家族は幸せに暮らしていた。組織という狭い世界で細々と暮らした。
しかし、ある時、母親は一人の娘を連れて組織から逃げた。母親がどうなったのか知らないが、その時いた娘だけ組織は再び匿った。
そして大事に大切にその"目"は育てられた。


「その女の子は"人形"と呼ばれていたそうよ。今はどうしてるか知らないけど。」
「…未来が見える目。」


コナンは思い出す。確か節々に考えられる事があった。親猫から歩美を助けた時、白猫の運命を知っていた時。

組織の尻尾を掴む時。もし本当に組織の人間なら構成員がどこにいるのか知っている筈。


「え?名前さんのこと?」
その後、コナンはポアロに向かった。安室に「名前お姉さんのことを聞きたいなあ〜?」と無垢な笑顔で言うと安室は「そうだなー。」と考えた。
…何か知っているのか?いやその筈だ。バーボンなのだから。
じっ、とコナンは安室を見つめる。


「仲の良い常連客ですよ。」
「へえー…。」
「あはは、コナン君は何を知っているのかな?」


「やだなあ、何も知らないよ?」と猫をかぶるコナンに二人はお互い何かを隠しているな…と確信していた。
するとすぐにカランカランとドアのベルが鳴った。蘭達だ。蘭はコナンに気づくと「あれ?コナン君来てたの?阿笠博士のところ行ってたんじゃ?」「うん!今帰ってきた!あ、」とコナンは蘭の後ろにいた名前を見つけた。


「名前お姉ちゃん!」
「?何?」
「写真撮らせて!」
「??」


突然言われた台詞に名前は首を傾げた。
なんで?写真?
にこー、としているコナンを見つめると「いいよ。」と屈んだ。コナンは「わーい!ありがとう!」とパシャ、写真を撮った。


「ちょっと、ガキンチョ。なんで写真なんか撮るのよ。」
「だって名前お姉ちゃんの目とても綺麗なんだもん!」


これを後で灰原に見せて…知ってるか分からないけど赤井さんにも聞いて…。
その様子を安室は怪しんで見ていた。しかし何も言わなかった。
一方、蘭達は椅子に座って談笑していた。名前もなんだか楽しそうにしていた。笑っていないが。
コナンは名前の隣に座った。


「名前って妹タイプよねえ。」
「妹?」
「そう!なんかさ、性格とか雰囲気とかでさ、この子は妹だなあとかお姉さんだなってならない?」


園子は言うと名前はうーんと考えてた。しかし名前には兄弟はいないからよく分からなかった。チャンスとばかりにコナンは口を開いた。


「名前お姉ちゃんって兄弟いないの?」
「?いないよ。」


…いない?灰原は"人形"には沢山兄弟がいたと言っていた。灰原の勘違いか…?
いやでもあの灰原が間違う筈がない。もう少し探って…「はいはい、皆さん。パンケーキ出来ましたよ。」と安室が入ってきた。
相変わらず甘いものが苦手な名前はじっ、とそれを見るだけだった。それに気づいたコナンは「食べないの?」と聞いた。


「あげる。」
「?わーい!」


と名前はコナンにパンケーキをあげた。「安室さんに失礼でしょ!」と園子とすぱーん、と名前の頭を叩く。


「残す方が失礼じゃないの?」
「そうだけど!自分で食べなさい!」
「う…分かった…。」


自分の所にパンケーキを戻すと名前はおずおずと口にパンケーキを入れた。甘かった。きっと一般的なパンケーキよりは甘くないのだろうけど、名前にとっては甘かった。
「無理しなくていいんですよ。」と安室は言った。


(名前さんにスイーツを出すのは難しい…。)
「ねえ、この後どこ行く?」
「あ!ゲーセン行ってプリクラ撮りたい!」


わいわいと蘭と園子は話す。黙ってパンケーキを食べている名前はコナンの反対側に座る男達をちらりと見た。どうにもチャラそう。にやにやしながらこっちを見ている。
「コナン君。この水貰うね。」とコナンの水の入ったコップを手に取るとばしゃ、とその男達にかけた。
思わぬ展開になったコナンは「え?」と思わず声を出す。しん…と静かになる空気に名前は言った。


「話しかけてこないで。変態。」


未来を見たのだ。男達にナンパされる未来を。しかし現実では話しかけられてもいない。それを察した安室は青ざめた。


「て、てめえ、何すんだ!」


明らかにさっきのは名前が悪い。名前に掴みかかろうとする男に蘭も園子もあわあわと慌てていた。やばい、名前は蘭に負けないくらい強い、と園子は思っていた。
ぐ、と胸ぐらを掴まれる名前は動じてなかった。冷たく見据えており、男の腕をつかもうとしたら安室が先に名前の腕を掴んだ。


「すみません。彼女は僕の妹でして。僕が弁償しますから。」


妹…?と名前は固まった。ああ、そういう設定…とすぐ理解した。
男はすぐに「ふざけんな!」と安室に殴りかかろうとしたが、すぐに安室は受け止めた。男は力が敵わないとわかると舌打ちして店を出た。蘭はそれを見届けるとはあ…と脱力した。安室はコツン、と名前の頭を小突いた。痛くはない。


「名前さんが悪いです。あんなことしてはいけません。」
「…。」


初めて怒られた…と名前はきょとんとしていた。未来を読んで怒られたのは初めてだ。反省しよ…と名前は口を開いた。


「ご、ごめんなさい…お兄ちゃん。」


突然のお兄ちゃん呼びに思わずときめく安室。「い、いや、あれは嘘でして…。」と自分でフォロー。あ、そっか、と名前は理解。

(やっぱりの名前さんは…"人形"…?)

そして安室さんは何かを知っている。知っているからこそ彼女を助けた。でも公安が目をつけるなんて…。それだけ脅威ということか?


「ええ!?僕も行くー!」
パンケーキを食べ終わって名前達はポアロを出た。ゲーセンに行くのだ。もっと彼女のことを知りたいコナンは猫を被って名前の手を引っ張る。園子はしっしと手を振った。


「なーに言ってんのよ!ガキンチョは家で留守番に決まってるでしょ!」
「えー!」


そしてコナンは名前の鞄の下に超小型盗聴器を付けた。「わ、分かった…。」と名前から離れると事務所に帰ると見せかけて路地裏に入って彼女達を追った。
じ、とコナンを見ていた名前は園子に呼ばれてついて行った。


『でねー、この前なんか…。』


イヤホンから蘭達の声が聞こえる。というか聞こえるの殆ど蘭と園子の声。仲良しだな…。
そしてその約20秒後、イヤホンからバキィと大きな音がした。
なっ…、もう壊れた…!?いや、この音は壊された…?
コナンは急いで蘭達がいる歩道に少し顔を出す。
離れたところにいる名前がコナンを睨んでいた。
彼女の手にはバチバチと鳴らす盗聴器。


「どうしたの?名前ちゃん。」
「…別に。」


そしてふい、と名前は前を歩き出した。
組織の人間なら蘭と園子が危ない。最悪、殺されるかもしれない。


「じゃあね、バイバーイ。」


名前はゲーセンには行かず帰るそうだ。蘭と園子は名前に手を振っている。
罠かもしれない…、いやこれは組織のアジトを突き止めるチャンス、とコナンは名前を追った。名前は段々人気ないところに進んでいく。何かあれば麻酔で眠らせればいい、サッカーボールだってある。
路地裏を歩く名前を見つめる。どこに行くつもりだ…?と息を殺す。その時、コナンの後ろから手が伸びて、口を塞がれた。


「!!」


しまった…!彼女を追うのに必死で…!仲間か…!?と振り向こうとすると「だめですよ、コナン君。」と安室の声。…なんだ、安室さんか、とコナンは緊張の糸を解した。いや、彼女を見失ってはいけない。ばっと路地裏を見ると名前はいなかった。ぱ、と安室はコナンを離す。


「…安室さん、教えてくれる?名前さんとはどんな関係なの?」
「流石に小学生に企業秘密は教えられないなあ。」


何を今更…とコナンはじと目で安室を見る。ニコリとする安室。
企業秘密って彼女は一体…?


「いいや、僕帰ろーっと。安室さんの知らないこと僕知ってるし。(ヤケクソ)」
「ほー…何かな?」
「安室さんが教えてくれたら教える。」


とコナンが帰ろうとすると路地裏の方からじゃり、と足音が聞こえた。名前だ。名前はコナンを冷たく見ると口を開いた。


「ねえ、君。何者?」



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