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「「我ら!少年探偵団!」」


ポアロにて。名前はぽかん、と口を開けていた。しゃきーん、とポーズを取る少年探偵団に呆気としていた。
…なんだろう、この子達。眼鏡をかけている男の子が毛利さんの弟らしい。はは…と苦笑いしている。
放課後、猫探しの件について話があると言われてポアロに集まった。話というのは少年探偵団のこと。蘭が紹介するよー!とニコニコしている。名前はだらだらと冷や汗を流す。え?覚えないとだめ?


「この子達も猫探しを協力してくれてるの!」
「へ、へー…。」


すると歩美が名前の隣に座って目をじいっと見た。な、なんだろう…と引き気味の名前は目をぱちくりとさせた。すると歩美はにこーっと微笑んだ。


「お姉さんの目、凄く綺麗!キラキラしてる!」


見せて見せて、と少年探偵団はやってくる。名前はどうしていいか分からず、ちらりと蘭を見る。それに気づいた蘭は笑顔で「見せてあげたら。」と言った。名前はしゃがんで少年探偵団に目を見せる。
わいわいと賑わうポアロでコナンと灰原は隣のテーブルでジュースを飲んでいた。灰原は冷や汗を流していた。

(女の子…透き通る目…まさか…。)

「灰原、どうした?」とコナンは様子のおかしい彼女に声をかけた。しかし灰原は小さな声で「私…帰る。」と言ってポアロを出た。


「あれ、哀ちゃん、帰っちゃったの?」


カランカランとドアのベルが鳴り閉まる。すたすたと外を歩く灰原を見て歩美は首を傾げる。名前は茶色の髪…と何となく見つめる。


「猫はですね…ずばり!猫集会に行ってるんですよ!」


光彦は地図を出した。その地図にはいくつか赤い丸がしてあった。「僕達で、猫集会の場所を探してたんです!」と光彦が言うと皆地図を眺めて一緒に行こうという話になった。


「僕も行きますよ。毛利先生に頼まれましたし。」


安室もついて行った。わいわいと地図を見ながら猫集会があったところにいくつか行く。猫は沢山いた。可愛い〜!と歩美は楽しそうだった。1匹の猫に歩美は近づいた。おいでおいでー、と招く。すると名前は彼女の手をとった。


「ひっかかれるよ。その子は母親猫だから。」


未来を見たのだ。歩美がひっかかれる未来を。数秒後、その猫と同じ模様の子猫が二匹出てきた。母親猫は気性が荒い。
「そうなんだ!ありがとう!」不思議に思わなかった歩美は下がった。


「次行くぞー!」


とコナンは叫んだ。歩美は「うん!行こ!お姉さん!」と名前の手を握って引っ張った。名前はその小さな手を見つめた。

それから猫集会があるところをしらみつぶしに見て行ったが、依頼された赤い首輪をしている白猫は見つからなかった。皆「見つからないねー。」と話していた。
すると、するりと名前の鞄から何か落ちた。何だろう、と後ろにいた安室は拾った。落ちた拍子に紙入れが開いた。そこには『好きです。』の文字。それを見た安室はカチーンと固まった。


「…名前さん、これは…。」


?と名前は後ろを振り向く。安室の手にあるラブレターを見て「あ、落としたんですね。ありがとうございます。」と言って近寄った。


「…あ、あの、これは…?」
「ラブレターです。」


それが何か?と名前は言った。歩美は目を輝かせて「え!?ラブレター!?」と大きな声を出した。
ラブレター…え?ラブレター???と安室は混乱していた。
詳しく聞きたい。


「名前お姉さん、ラブレター貰ったの!?どんな人だった?歩美聞きたーい!」


子供って便利だなああー!そういうこと遠慮なく聞けるのが羨ましい。
歩美に感謝しつつ安室は名前の返事を待つ。名前はうーん、と考えて言った。


「下駄箱に入ってた。だからどんな人か分からない。」


じゃあ行こっか。と名前は歩美と前に歩いている蘭達について行った。残された安室はえ、え?と名前を追いかけた。それだけ?と。マンションに帰ったら聞き出そう…。
するとぴたり、と名前は止まった。じっと道路を見ている。「お姉さん、どうしたの?」と歩美は不思議そうに尋ねる。
一匹の白猫が道路を歩いてこちらに向かっている。


「…依頼された猫。」


その猫はよく見ると赤い首輪をしていた。「本当だ!」と歩美は道路に出ようとしていたが、名前は引っ張って阻止した。危ないよ、と。
そして次の瞬間、猫は車にはねられた。「きゃっ!」と歩美は青ざめて名前のスカートを掴んで顔を隠した。
名前は知っていた。猫が死ぬ未来を。でも助ける気は毛頭もなかった。


「助けないと…!」


と名前と歩美以外の人は猫に駆け寄った。「とにかく、動物病院に…!」とコナンは言う。まだ間に合うかもしれない。しかし後から近づいた名前は淡々と言った。


「死んでるよ。」



猫を動物病院に連れて行った結果、死んでいた。即死だ。そんな…と歩美達は涙目になっていた。ずっと探していたのに。
段ボールに入れられた猫には花が添えられてあった。ひっくひっく、と泣く歩美をちらりと名前は見る。空は夕暮れだった。


「どうして泣いてるの?」


名前には分からなかった。何故歩美が泣いているのか。「え?」と歩美は驚いた。
自分とは関係ない存在が死んで、なんで悲しんで泣いているのか分からなかった。泣くほど悲しい?どうして?
名前はただ疑問だったから聞いた。泣いた事がないから。
それ聞いた園子は口を開いた。


「あ、あんたねえ!目の前で猫が死んでショックじゃないの!?」
「?なんで?」
「なっ、なんでって…!」


園子はあり得ない、という顔をした。後ろでその様子を見ていた安室は眉を顰めた。

少しは仲良くなれたと思った。信頼関係が築けたと。
けどこの子は倫理観が圧倒的に欠如している。目の前で死を経験しても何とも思わない。

これは難しい問題だ。

これ以上、ここにいたら倫理観のずれに周りが彼女に違和感を抱き始めるだろう。


「皆さん、今日はもうお開きにしましょう。猫は明日依頼者の方に引き取ってもらいます。」


その様子はコナンは難しい表情で見つめていた。





後日は猫は飼い主の元に渡った。依頼者の娘は泣いていた。名前はその場にいた訳ではないが、安室から聞いた時はふーん、と興味が無さそうだった。


「…名前さん、何故あの時歩美ちゃんを助けたんですか?」


未来を見て親猫が歩美を引っ掻くのを阻止した時。
名前はクマのぬいぐるみの手を動かしながら答えた。


「死ぬ未来を知っていてもどうせ死ぬだけなので。」
「…未来は変えられますよ。」
「そうですね、でも危険な目にあってまで助けようとは思わないです。」


どうこの子を救えばいい?
命の大切さ、尊さをどう伝えればいい?

「今日の夕食は何ですか?」と名前は聞いた。前のようにしどろもどろで話さなくなった。それは信頼されている証。
そうだ、そういえば。


「…ラブレターを貰ったことについて聞きたいんですけど。」
「え?」


どうやらその後、男子から告白も何もされていないらしい。そもそも相手が誰なのかも知らない。
ほ、と安心した。
…?ん?安心した?



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