13

名前が意識が戻ったのは3日後の夜だった。視界もはっきりと見えていた。名前は私…何をしてたんだっけ…と思い出していた。なんで私はここにいる?組織の仕事をして…"目"を酷使しすぎて倒れて…その後は?…安室さんと何かあった気がする。
……キスされた。
全てを思い出した後暫く固まった。かああ、と顔を赤くした。


(待って…安室さん、組織の一員って…どういうこと?)


うーん、と考えたが分からない。
名前は寝室のドアを静かに開ける。電気はついていたが安室はいなかった。ほっとして名前は寝室から出た。
そういえば段ボールがある。引っ越すのかな。


「早く帰ろ…。」


と玄関に向かうと後ろから抱きしめられた。「ぎゃー!」と思わず叫ぶ名前は半泣きでおばけー!と大きな声を出した。すると後ろからぷっ、と小さく吹き出す声。


「名前さんはおばけが苦手なんですね。」
「!…あ、安室さん…。」


安室が名前を抱きしめていた。それに気づいた名前はおばけじゃなかった…と安心した…けど安心出来ない。警戒して安室から離れようとしたが、力が強くて腕から逃げることができない。
安室は風呂上りの様で髪が濡れている。


「は、離して下さい、」
「嫌です。」
「え?」


即答で驚いた名前は何が起こっているのか分からなかった。


「名前さんはここに住むんですよ。」


……今なんて言った?


安室さんは組織の人間だった。コードネームはバーボン。この前ベルモットが言っていた人か…。全然気づかなかった。安室さんはというと私が組織の者だと薄々気づいていたらしい。
早く噂の私に会いたかったらしい。…噂?


「知りません?"人形"の噂。」
「し、知らないです…。」


名前はソファに座って話を聞く。
組織に広がる"人形"の話をしてくれた。秘密裏に育てられている"人形"は私のこと。"人形"は特別な"目"を持つ。それは未来が見えるこの"目"のこと。


「組織からも正式に僕が次の世話役になりましたから、これからはよろしくお願いします。」
「よ、よろしく…。」
「名前さんの部屋は解約しましたから、荷物はあの中。」
「!!」


まさかと思っていたけれどあの段ボールは私の荷物。わー!ぬ、ぬいぐるみ!と私は慌てて段ボールを開ける。中にはぬいぐるみ達が入っていて安心した。ぎゅ、と大切に抱きしめる。…は!あ、安室さんいたんだった…。は、恥ずかしい…!私は恐る恐る安室さんを見た。
ジンみたいに壊される…。


「大丈夫ですよ、それは大切なものですもんね。」
「た、大切…。こ、壊さないんですか…?」
「そんなことしませんよ。」


し、しない…?なんで?
きょとんとする名前に安室は優しく頭を撫でた。…暖かいと名前は目を細める。

ブォーとドライヤーが鳴る。あの後、風呂に入った名前の髪を安室は乾かす。名前は気持ちいいのかうとうととしている。いつも乾かさないで寝ている。
でもそんな頭の中考えていた。
優しい…お願いがあるのかな。ベルモットもそうだ、優しくしてくれると思ったらいつもお願いがあった。だから安室さんもそうだと思った。
安室はドライヤーを切って「はい、乾きましたよ。」と優しく言った。


「…安室さんはお願いがあるんですか?」
「?ないですよ。」


お願いもない…?安室さんは変な人だ。


「それじゃあ寝ましょう。」
てくてくと名前は安室についていく。
名前が着ているのいつもの黒いパーカー。というか制服以外はそれしか持っていない。じ、と安室は止まってそれを見る。
そしてクローゼットを開けてスウェットを出した。


「これに着替えて下さい。」
「?」
「パーカー、汗かいてますよね?」


洗うので着替えて下さい、安室はもう一度言った。じ、とスウェットを見る名前は世話役の人の言うことは聞かないとな…と頷いた。
寝室で着替えて、パーカーを持って出る。予想以上にぶかぶかでズボンの裾を引きずって歩きづらそう。袖から手が出ていない。


「す、すいません。大きすぎましたね…。」
「大丈夫です。」


ベットは一つしかないので一緒に寝る。何の抵抗もない名前はすぐに夢の中に入った。まだ疲れているみたいだ。


夢を見た。とても熱い。周りは火の海だった。幼い私はボールを持っていた。逃げないと。でも足が重くて動かない。「…!……!」と女の人の声が聞こえる。火の海から火傷まみれの女性が走ってやってきた。


「ごめんね、ごめんね…!」


女性は泣いていた。
どうして泣いてるの?貴方は誰?ここはどこ?



起きると朝だった。隣で寝ていた安室さんはいなかった。時計がある…時計を見ると7時だった。
…学校に行かないと。
名前は夢のことは忘れていた。重い体をベットから出して寝室を出る。そこには安室がスーツ姿で準備していた。どこに行くんだろう。名前に気づいた安室は微笑んで「おはようございます。」と言った。忙しそうだ。


「すみません、朝食は冷蔵庫に…。僕は仕事に行ってきます。」
「…組織の仕事ですか?」


"目"が必要だろうか。やっとお願いが聞ける。
そう思っていた名前だが、違う。安室は降谷としての仕事があるのだ。だけど名前はまだ知らない。安室は名前の頭を撫でる。


「…今日は部屋でゆっくり休んでくださいね。」
「?お願いは?」
「ないですよ。」


まただ。またお願いはない。そして安室は部屋を出た。なんだかむず痒い。一人残された名前は朝食…と思いながら冷蔵庫を開けた。焼き魚があった。
部屋でゆっくり、学校は行かない方がいいのだろうか。…いつまで休めばいいんだろう。


「…いつもなら、次の仕事があるのに。」


私の体調なんて二の次だった。皆、"目"を必要としていたから。…安室さんは必要としてない?変わった人だ。
安室が組織の人間だと知った名前の印象は変な人だった。
朝食を食べ終わって名前は皿を洗った。その後、段ボールを持って寝室に入った。
「ふふーん、ふふーん、」と鼻歌を歌いながらクマのぬいぐるみを出す。それを寝室の床に置く。
全てを置き終わった後、ヴーとスマホが震えた。ジンからだ。名前は躊躇わず電話に出る。


『仕事だ。今から来い。』


体調の事は聞かれなかった。でも体調も良くなったし大丈夫だろう、組織の命令だ。行かないと。と名前は外に出ようとして、引き返した。…着替えないと。いつものパーカーを着ようと洗濯機を探して見つけた。中を見るとパーカーはまだ洗われてなかった。それを引っ張り出して名前は外に出た。


やってきたのはとあるホテル。インターフォンを鳴らすと中から入れ、と言われた。鍵は開いていた。名前は構わず入る。中にはジンだけだった。


「…バーボンはどうだ。」
「?どう…?」


何の話だろうか?世話役としての話を聞きたいのだろうか。


「…変な人だよ。」
「お願いはあったか?」
「…ない。」


空気が冷たい、名前はそう思っていた。安室といた時は暖かかった。けど何故だろう、ジンはとても冷たい。…仲間なのに。
すく、とジンは立ち上がる。「行くぞ。」と部屋を出た。名前はジンの後を小走りについていった。



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