12

ベルモットの運転するバイクのサイドカーに名前は乗る。未来を見ながらトラックを追跡する。追いかけて20分。
息が途切れる、不味い、疲れてきた…。
既に名前の体はボロボロだった。それにベルモットは気づかない。ベルモットは後ろをチラリと見る。後ろからパトカーが追いかけている。


「名前、ちょっと荒いかもしれないけど我慢してね。」
「え?」


ぐ、とバイクのスピードが速くなった。背中が反れる。バイクはトラックを追い越す。
「名前!パトカーの未来を見てて!」「う、うん!」と名前は視界を変えてパトカーに焦点を当てる。パトカーは右に曲がる。ならば、逆の方向に行けばいい。それをベルモットに伝える。
暫くしてパトカーを撒いた後、ベルモットは名前を下ろした。ベルモットは電話をしていた。


「ジン、パトカーは引き離したわ。後は任せたわ。ええ、私も合流するわ。」


ベルモットは電話を切って再びバイクに乗った。名前は「私は?」と口を開いた。
な、何もしてない…!


「貴方はここで待機。いい、組織の命令よ。」


組織の命令。名前は体が固まった。
ま、まただ…いい子にしてなきゃ…。言うこと聞かないと…。
名前は小さく頷くとベルモットはバイクを発進させた。一人残された名前はぐ、と拳を握りしめた。


「が、頑張らないと…!」



トラックが人気のないサービスエリアに停まる。ここで運転手が変わるのだ。ジンは隠れてそのタイミングを伺う。純を発砲する機会を。すると暗闇からじゃり、と足音が聞こえた。ジンはすかさず銃を向ける。


「…なんだ、バーボンか。お前は呼んでねえ筈だ。」
「こんばんは、ベルモットから呼び出しがありましてね。」


「ベルモット?」とジンは初めて知ったらしい。
暗闇から出てきたバーボンは視線を隠れているメンバーに向けた。


「周りをざっと見てみたのですが、ここにいるメンバーは6人くらいですね。」
「まあな、後でベルモットが合流してくるぜ。」
「"人形"と一緒に?」


その瞬間、ジンはバーボンに拳銃を向けた。何故"人形"のことを知っているのかと。バーボンは両手を広げて「ベルモットから聞いたんですよ。」と言った。じろりとジンはバーボンを睨む。


「残念だが、"人形"は来ないぜ。」
「そうなんですね。」


でもきっと彼女はここに来る。自分の意思で。
自分で決めて僕にお礼をしたいと言ったように。彼女は自分の意思を持ち始めている。
だから僕はここにきた。君を守る為に。




「はあっ…はあっ…、」
名前は路地裏を壁にもたれかかりながら歩いていた。体力の限界だった。視界が霞む。これじゃあ足手まといだ、と名前は膝を地面についた。


「…組織の役に立たなきゃ…。」


名前は足に力を入れて歩き出す。


「私の"目"が必要だから…。」




「あいつの目は特別でな。」ジンは煙草に火をつけた。他のメンバーがトラックに乗り込んでいる。銃声が聞こえる。しかし、ジンはそちらを見ようとしない。


「"人形"は色々と余計なもの持っていた。だから、組織で育てられたんだ。」
「余計なもの?」
「感情、意思、そして記憶。あいつは人間なのに"人形"として生きてきた。まあ、組織としては"目"の力だけ欲しかったからな。」


つまり、組織で感情や意思、記憶をなくしていった。"目"以外使う用途がなかったからだ。
何故、どこで、"人形"の"目"のこと知ったのか。
彼女は自分の出身すら知らなかった。つまり物心つく前から組織にいることになる。そんな幼い子供の未来が見えるという発言を大人が信じるだろうか。


「あら、バーボン。早いわね。」


こつこつとヒールの音が聞こえる。ベルモットだ。二人は声がした方を向くと目を見開いた。
ベルモットが名前を抱きかかえていたからだ。気を失って苦しそうに呼吸する名前にバーボンは少し動揺したが、「その子は?」と知らないふりをした。


「この子が組織の大切なもの、"人形"よ。」


頬を赤く染めて熱が出ている。早く休ませないと。
焦る気持ちを隠してバーボンは「へー、この子が。」とベルモットに近づいた。
やっと、"人形"に会えた。
そして、手に入れないと。逃がさないように隠して。
「僕が持ちますよ。」とバーボンは何気なく言い、ベルモットから"人形"を渡してもらい、抱き抱える。
体が熱い、これだけ体調が悪くなるほど何をされた…?
バーボンはまだ"目"を酷使する代償を知らない。


「"人形"は"目"を使いすぎると熱が出るのよ。昔からね。」
「へえ、そうなんですね。」


それほど彼女に"目"を使わせた証拠。いかに組織が彼女を物としか思っていないことがわかる。
怒りが込み上げてくる。が、それを表に出してはいけない。


「ところでベルモット。そいつはなんでここにいる。」
「知らないわ。この子から電話がかかってきて出ても無言だから戻ると倒れてるところを見つけたの。」


この辺りの近くだったわ、とベルモットは言う。
こんなボロボロの体でここに向かおうとしていたのだ。
一刻も早くここから離れなければ。彼女を救わなければ。
そんな心境を悟られないようにバーボンは明るく言った。


「僕、この子を連れて帰りますね。」
「あら、どうして?」
「こんなに熱が出ては使い物にならないでしょうし。元気になったら仕事に向かわせます。」
「そう、好きにしたら。」


ベルモットはひらひらと手を振った。彼は「じゃあ、帰ります。」と二人に背を向けた。その瞳は二人を恨んでいた。
この子は僕が大切にしないと…。ぎゅ、と彼女を抱く力を強くする。
ジンはバーボンを見据える。


「待て。」


ジンはバーボンに銃を向けた。それに気づいたバーボンは足を止めて少し振り返った。


「そいつは置いていけ。俺が管理する。」
「貴方は忙しいでしょう、下っ端の僕がしますよ。」
「…お前、何を考えている。」


その時、ジンのスマホが震えた。電話だ。ジンは舌打ちして電話に出る。トラックを襲撃していたメンバーの一人だ。
『すみません!トラックの荷物を調べたら全部偽札で…。』
再びジンは舌打ちをして電話を切った。その様子を見たバーボンは返事をせず闇に消えた。



「うっ…はあっはあっ…、」
未だ苦しそうにする彼女を降谷は部屋のベットに寝かせる。この前の熱より酷い…。降谷は彼女の汗を拭いて側に座る。熱い頬に手を添えると「嫌わないで下さいね…。」と呟いた。そして降谷はとある人に電話をした。
数分後、ピンポーンと降谷の部屋を誰かが訪れた。降谷は小走りに玄関に向かい出迎える。出てきたの警察医の男性。パーカーを着ていた。
彼は彼女を診ると降谷と寝室を出た。


「他に異常はないですが、酷い熱です。1週間は安静にしていてください。」


と薬を渡された。警察医の男性は帰っていった。
降谷は寝室に戻り、「名前さん、薬を…」と言おうとしたらワイシャツの胸倉を掴まれた。名前は起きていた。息を切らして虚ろな瞳で降谷を睨む。


「、お前…何者だ…!」


警察だとバレた…?未来で何を見た?いや、さっきの彼は僕のことを一言を警察だと言っていない。意識も朦朧している。誤魔化すしかない。


「貴方と同じですよ。」
「…?」
「組織の一員です。」
「な、!」


驚いた名前にすかさず降谷はキスをした。「何を…!んっ、」と力なく抵抗する名前を力づくで抱きしめる。頭を大きな手で押さえて固定する。彼女の呼吸が荒くなるが、舌を無理やり入れる。何とも言えない征服感が心を満たしていく。
降谷は口に入れていた薬を彼女の口に入れる。ぐ、と舌で奥に入れてねじ込む。


「は、名前さん…。」


華奢な名前を押し倒して、口を離すと銀の糸が引いた。降谷は彼女の口を手で押さえる。ごくり、喉が薬を飲む。再び彼女が眠ったことを確認すると降谷は手を離し、優しく抱きしめた。



[*prev] [next#]