うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

『Skyshine-calorific value T -』




skyshine : 地上の放射線源から上方に放出された放射線のうち、大気により散乱され地上に戻ってくるもの ⇒ 前作はこちら 



「そういえば、坂田」
「あ?」
昼休み、屋上で弁当代わりのメロンパンを齧りかけた銀時に並んで座っていた土方が話しかけた。
「テメー彼女…いんだっけ?」
「は?」
開いた口が塞がらない。
尋ねた本人はなんでもない事のように、自分の焼きそばパンに自前のマヨネーズをこれでもかと絞り出している最中だった。

「…いねーよ。何でいきなりそういう話になるわけ?」

幾分不機嫌な口調になるのは許してほしい。
誰だって、好きな相手にそんなことを聞かれた日には凹みたくなる。



坂田銀時は目の前の男、土方十四郎に高校2年の夏から絶賛片想い中なのだ。



「いや…なんか近藤さんがよ…」

また『近藤さん』かと頭を抱えたくなる。
もとはと言えば、この『近藤さん』と呼ばれるゴリラが銀時のクラスメートである志村妙にストーカー紛いの求愛行動を起こしていたからこそ、
お近づきになることになったのだが。

成績順、専攻順に振り分けられたクラス分け。
土方はA組、銀時はZ組。
接点の少ない彼らが、ひょんなことから一緒に登校するようになり、
ひょんなことで、共通の趣味あることを知り、
こうして、昼休みも共に昼食を、
休みの日には、映画や買い物に出かけるまでになっていた。

しかし、銀時の望むような進展はミジンコほども見つけることが出来ないまま3年の秋を迎えている。


「あのね、土方。俺、実はオメーのこと好きみたいなんですけど?」
「そうか、なら良かった」
あの日の夏の日の告白は、やはり通じていなかったらしい。

(まぁ、ドン引きされちゃって気まずくなるよりマシなんだけどね)
それでも、先ほどのようなことをサラッと聞かれると気が重い。

器用に、小さなパンの上に黄色い山を築いて満足そうに漸く顔をあげて銀時の方に顔を向けてきた。

「ほら、文化祭。最後にキャンプファイヤーすんだろ?」
「あぁ…」
学校の伝統行事というべきなのか、昏くなり始めた校庭で行われる恒例のキャンプファイヤーとダンスパーティ。
男女、示し合わせて参加するのが通例で、独り身で参加するには肩身が狭い行事だ。
しかも、3年生なら一緒に踊った相手と卒業後もうまくいくというジンクスがあるらしい。
だから、この時期慌てて駆け込みで相手を探す者が増える。

付け焼刃の相手と結ばれたってどうなのだと銀時あたりは冷めた目でみているのだが、
志村妙にご執心の近藤はなんとかして共に参加したいと躍起になっているのだろう。


屋上を吹き抜ける秋の風が彼の黒くて艶やかな髪を舞い上げる。


「んで?俺に彼女いねーことと何か関係あんの?」
「いや…いいのかなと思ってよ」
「?あにが?」
口いっぱいに含んだメロンパン。
表面の砂糖部分はさくりと甘いというのに、内側はさして糖度を感じない。
もさもさと食感は、まるで首を絞めるかのような今の自分の発言の効果を相乗させる。

「ほら…俺なんかとつるんでたら探せねぇだろ?」
「それ言ったら、オメーはどうなのよ?あ?何?相手くらい直ぐ見つけられるって?色男は」
「別に俺はんな付け焼刃の相手と行っても気ぃ重いだけだし」
「じゃ、いいんじゃね?」
ガサガサとレジ袋から二つ目のパンを取り出す。

「また、そんな甘ぇもんばっか…」
眉を顰めてはいるが、本気で止めるつもりもないのか、土方は缶コーヒーに手を延ばす。
二つ目はコロネ。


風がまた強く吹いた。
11月に入って、一段と冷たさを含む様になってきている。
そろそろ、屋上で昼食を摂るには限界が来ているのかもしれない。

「糖分は欠かせねぇけど、それよりも寒ぃ…それ寄越せ」
「やんねぇ」
屋上に上がってくる前に自動販売機で調達した缶コーヒーはまだ温かいはずだと手を延ばすが、さっと手を遠退けられた。

「あんでだよ」
「なんでもだ!大体テメーブラックはいつも飲まねぇだろうが!」
「だって、寒いんだもん」
「だもんっていうな!」
「土方のケチ〜」
口をワザと尖らせながら抗議するが、何か土方の様子がおかしい気もする。

(まさか、こっそり間接ちゅーとか思ってたのがバレたってわけじゃねぇよな)

「そ、そんなことより!来週!」
「あ?映画?」
「クラスの奴らと冬期講習の申し込み行くことになって…」
特進組の土方はもちろん大学に進学だ。
受験勉強もそろそろ本腰を入れなければならなそうなのに、土方は比較的のんびりと構えているようだったのだが、さすがに来月からは違うらしい。

「そ?じゃあ…次の週…ってあ、もう終わってんのか…」
「すまねぇ…誰か他の奴誘って…」
「いんや、いいや。行くなら一人で行くし。合わねぇ奴と言ったって面白くねぇ」
「…悪い」
謝りながら、やはり土方の表情は読みがたく、銀時は奥歯を噛みしめる。
確かに、申し訳ないといいながら、他の人間と行かないと言った途端に安堵したような、それでいて自己嫌悪に陥ったような、奇妙な顔つきをする。

(なんだろうなぁ?)

3つ目のパンを取り出しながら、土方に気がつかれないように小さく溜息をついたのだった。






一人で出かけた週末。
久々に一人でみた映画。
パンフレットを一人でコーヒーショップで眺めていてもなんの味気もない。
追加したはずのホイップクリームは心持ち少ない気がするし、チョコレートソースはやけに苦く感じる。
このところ一人でこんな時間を過ごすことが少なかったからだろうか。
「折角のクランチーキャラメルフラペチーノなのになぁ」
ひとりごちてみても、突っ込んでくれる土方はいない。

「銀さぁぁぁんん」

後方から呼ばれ、げっと口の形を歪める。
振り返らずとも聞きなれた女の声だ。

「聞こえてるのに、嬉しくって振り返らないのね!それともそういうプレイなのぉ?」

どうやら、店に入ってきたところで銀時を見つけたらしいが、注文するためにならんでいるのか列の真ん中で恥ずかしいほどのテンションを晒していた。
「やだ!もう銀さんったら!学校じゃないんだから!二人の仲を隠す必要なんてないの!」

「なんだ、猿飛と坂田って外では付き合ってんのか?」
他人のふりを決め込もうといたとき、別のぼそりとした声が耳に届き、慌てて振り返った。
「ヒ・ミ・ツだから、土方くんも言いふらしたらダメなんだぞ?」

「なぁに勝手なこと言ってくれちゃってんだ!このドエム女が!」
慌てて席を立ちあがり、怒鳴り返す。
迷惑なストーカー女こと猿飛あやめの隣に並んでいたのは、土方その人だった。

「え?なんなの?親友の土方君に『俺の彼女』って紹介してくれるの?銀さんたら!さっちゃんはいつでも準備万端だぞ!」
「なんの準備だ!なんの!テメーこそ何で土方と二人でデートしてくれちゃってんの?!」
「あら。銀さんたら可愛い。ヤキモチなんて必要ないのに!私の愛は銀さん一人のものなんだから!」
「へぇ…」
土方の声がこれまで聞いたことのないような低さをしていることに更に慌てて弁解のようなものを叫ぶ。

「ちょ!土方!違うからね!んなんじゃなからな!むしろ俺がヤキモチ焼いてんのは…」
「猿飛、コイツとゆっくりしろよ。予備校紹介してくれて助かった。行こうぜ」
「気が利くじゃない!」
別に猿飛と二人というわけではなかったらしい。
土方と猿飛の後ろにやはり並んでいた数名の学生が頷き合って列を離れていった。

「だから!土方待てって!」
へばりつくように銀時の腕に掴まる猿飛を引きはがし、さっさと店を出ていこうとする土方を追いかける。

「土方!」

声は聞こえていたのだと思う。
だが、黒く小さな頭はこちらを振り向くことなく、人込みにあっという間に紛れてしまった。

「何怒ってんだ?」
さっちゃんが銀時にああいった態度を取るのは今始まったことではない。
それこそ、ところ構わず教室でも、廊下でも、銀時を見かけさえすれば追いかけてくるのだ。
そんな状況を初めて見たという訳ではない。
なのに、今更何故あんな態度をとるのか。

「なんなんだ?一体…」

日曜の午後、人のあふれかえる道の真ん中で銀時は唖然として立ち尽くす。

結局、フォローのメールも、何が原因かわからないために何を書いていいのかさえ分からないまま月曜の朝を迎えることになったのだ。






確かに、別段約束等したことはなかった。
ただ、土方を怪我させるという一件があってから、昼休みは屋上で、
土方の部活と銀時のバイトの休みが合えば、帰りにCDショップや本屋に寄り道する。
それが、当たり前になっていたというのに。
土方は三日連続で屋上へと顔を出さなくなってしまった。

唯でさえ、居られる時間が『オトモダチ』としても少なくなっていくであろうと思い知らさせた矢先にこれはないと思う。
思い切って、敷居の高いA組に顔を出すことにした。

「ヅラ」
A組を銀時が立ち寄ることはあまりない。
一つは、これまで特進組の知り合いなど、幼馴染の桂か猿飛あやめぐらいしかいなかったからだ。
教室の空気がゆるすぎるZ組と大違いだ。
昼休みだというのに、すでに教科書とにらめっこしている人間がちらほらとみられる。
しかし、その中にも土方の姿は見当たらない。

「ヅラではない!桂だ!」
「あ〜んなのどーでもいいから。土方今日休み?」
人の名前をキチンと言えないとは情けないとブツブツ言いながらもいつものことなので、お互いそれ以上長引かせはしない。

「いや、あの男は…そう言われたらおらんな。休みではないはずだが」
「失礼」
声に振り返ると、メガネの男が中指でフレームを押し上げる仕草をしながら立っていた。
「土方君なら部室に行くとかなんとか言っていたような気がするが…」
「あ〜あんがと?」
値踏みするような視線にむっとするが、一応礼を言っておく。
「君が坂田君か…?」
「そだけど?アンタは?」
「僕は伊東だ。土方君がガラの悪い人間と付き合いがあるというのは本当のことだったんだな。残念だ」

喧嘩を売られている。
明らかな敵意のようなものを感じ取る。
人と違う容姿の為に絡まれることも多いから、そういう風に言われることにも慣れている。
慣れっこだから変な偏見がある人間にいちいち構ってなどやらない。
普段ならば。

「どういう意味だ?」
「おい!銀時!」
桂が銀時の腕を引く。
険悪になりつつある雰囲気をいち早く察したらしい。

「土方君ももう少し頭のよい人間だと思っていたのだが、底が知れる…」
「テメっ!」
相手の胸座を掴みあげるのは簡単だと思った。
だが、その前に身体が止まった。
「伊東!」
「銀時!」
桂が銀時を、伊東を土方が引いたからだ。

「土方」君」
「テメーら、何やってやがる!」
土方がキツイ視線で2人を睨み付けるが、伊東に怯む様子は見受けられなかった。
「やはり、すぐ手が出るこんな男だ。土方くんも友人は選びたまえ」
「うっせ!俺が決めることだ!伊東は口を挟むな。話がややこしくなる!」
「しかし!」
明らかに何か言いかけるのを土方は止めた。
「黙ってろ!坂田テメーもだ!んなことで突っかかるテメーじゃねぇだろうが!」
「けど!」
「銀時!予鈴が鳴る!さっさと自分の教室に帰った方がいい!」
桂が慌てて、銀時を教室の外へと押し出す。
Z組のマダオ担任とは違い、A組はエリートを鼻にかける佐々木だ。
他のクラスの生徒がウロウロしていると面倒なことになるのは明白だった。
「ひじ…」
ぴしゃりと鼻の先で無情にも閉じられた扉に銀時は盛大に舌打ちを一つした。








『Skyshine-calorific value T-』 了





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