壱最近のことだ。 江戸城に国盗りだと乗り込んだ馬鹿がいた。 銀髪の跳ね返った髪をした一人の侍と、 眼鏡をかけた少年と、 幼いながらも戦闘民族夜兎の力を秘めた少女と、 そして、吉原の番人・百華の統領を務める金髪の女。 彼らは互いの指に、 互いの髪を巻きつけて戦った。 それぞれを信じて、 それぞれの持ち場を、 それぞれの背を預けて護り抜いた。 土方十四郎もその場にいた。 少年と少女と同じく屋外に居たが、顛末は見届けた。 ぼろぼろになって約束を護り抜く侍を女は何度も呼んでいた。 銀時、銀時と何度も。 ぬしは馬鹿じゃと罵りながらもその身を案じて。 「銀さん」 「銀ちゃん」 彼を慕う万事屋の子どもたちも駆け寄った。 互いの顔と同じように指に髪に微笑み、一つの輪が出来ていた。 まるで家族の様な光景だと、 土方は何処か別の次元の、 何処か映画のワンシーンを見ているような心持でその様子を遠目でみていた。 自分はそこに入ることが出来ないと。 別の世界のようだと。 覚悟していた「いつか」が来たのだと。 土方十四郎は己が預かる真選組に指示を出しながら、凍えた心の片隅で感じていたのだ。 「」 一度として呼んだことのない名を音を出さずに呟きかけて、 そうして、止めた。 『結ぼる 壱』 了 (140/212) 栞を挟む |