T『Never stop』は当サイトのシリーズにおいておりますZ3設定のパラレルです。 今回はその二人が密接な接点を持つ前の年度。 坂田くん2年Z組のころのエピソードを書かせていただいております。 本篇をお読みになっていなくても ◆元教え子銀時が元担任土方を追いかけてW教師…という現在 ◆銀時は中学3年の時に両親を交通事故で亡くしています。 ◆また土方先生も大学在学中、恋人であったミツバさんを事故で失った過去があります。 という点だけ押さえていただいておけば、単独でも読めるのではないかとm(__)m 10月6日(日) 締め切っていた窓を開けると、秋の爽やかな風が室内に入ってくる。 気持ちがいい。 さほど暑くもなく、寒くもない。 過ごしやすい季節。 「ん…」 その風で意識を刺激されたのか、布団がもそりと動いた。 少しだけ覗いている銀色の跳ね返った髪だけ見れば、まるで大きな犬か何かのようだと土方は声を立てずに笑った。 しかし、その正体はけして愛犬なんて可愛らしい代物ではない。 身長は土方に追い付き、腰回りは追い越した立派な成人男性。 そして、土方の同棲している恋人でもある。 もそりとまた動いて、布団から今度は目までをのぞかせてきた。 まだ眠り足りないと主張していたが今日の予定が関わってくることであるから構わず話しかけた。 「今年もケーキはいつもんことでいいのか?」 「何?」 「誕生日、ホールで頼むんなら前日までに電話してねぇとならねぇだろ?」 顎でカレンダーを示してやれば、あぁ、と男は納得したようだ。 今年の10月10日は木曜日。 いつもの店であれば、定休日が水曜日であるから火曜までに予約しておく必要がある。 もそり、と三度動いて、今度は両腕までが布団から出てくる。 「ん…あそこに拘ってるわけじゃないんだけどね…」 「そうなのか?」 一緒に住むようになってからリクエストを取れば、必ず同じ店のケーキを指定してきたというのにどういうことだと眉を顰めれば、少し言いづらそうに跳ね返った髪を更に掻き混ぜて答えてくれた。 「あそこのチョコスポンジが一番似てるから、毎年十四郎にお願いしてたんだけど…」 「なんだ?本当は本命が別にあんのか?」 「本命っつうか…一回だけ食べたことある店のケーキがさ、忘れられなくって」 「どこの店かわからねぇのか?」 ベッドのふちに腰かけ、柔らかな銀髪を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めて、土方の手に懐いてきた。 坂田銀時。 年下の同性の恋人、元教え子にして、現同僚。 彼が高校二年の時、副担任として配属させられ、そのまま三年の担任を任された。 それから、彼を土方の理由で、拒み、試し、そして手を取ったのは彼が大学を卒業してからのこと。 「うん…小さな店のだと思うんだけどよね。ケースにぽんって賞味期限のスタンプだけ押してあっただけだったから」 撫でていた手を取られ、手のひらに唇を寄せられれば、そのくすぐったさに少し緊張する。 「ふぅん…ご両親が買ってきてくれたものだったのか?」 「いや…そうじゃなくて。高2の誕生日に誰かわかんねぇけどくれたケーキ」 「高2…?」 ちゅちゅっと手のひら中をキスされながら、今度は違う意味で筋肉を強張らせた。 「そ、先生追っかけまわし始める前。丁度、彼女と誕生日前に別れちまって、もうちっと我慢しとけばよかったなって思ってた時に学校の机の上に置かれてたんだよな」 「最低だな…」 天然パーマをコンプレックスにしている風でいて、その実、彼女を頻繁に変えていたことは知ってはいたのだがワザと低い声で言ってみる。 「今は十四郎一人ですぅ」 今度は強く手を引かれ、銀時の上に抱きとめられる。 あの頃のような成長期の身体ではない、がっしりとした腕が土方の腰を固定した。 「そこのケーキがいいのか?」 「別に、あれはどこのだったのかなって、いつも思うんだよね誕生日ケーキっていうと」 身体を少し浮かして、唇を指でなぞった。 「誰から、って知りたいのが先じゃないのか?普通」 「そういや、そうだな。 手作りとかだったらひいちゃってたんだろうけど、そうじゃなかったからかな。 なんか、そっと見てくれてるやつもいんのかなって、ちょっとほっこりした記憶の方が強いんだ」 「そうか…」 土方の方からそっと唇が寄せ、舌が差し込む。 朝、と辛うじて呼べる時間ではあるが、日も十分高い時間に、 くちゅりと舌が互いの口内を行き来して唾液が絡んだ。 「あれ?やきもち?」 「違ぇよ…」 互いの体温が、身体の重さが気持ちがいい。 ミツバを失った自分。 両親を失って寄る辺のなかった銀時。 思春期の思い込み、一過性の激情、 傷の舐めあい、依存。 2人の関係はそんなもので成り立っているのではないかと無駄に恐れたこともあった。 でも今は、銀時が与えてくれる深い愛情に溺れても、精神をすべて受け渡しているわけではない。 そう自信を持って言える。 密着した状態で相手の体温を感じられるようにと、シャツのボタンをはずして入ってくる暖かい手のひらを感じながら、教師という職に就いた最初の年のことを思い出していた。 『Never stop -earlydays- T 』 了 (109/212) 栞を挟む |